【独自】日本語わからない子「7割が特別支援学級」の市も。鳥取・香川・静岡で高い割合。自治体任せの日本語指導

【前編】はこちら >> 日本語わからず特別支援学級に。「かわいそうだから」と判断される外国人の子ども、閉ざされる学び

日本語が母語でない外国人の小中学生らのうち、障害児向けの特別支援学級に在籍する児童生徒の割合が、鳥取県では14.8%(6人に1人)で、全国平均の約3倍に上ることが、ハフポスト日本版の調べで分かった。

2021年度に文部科学省が初めて行った全国調査をもとに算出した。

香川県や静岡県でも約10%(10人に1人)と全国平均のおよそ2倍。静岡県内のある市では「日本語の指導を受ける必要がある小中学生、約200人のうちの約7割が特別支援学級に入っている」という実態も、ハフポスト日本版の取材を通して明らかになった。

外国人の小中学生の就学環境をめぐり、著しく大きな地域差が生じていることが浮き彫りになった。

日本語を学ぶ必要のある小中学生のうち、特別支援学級に入っている子どもの割合が高い都道府県

文科省の全国調査では、母語が外国語であるなどの理由で日本語を学ぶ必要のある小中学生の5.1%(20人に1人)が、本来は障害児向けの特別支援学級に在籍していることが判明している。小中学生全体に占める同学級の在籍率(3.6%、28人に1人)と比べると、1.4倍の高さだ。

日本語での学習に苦労する小中学生の受け皿として、特別支援学級が“活用”されているとみられる。

専門家は「小中学校で日本語を教える体制が十分でない自治体ほど在籍率が高くなる傾向にある」と指摘し、環境整備の必要性を訴えている。

「問題がある」の一点張り

「あの日のことは、今でも信じられません」

静岡県のとある市に住むブラジル人の女性がそう振り返るのは、娘のジュリアさん(仮名)が初めて知能検査を受けた日のことだ。

5歳で来日したジュリアさんは、小2の頃、知能検査を受けることや特別支援学級に入るよう、通っている公立小の教員から強く勧められた。知能検査の結果、当時の知能指数(IQ)は40程度だったという。

ただ、女性は「次の年から、IQは10ずつ向上しています。あの頃はまだ、娘は日本語が上手ではなかったから、低い数値が出たのだと思います」と話す。医師からも日本語力の課題が指摘され、「能力の面は大きな問題ではない。教えてくれる教員が隣にいれば、学習にもちゃんとついていけるだろう」と説明されたという。

しかし、小学校側は「問題がある」との一点張りで、特別支援学級に入ることを拒むことはできなかった。

小3から特別支援学級で学び、現在、中学生になったジュリアさん。「検査を受けた当時は日本語がわからず、授業で理解できたのはわずか10%程度でした。学校に行きたくなくて泣いていました」と振り返る。

女性は「来日してから2年も経たない娘に対し、学校側はとても厳しい態度でした。学校の方こそ、外国人の子どもを教える準備ができていないと感じました」と話す。

2022年3月、特別支援学級に在籍したまま公立小学校を卒業したジュリアさん(左)と、母親(プライバシーの観点から、画像の一部を加工しています)

同校を運営する市教育委員会によると、「市内では日本語の指導を受ける必要がある小中学生、約200人のうちの約7割が特別支援学級に入っている」という。

日本語を教える担当として市内に追加配置されている正規教員はわずか6人で、教員1人で30人以上の子どもを受け持つ計算。2021、2022年度は、全体的な教員不足のあおりで、教員の欠員が出た場合に日本語担当の教員を担任に当て、代わりに日本語を教えるクラスのための授業を開かなかった時期もあったという。

市教委の担当者は「日本語を教える教員が足りず、日本語がわからない子どもは通常の学級の中では『座っているだけのお客さん』の状態になってしまう」と説明。その上で、「少人数の特別支援学級にいて教員やクラスメイトとかかわれる方がいいという苦肉の策として、特別支援学級に入れている面もある」と話す。

ジュリアさんは進学した公立中でも特別支援学級に入った。日本語は週末に通った学校外の日本語教室で教わり、少しずつ身につけてきた。ただ、特別支援学級では通常の学級とは異なるカリキュラムが展開されていたことなどから、学習の遅れを自覚している。

「私が特別支援学級に入れることをOKしたせいで、娘の人生を大きく左右してしまったのではないかと、今でも悔やんでいます」

女性は唇を噛み締める。

特別支援学級の“活用”に地域差

女性と娘が住む静岡県では、日本語が母語でなく指導が必要な小中学生らのうち特別支援学級に在籍する割合が9.1%(10人に1人)で、5.1%という全国平均の1.8倍に上る。

全国平均との差が大きく開くのは、同県だけではない。最も高かったのは鳥取県の14.8%(全国平均の2.6倍)、次いで香川県の9.8%(同1.9倍)、静岡県と続く。

日本語での学習に苦労する小中学生の受け皿として特別支援学級が“活用”される例は後を絶たない。背景には、各地の公立校で日本語を教える体制の整備が追いついていない事情がある。

日本語を学ぶ必要のある小中学生のうち、特別支援学級に入っている子どもの割合

ただ、特別支援学級は障害児のためのクラスと法令で決まっており、日本語を専門的に学べる場ではない。このため、日本語の定着度を主な理由として特別支援学級に入った外国人の子どもは、本来必要とする教育の機会や将来の選択肢を奪われてしまう恐れがある。

特別支援学級での学習内容は通常の学級とは異なるほか、公立高の出願要件を満たさないこともあるなど、進路に大きく影響する可能性もある。

文科省は2021年度以降、「外国人の子どもたちに障害がないにもかかわらず、日本語能力を理由に、特別支援学級に入れるのは不適切」と注意喚起している。しかし、どのような改善策を講じるかは、依然として自治体任せとなっている。

在籍率が高い自治体の共通点は…

在籍率の高かった県の教育委員会は、次のように説明する。

「特別支援学級に入るための手続きは適切で、入ってからも丁寧に支援をしているため、特別支援学級に入っている人数の多さは何の問題もないと認識している。

ただ、県内では外国出身の子どもらを教えた経験のない教員が大多数なので、日本語のできない子どもが入学や転入してきた際にどう支援したらいいか、対応する教員が困っているのも事実。日本語を教えるための教員数が絶対的に足りていないことは、最も重要な課題だ。

慣れない日本の学校で知らない言語を使って生活する子どもを支えるために、国には教員の追加配置を進めてほしい」(鳥取県教委・小中学校課)

「各市町村教委で行っている検査の結果に基づいて、特別支援学級に入るかどうかを決めている。日本語を苦手とする児童生徒が日本語で検査を受けている場合があるとみられる。

県内では近年、外国出身の子どもが増え、学校現場が対応に戸惑っているのも事実。県としては、日本語を指導できる教員を増やすため研修などを実施し、日本語が母語でない子どもたちの教育環境を改善する方針だ」(香川県教委・義務教育課)

「日本語力が低いだけか、障害があるのかの違いを正確に見極められる専門性を持つ教員がおらず、学校現場では判断に苦慮しているようだ。なぜ特別支援学級に外国出身の子どもらが多いのか、原因の究明が必要だと考えている。

県としては、市町村によって外国人の児童生徒らへの支援体制に格差が生じないように、教員の追加配置をしているが、人材は不足している。実際に現場で子どもにかかわる教員たちに、日本語の指導方法がなかなか行き渡らないことも課題だ」(静岡県教委・義務教育課)

ハフポスト日本版のデータ分析では、地域に外国出身の子どもが多いか少ないかが、特別支援学級にいる子どもの割合の高さとあまり相関関係がないことも分かった。

例えば、割合の高さで上位に入った3県のうち、静岡県は外国出身の子どもが多い「集住地域」、鳥取県や香川県は少ない「散在地域」。人数の多さ以外の要因が、特別支援学級にいる子どもの割合の高さを左右している可能性がある。

その要因として推測されるのは、教育委員会の対応や、自治体の財政状況などだ。

外国人の子どもの教育に詳しい東京外国語大学の小島祥美准教授は、「日本語を教える体制が十分に整っていない自治体ほど、在籍率が高くなっているとみられる」と指摘する。

特に、日本語を教える担当の教員を配置する人数を決めるのは都道府県や政令市であることから、「日本語の指導の必要性を判断したり、教えたりできる教員を確保できていないことが、県単位の在籍率の高さに影響している可能性が高い」と分析する。

静岡県のように外国人住民が多く、長年にわたり外国人の子どもに対する支援を展開してきたイメージを持たれやすい自治体でも、在籍率が高かった。

この点、小島准教授は「来日する子どもの言語や(母国での)就学歴、家族構成などの背景は、年々より複雑になっている」と指摘。新型コロナウイルスの影響も相まって、外国人の子どもたちの経済状況や来日前の教育環境などはさらに多様になっているといい、「従来の画一的な対応では通用しない部分が出てきている」と分析する。

「外国人の子どもたちが抱える課題をさまざまな観点から捉えなければ、支援策や判断を見誤る可能性がある」

都道府県間で差が広がっているのは、国が公立校での日本語教育の体制整備をほぼ自治体任せにしていることの裏返しでもある。小島准教授は「日本語を教える教員の更なる追加配置を、国が先頭に立って進めていく必要がある」と話す。

指導者不足を解消するには、専門の教員の養成もカギになるという。

「学校で日本語教育だけを切り分けて取り組もうとすると、各教科を学ぶために必要な力をつけられないままになってしまう。

子どもの年齢などに応じて日本語や母語の能力を評価をしながら、各教科の学習を支える言語力を育てられる教員を養成する仕組みを確立しなければならない」

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉

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