「このヘルジャパンを少しでもマシにするのは私たちの責任」。JJ(熟女)が若者にジェンダーを教えたら、どうなった?

「『男はこうあるべきだ、という自分の思い込みに気づいた』『世界の見え方が変わった』と言ってくれる子が多くて、本当に嬉しいです」。

中高生にジェンダーの授業を行い、若い世代のジェンダー平等意識の高さを肌で感じているという作家のアルテイシアさん。著作『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』の中でも、彼女が出会った中高生の声がいくつか紹介されている。

日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位。着実に変わりつつあるところと、なかなか変わらないところ、そのはざまで葛藤を感じつつも、「次世代に伝えたい」「次世代を守りたい」という情熱を持って活動するアルテイシアさんに話を聞いた。

前編はこちら:上司に「女の子がいるとやっぱり花があるねえ」と言われた……どうする?

「自分もフェミニストだと気づいた」という男子中学生

──中高生にジェンダーの授業をすると、冒頭にあったようなポジティブな反応が多いんでしょうか? 若い世代のジェンダー感覚が気になります。

アルテイシア:そうですね、一番多い感想は「フェミニストのイメージが変わりました」だと思います。やっぱり、ネガティブなイメージを刷り込まれている子が多い。萌え絵に文句をつけてるおばさん、オタクの敵、男嫌い、みたいな。

私は男子校に呼ばれることも多いのですが、「フェミニストの敵はセクシスト(性差別主義者)です」と説明して「ジェンダー平等になったら、みんなが生きやすくなる。女性だけが関係する問題じゃないんだよ」「フェミニズムっていうのは、性差別をなくすことでみんな違って当たり前の社会、誰も排除されない、共生できる社会を目指しているんだよ」と、男子学生にも伝わるように話すことを意識しています。「授業を聞いて、自分もフェミニストだと気づいた」という中学生の男の子の感想もありました。

──若い世代のジェンダー平等意識は高いと思いますか?

アルテイシア:全体的に高いと思います。授業も熱心に聞いてくれて、休み時間まで並んで質問してくれる子たちが多いです。どうしても、カリキュラムに自由度のある私立に行くことが多いのですが、最近では公立にも呼んでいただくこともあります。

学校によって生徒さんたちのバックグラウンドも異なるので、それに合わせて話す内容も変えています。たとえば進学せず就職する子が多い高校だと、社会人になって性差別やセクハラに遭ってしまう前に……と、どうしても護身術の伝授に力が入りますね。

「自分はそんな国に住んでたのか!」驚く中高生たち

──学生時代までは男女平等が割と守られていて、社会に出て女性差別に出会う、という話は「あるある」だと思います。中高生には「女性差別なんてもうない」という感覚もあるのかな、と思ったのですが……

アルテイシア:まず、ジェンダーギャップ指数を計る「政治」「経済」「教育」「医療」の4つの項目があると説明して、政治分野は146か国中139位で、これは中東のサウジアラビアより低いんだよ、って言うと、みんな衝撃を受けるんですよ。「自分はそんな国に住んでたのか!」と。社会で「決定権を持つ層」に女性が少なすぎる、という話を最初にするようにしています。

教育の分野では日本は1位ですが、中身を見るとジェンダーギャップがあるんですよね。東大の女子比率は2割とか、医大の不正入試とか……。

──確かに、社会の構造を説明する上で、ジェンダーギャップ指数の項目はわかりやすいかもしれません。フェミニズムは女性だけの問題ではない、と理解しやすくなりそうです。

アルテイシア:そうなんです。本でも紹介しましたが、「フェミニストに対して “男嫌いの過激なツイフェミ” というイメージを持っていました。よく知らずに誤解していた自分を反省しました」という男子高校生の感想もありました。授業や講演では、男性にも伝わるように話すよう心がけています。男性が変わらないと性差別や性暴力はなくならないし、社会は変わっていかないから。

子どもたちは学んでいる。大人たちは?

──逆に、ネガティブな反応はあったりしないんでしょうか?

アルテイシア:ちょっとこれは極端ですが、たまにネトウヨ少年みたいな子はいますね。最近、クラスに1、2名はいる、と学校の先生たちからも聞いたりします。そういう子たちは、事前に私のリサーチをすごくしてくれて、「パヨクのフェミが来るぞ!」みたいなテンションで迎えてくれたり(笑)

もちろん政治信条は自由ですよ、と前置きしたうえで、差別的な発言が出た場合は注意するようにしてます。それも周囲の大人やネットの影響が大きいのかなぁ……と思います。「オギャー」と生まれた瞬間からネトウヨな人はいないわけですから。

彼らの多くは、「中国・韓国から加害者扱いされてつらい」、ジェンダー問題では「男が加害者扱いされてつらい」という、つらさや傷つきを抱えている気がします。

だから、過去の戦争は過去の政府が起こしたことであって、私もあなたも直接その責任を負う必要はないよ、でも、歴史を知って向き合って、後世に伝えていく責任はあるよね、と伝えます。『進撃の巨人』の引用なども使いながら。

国家=自分、男=自分、という意識をいかにときほぐしてあげられるか、を意識して声掛けをします。彼らが、何年か後に「なんか授業であんなこと言っていた人がいたな」と思い出してくれればいいなぁ、と思っているのですが。

──大人の責任が重大だと改めて感じます。

アルテイシア:本当にそう思います。

この前、イベントに23歳の男の子が来てくれたのですが、彼は尊い「フェミ男子」だったので、どうしてそういう仕上がりになったの? と聞いたら、父親が「男尊女卑マン」だったと。で、ピアノを子どもの頃から習っていたそうなんですが、その先生が「あなたはあなたのままでいいんだよ」と言ってくれて、初めて自己肯定感が芽生えて、父親を反面教師にできたと教えてくれました。

子どもの周りには、そういう先生のような、ジェンダーの呪いを解いてくれる大人が必要です。本にも書きましたが、子どもは周りの大人を手本にして育つので、その大人がまずジェンダーを学ぶことが本当に大切。このヘルジャパンを少しでもマシなジャパンにするというのは、私たちの世代の責任だと思うんです。

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アルテイシアさん・プロフィール

アルテイシアさん

作家。神戸生まれ。オタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』でデビュー。ユーモアあふれるその文章には性別を問わずファンが多い。著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『モヤる言葉、ヤバい人』など多数。

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「このヘルジャパンを少しでもマシにするのは私たちの責任」。JJ(熟女)が若者にジェンダーを教えたら、どうなった?

Chiaki Seito