囲碁とAIの対局を分析した研究で、「AIが人間の進化を促している」ということを示す新たなデータが登場しています。
*Category:サイエンス-イノベーション Science, innovation *Source:garymarcus ,@ARGleave ,Scientific American
囲碁AIvs人類 競争の歴史がもたらした変化
2016年、Googleが開発したAI「AlphaGo」が、囲碁で当時の世界王者、イ・セドル氏を、5ラウンド中たった1ラウンドしか取らせないという圧勝で破り、大きな話題となりました。
これは、1997年にチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ氏がIBMのDeep Blueに敗北して以来の衝撃でした。囲碁のルールは黒と白の碁石を順番に打ち、広い陣地を囲ったほうが勝ちという単純なものですが、AIが人間に勝つにはより難解な挑戦とみなされていたのです。
2016年の敗戦後の記者会見で、セドル氏は「(AIの)スタイルは異なっており、私が適応するのに時間がかかる非日常的な体験だった」とコメント。「AlphaGoのおかげで、もっと囲碁を勉強しなければならないと思いました」と述べました。
それから7年後、AIに勝利したのはケリン・ペリーヌ氏というアマチュア選手でした。彼は15回の対局で、現在の囲碁のトップAIシステムである「KataGO」を14勝1敗で破ったのです。
この勝利は、カリフォルニア大学バークレー校の学生であるアダム・グリーブ氏が、コンピュータ科学者スチュアート・ラッセル氏と協力して発見した、囲碁AIを騙す特定の方法を利用したものです。
Even superhuman RL agents can be exploited by adversarial policies. In https://t.co/bXA0ckKnOH we train an adversary that wins 99% of games against KataGo set to top-100 European strength. Below our adversary = plays a surprising strategy that tricks = into losing. pic.twitter.com/CJ0ghfXD8D
— Adam Gleave (@ARGleave) November 2, 2022
ペリーヌ氏の勝利は、膨大な量のデータで学習させたAIがいかに優れていても、意表をついたような攻撃に弱いということを思い起こさせるようなものです。しかしその一方で、AIのような敵対的存在が「人間の進化を促している」という説も登場しています。
囲碁のヨーロッパ王者だったファン・ホイ氏は「AlphaGo」に破れた後、この試合によってゲームの見方が「まったく違った」と語っています。その結果、棋力は大幅に向上し、彼の世界ランキングは急上昇したのです。
米国科学アカデミー紀要に掲載された研究では、数十年にわたるプロ棋士の手の記録から、AIの登場後に人間の打つ手がどのように変わったのかが調べられています。同研究では、1950年から2021年までの対局で記録された580万手のデータベースを、AIシステム「KataGo」の判断と比較しました。
これによると、AIが人間の囲碁王者に勝つ前、人間の意思決定品質、つまり新たな手を打つレベルは66年間もの間、ほぼ均一だったとのこと。しかし、2016年から2017年、つまりは囲碁で人間を超えるAIの登場を境に、意思決定の質のスコアが上昇し始めたのです。
「人間のプレイヤーが、これらの新しい発見を自分のプレイに取り入れ、これほど早く適応したことは驚きです」と、AlphaGoプロジェクトのリーダーであるデビッド・シルバー氏は述べています。
これらの結果は、人間がこれらの発見に適応して構築し、その可能性を大きく高めることを示唆しています
AIについては、便利とされる一方で「人類を滅ぼす」などと危険視する声もありますが、人類はそう弱くはないようです。今後も人間を超えるAIが登場するたびに、人間もまたそれを学習し、新たなステージへと進化していくのかもしれません。
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囲碁AIに負けた人類に「激変」対局データが示す驚きの相互関係