シリコンバレーバンクなどの破綻をどう見る? 専門家は「危機当初はリスクを過小評価しがち」と注意を促す

アメリカ・カリフォルニアのシリコンバレーバンクの支店(2023年3月13日)

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アメリカの中堅銀行、シリコンバレーバンク(SVB)が3月10日に経営破綻を発表してから約1週間。この間に同じくアメリカのシグニチャーバンクも破綻し、スイスの金融大手のクレディ・スイス・グループの株価が急落している。世界の金融機関に何が起きているのか。日本にとっては「対岸の火事」なのか。ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミストに話を聞いた。

何が起きているのか

ーーアメリカの中堅銀行2行が相次いで破綻しました。

「3月10日に破綻が発表されたSVBは、ベンチャー企業を対象にした銀行です。金融緩和の下で大量に集まってきていた預金を国債や住宅ローン担保証券などのを中心に投資してきました。しかし、アメリカでは2022年3月以降、インフレ(物価高)による景気悪化を防ぐため、大幅な利上げが始まりました。金利が上昇すると、債券価格は下落します。SVBにとっても保有する債券価格が急落し、含み損を抱えることになりました。含み損は売ってしまうと実現損ということで、SVBの財務への不安が高まりました。

銀行が破綻した場合に預金保険によって保護されるのは1口座あたり上限25万ドル(約3300万円)のため、不安になった人たちが預金を引き出し、SVBは資金繰りが行き詰まり、経営破綻してしまいました」

ーーヨーロッパではスイス金融大手が揺らいでいます。

「クレディ・スイスには元々、経営不安があると言われていました。大富豪の個人資産を運用するアメリカ投資会社との取引で多額の損失を出したこともありました。筆頭株主の銀行が追加出資を否定したことで、不安につながっているという状況です」

ーーほかの銀行に連鎖していかないでしょうか。

「それぞれ個別の要因によるものであはありますが、共通する問題もあります。それは世界的に2022年から急激な利上げをしていることです。金利上昇が急ピッチで進んだので、債券を保有している金融機関が相当な含み損を抱えています。そうすると、金融システム不安につながりやすくなってしまいます。その中で特に弱みを持っていて、それが顕在化した金融機関が破綻したり、株を叩き売られたりしています。

2008年のリーマン・ショック時がそうでしたが、金融機関同士で取引があってつながっているので、どこに損失が生じるかわかりません。金融機関は経済に成長資金を供給する役割がありますが、貸し渋りを始めたり、リスク資産を圧縮したりすれば、景気への不安感が高まって株安にもつながりかねません。

ただ、今回については、預金の全額保護を決めたアメリカ政府などによる対応は速かったと思います。預金の全額保護は預金保険の趣旨から外れるのである種のモラルハザードが起きかねませんが、それよりも金融不安が拡大しないように抑え込むことを優先しています。スイスでも中央銀行にあたるスイス国立銀行が必要に応じて流動性を供給すると表明して、火消しにまわっています」

危機の時はリスクを過小評価しがち

ーー世界的な金融危機にはならないということでしょうか。

「日本もそうですが、欧米でも過去の金融危機の反省から金融機関の資本規制が強化されています。資本は潤沢に持っているから大丈夫だというのが元々の見方で、それは今回の騒動後も変わっていないと思います。

ただ、やはり金利上昇によって金融機関が抱える含み損は拡大しています。どこかが破綻すると、特殊な個別要因によるものなのか、あるいはその国や金融業界全体に共通する問題によるものなのかと議論されますが、危機の時は往々にして当初の段階ではリスクを過小評価しがちです。今回についても、各国政府の対応などによって杞憂に終わるかもしれませんが、世界的な危機の始まりである可能性も否定はできません」

大手企業の春闘後だったのは幸運

ーー日本にとっても対岸の火事ではない?

「リーマン・ショックの時、日本の銀行は問題となった信用力の低いサブプライムローンを組み込んだ証券化商品をほとんど持っていなかったので対岸の火事だという見方が多かった。ところが、結果的には発生起点となったアメリカよりも日本の方が景気への打撃が大きかった。

アメリカの景気が悪化すれば、まず日本の輸出企業が需要減によって業績が悪くなり、ひいてはそれが日本全体にも悪影響を及ぼします。

日本では3月15日に多くの大企業で経営側が労働組合の賃上げ要求に答える集中回答日を迎え、満額回答が相次ぎました。まだ大企業だけですが春闘が一段落しているのは幸運だと思います。もし2カ月前とかに起きていて長引いていれば、経営側は『アメリカの景気が悪くなれば、来期は収益が厳しくなる』と不安視して、満額回答を出す企業はこれほど多くならなかったと思います」

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Rui Hosomi