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公立校の教員に残業代を支払わないことを定める法律(給特法)の抜本的な見直しや、教員の長時間労働の改善を求め、現職の教員らが3月16日、8万345筆の署名と要望書を文部科学省に提出した。
署名活動の呼びかけ人で現役の公立高教員、西村祐二さんらから、同省の伊藤孝江政務官に署名の冊子と要望書を手渡した。
署名と要望書の手交後、西村さんは記者団の取材に「給特法の廃止の可能性があるか尋ねたところ、伊藤氏からは『現時点ではどういった方向も決めていないし、どういった方向もありえる』と回答をもらった」と話した。
1971年に制定された給特法。教員の給与について定める同法により、教員に対して月給の4%を教職調整額として一律に上乗せして支給する代わりに、残業代は支払われないことになった。
残業時間に見合った残業代が支払われない実態は、「定額働かせ放題」などと揶揄されてきた。
西村さんらが提出した要望書は、「50年以上前に成立した給特法が今の時代に合っていないことは明白」とした上で、給特法について廃止を選択肢に含めて見直すことを求めたもの。
必要な対応として、▽公立校に勤める教員の労働体系に労働基準法を適用する▽残業代を支給する▽時間外労働に罰則付きの上限を設けるーーことなどを挙げた。
1時間の授業に対して1時間の準備時間を確保できるよう、「教員の裁量で使える十分な時間を勤務時間内に確保する」ことも求めた。
その上で、「4%の教職調整額や、残業を命じられる項目を増やすだけの法改正は望まない」と釘を刺した。
文部科学省は現状の勤務実態に応じて残業代を支払う場合、年間9000億円かかるとしている。この試算を踏まえ、要望書では「残業代の支出を減らすために、速やかに本気の残業削減に取り組む」よう訴えた。
西村さんらは要望書などを提出した同日、東京都内で記者会見を開いた。西村さんは「残業を減らすための大きな障壁である給特法をどう見直すか、国に議論してほしい」と述べた。
教員を目指す中央大学2年の宇惠野珠美さんは「教員の労働環境を早急に抜本的に改革しないと、教員になりたい学生が本当にいなくなってしまう」と危機感を表明。その上で、「(公立校の)労働環境が悪いという理由で、ずっと教員になりたいと思っていた学生が夢を諦める現状を、一刻も早く改善してほしい」と訴えた。
公立校に勤める教員の働き方や残業代をめぐっては、法廷でも争われた。
埼玉県の公立小教員が、教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、約240万円の賃金の支払いを埼玉県に求めた裁判。東京高裁は2022年8月、一審のさいたま地裁判決に続き、男性の請求を退けた。
東京高裁は理由として、公立校教員には残業代の代わりに教職調整額が支給されていることや、「厳密な時間管理を前提にできない」とする教員に労基法の賃金制度は「なじまない」ことを挙げた。
原告の教員は上告したが、最高裁は3月に棄却。
この裁判について、西村さんは3月16日の記者会見で「人生賭けて裁判で訴えても、司法は現場の教員を守ってくれない。こうした扱いには(教員として)耐えきれない」と訴えた。「『定額働かせ放題をここで撤廃する』という決断を、政治家に下してほしい」
労働問題に詳しい嶋崎量弁護士は「1番の問題は、給特法によって(公立校では)当たり前の労働が労働と認められない異常さだ」と指摘。その上で、「給特法を変えることで、労働時間の削減に向けた環境を整えるためのスタートラインに立てる」と話した。
西村さんや名古屋大学の内田良教授らの調査では、全国の公立小中学校で働く教員の平均残業時間が1カ月で100時間以上に上ることが明らかになっている。
調査は2021年11月20〜28日、20〜50代の公立小中学校で働く教員924人にインターネット上で実施。管理職は含まず、小中学校でおよそ半々の割合で回答を得た。
1カ月あたりの残業時間の平均は105時間だった。小学校で98時間、中学校で114時間に上り、160時間以上に及ぶ教員も1割以上含まれた。
1日の休憩時間の平均は、小学校で9.4分、中学校で14.6分だった。「0分」と回答した教員は小中ともに約5割を占めた。所定の45分以上の休憩を取っている教員は小学校で5.6%、中学校で11.8%にとどまった。
文科省は、公立校に勤める教員の勤務時間についてガイドラインを定め、時間外勤務の上限の目安を1カ月あたり45時間、1年間あたり360時間などと設定している。内田教授らの調査では、この基準を大幅に上回ると見込まれる長時間労働が目立つ結果となった。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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給特法は「教員の残業削減の大きな障壁」。抜本的見直し求める署名8万筆、現役教員らが文科省に提出