公立校の教員に残業代を支払わないことを定める法律(給特法)の抜本的な見直しや、教員の長時間労働の改善を求め、現職の教員らが10月27日、署名6万4000筆と要望書を自民党に提出した。
署名活動の呼びかけ人で現職の公立高教員、西村祐二さんと日本若者協議会の室橋祐貴代表理事から、自民党文部科学部会で会長を務める衆院議員の中村裕之氏に署名の冊子と要望書を手渡した。
受け取った中村氏は記者団の取材に「(現在、残業代の代わりに定額で支給している)教職調整額は、あまりにも(教員の)インセンティブとして足りない」とした上で、「今後、現場の教員の意見を踏まえ、教職調整額を大幅に引き上げる方向で検討する」と話した。
要望書、給特法の廃止を含めた見直し求める
1971年に制定された給特法。教員の給与について定める同法により、教員に対して月給の4%を教職調整額として一律に上乗せして支給する代わりに、残業代は支払われないことになった。
西村さんらが提出した要望書は、給特法について廃止を選択肢に含めて見直すことを求めたもの。必要な対応として、▽公立校に務める教員の労働体系に労働基準法を適用する▽残業代を支給する▽時間外労働に罰則付きの上限を設けるーーことなどを挙げた。
文部科学省は現状の勤務実態に応じて残業代を支払う場合、年間9000億円かかると試算している。このことから、要望書では「残業代の支出を減らすために、速やかに本気の残業削減に取り組む」よう訴えた。
中村氏との懇談後、西村さんは記者団の取材に対し「教職調整額を上げるだけだと『定額働かせ放題』のままだ。教員が望んでいるのはお金ではなく、業務を減らすこと。今、示されているもの(中村氏の提案)以上に議論を進めてほしいと今後も訴えていく」と話した。
室橋さんは「子どもから見ても教員は明らかに長時間労働に見え、本当は相談したいことがあっても相談できないのが現状」と子どもへの影響を指摘。その上で、「学校現場は困っており、教員を志望学生は減っているので、なるべく早く状況を改善する必要がある」と話した。
西村さんらは今後、主要な政党に対して署名や要望書を提出していくという。
教員の残業、国の上限「月45時間」大幅に上回る
西村さんや名古屋大学の内田良教授らの調査では、全国の公立小中学校で働く教員の平均残業時間が1カ月で100時間以上に上ることが明らかになっている。
調査は2021年11月20〜28日、20〜50代の公立小中学校で働く教員924人にインターネット上で実施。管理職は含まず、小中学校でおよそ半々の割合で回答を得た。
1カ月あたりの残業時間の平均は105時間だった。小学校で98時間、中学校で114時間に上り、160時間以上に及ぶ教員も1割以上含まれた。
1日の休憩時間の平均は、小学校で9.4分、中学校で14.6分だった。「0分」と回答した教員は小中ともに約5割を占めた。所定の45分以上の休憩を取っている教員は小学校で5.6%、中学校で11.8%にとどまった。
文部科学省は、公立校で勤める教員の勤務時間についてガイドラインを定め、時間外勤務の上限の目安を1カ月あたり45時間、1年間あたり360時間などと設定している。内田教授らの調査では、この基準を大幅に上回ると見込まれる長時間労働が目立つ結果となった。
私立校では適用の労基法、公立には「なじまない」
教員の残業代をめぐっては、法廷でも争われている。
埼玉県の公立小教員が、教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、約240万円の賃金の支払いを埼玉県に求めた裁判。東京高裁は8月、一審の埼玉地裁判決に続き、男性の請求を棄却した。
東京高裁は残業代の請求を退けた理由として、公立校教員には残業代の代わりに教職調整額が支給されていることや、「厳密な時間管理を前提にできない」とする教員に労基法の賃金制度は「なじまない」ことを挙げた。
一方、同じ教員でも私立校の場合には、労基法に基づく賃金制度が適用されている。
茨城県の私立高は9月、30代の男性教員に違法な時間外労働をさせた上、残業代の多くを支払っていなかったとして、労基署から是正勧告を受けた。
同校は残業代として、給特法を適用する公立校と似た手当として月に約3万円を支給していた。
他方、男性教員が加入している労働組合が勤怠記録を元に算出した未払いの残業代は、2020年4月からの約2年間で200万円以上に上ったという。労組は、こうした実態が労基法に違反していることが労基署により認定されたとしている。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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教員に残業代支払わない法律「抜本的見直し」求める署名6万筆、現職教員らが自民党に提出。「定額の手当増額を検討」と文科部会長