困窮する外国人支援の現場から〜大澤優真さんに聞く

国会前で入管法の改正に反対する人たち=2018年12月07日

もっと読みたい>>「苦痛に満ちた悲鳴そのもの」ウィシュマさんの歪んでいく筆跡が訴える“密室の不条理”

「目の前で倒れてる人がいたら、助けますよね? でも、今の日本は倒れてる人にまず『あなたは在留資格がありますか?』と聞く。『ありません』と言うと助けない。これって、シンプルにおかしくないですか?」

「つくろい東京ファンド」(困窮者支援をする一般社団法人)の大澤優真さん(30歳)は言った。

コロナ禍で、困窮者支援の現場は3年以上にわたって「野戦病院」のような状態が続いている。

私も所属する「新型コロナ災害緊急アクション」にはこれまで約2000件のSOSメールが寄せられている。

「所持金ゼロ円」「3日間、何も食べてません」「ネットカフェに泊まるお金もありません」などのSOSに対し、連日のように支援者たちが駆けつけ支援に忙殺されている。

すでに住まいも所持金も職もないという人が多い。このような場合、生活保護を申請するわけだが、それができない人たちがいる。外国人だ。

日本の生活保護制度が対象としているのは「日本国民」。外国人は基本的に利用できず、一部が「準用措置」の対象となっている状態だ。「準用」の対象となるのは、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない「永住者」「定住者」等の在留資格を持つ人たち。

ちなみにこの国には300万人近くの外国人がいるわけだが、総在留外国人の47.5%にあたる135万7729人は準用措置の対象外となっている。つまり、どんなに困窮しても半分近くの外国人はセーフティネットにひっかかれないのだ。

中でももっとも過酷な生活を強いられているのが「仮放免」の人々。入管施設への収容を一時的に解かれている状態を指すのだが、彼ら彼女らは働くことを禁じられた上、福祉の対象にもならない。その上、健康保険にも加入できないので医療費は全額自己負担(国民健康保険に加入できない外国人は仮放免者だけでなく、約10万3000人もいる)。100%ならまだいい。場合によっては400%の医療費を請求されることもある。とにかく、これ以上ないくらいの「無理ゲー」を強いられているのだ。

仮放免の人々の厳しい状況を示すデータが昨年、発表された。

それは外国人や困窮者の支援を続ける「北関東医療相談会」(大澤さんはこの団体の理事)が、仮放免の人々の生活実態を調査した結果。

調査は2021年10月〜12月、全国の仮放免者450件に質問票を送付し、27カ国141世帯から回答を得たものである。

報告によると、回答者の70%が年収0円、66%が借金あり、コロナの影響による生活苦が85%など厳しい数字が並ぶ。生活状況については、「苦しい」が46%、「とても苦しい」が43%で9割が生活苦を訴える。1日の食事回数をみると、1回が16%、2回が60%。また家賃を滞納している人が40%、ガス光熱水費の滞納をしている人が35%にのぼることがわかった。一方、経済的理由によって医療機関を受診できなかった人も84%にのぼった。

こうした厳しい状態に置かれた外国人の支援を続けるのが、今回ご登場頂く大澤さんだ。

大澤さんはコロナ禍で、累計100世帯ほどの外国人と関わってきた。食糧支援やシェルターの提供、また病院への同行など支援内容はさまざまだ。たまに大澤さんと集会などで会うと、外国人に番号が広まっているという彼の携帯にはひっきりなしに電話がかかってきて、対応に追われている。大澤さんのTwitterには日々の支援活動が綴られているのだが、あまりにも過酷なケースばかりで、いったいこの人はいつ休んでいるのだろうと心配になるほどだ。

そんな大澤さんにまず、なぜコロナ禍で外国人の困窮が深刻化したのか聞いてみた。

「仮放免の人に限定すると、19年末まで全国で仮放免の人は3000人でした。それが今、倍の約6000人に増えているんです」

理由は入管施設が「密」を防ぐため、収容されていた人をどんどん出したからだと言われているが、本当のところはわからない。が、とにかく、就労できず福祉の対象にならない外国人がコロナ禍で2倍になったのだ。

「このことは支援現場に大きな衝撃を与えました。働けない、家がない、家賃が払えない、病院にも行けないという人が物理的に増えたんです。そういう人の中には、身体やメンタルになんらかの疾患がある人も少なくありません。コロナ前までは、それでも支援団体や個人的な支援者がサポートしてきたんですが、コロナ禍以降はサポートしきれなくなった。コミュニティで支える共助が難しくなってきたんです。それで支援団体に外国人が殺到するようになりました」

外国人に対する「公助」がまったくない中、大澤さんが所属する「つくろい東京ファンド」にも「北関東医療相談会」にも外国人からの相談がどっと増えた。ちなみに私が世話人をつとめる「反貧困ネットワーク」にも外国人からの相談は激増している。住まいを失った人からの相談が多いため、反貧困ネットワークではコロナ禍でシェルターを開設したのだが、現在入居している25世帯のうち、12世帯・15人が外国人。うち4人が路上からの保護だ。

しかし、シェルターの数は限られている上、住まいだけあったところで生活費が稼げないのだからどうにもならない。このコロナ禍、「反貧困ネットワーク」「北関東医療相談会」「移住者と連帯する全国ネットワーク」の3団体は外国人へのサポートを続けているのだが、20年4月から22年9月までに外国人支援に使った額は、実に1億7324万円。人数は、のべ一万人以上。支援金の使徒の内訳は、「生活費(食費含む)」が68%、「シェルター・家賃」が18%、「医療費」が14%。民間団体が、2年半で2億円近くを出しているのである。これが異常事態でなくてなんなのだろう。

シェルターということで言えば、「つくろい東京ファンド」はコロナ前から7室の自前のシェルターを持っていた。それが現在、コロナ禍を経てシェルターは58室まで増えた。7室の頃はみんな日本人だったものの、現在は58室中11人が外国人。そのうち9世帯が仮放免で、残る2世帯は就労もできず、生活保護も利用できない在留資格の人。日本国籍があれば生活保護につないだところで金銭的支援は終わるが、外国人の場合、そうはいかない。現時点でざっと計算しても、11世帯いれば家賃だけで月55万円ほどかかり、そこに食費や光熱費が加わる。必要であれば医療費もだ。就労は禁じられているので自立して出ていくことはない。11世帯いれば年間で1000万円近くが出ていくことになる。もう民間の団体が支えられる限界を超えている上、持続可能性という点から見ても無理がある。

22年8月からは、なんとかホームレス化を防ぐため、「つくろい東京ファンド」で難民・仮放免者向けに家賃補填の事業を始めた。とにかく追い出されないよう、滞納家賃をチャラにすべく現金給付をしたのだ。こちらも継続しているが、今年1月、新しく開設したのが「りんじんハウス」。

「りんじんハウス」とは、「ホームレス化した難民・仮放免者が暮らすため」の家で、やはりつくろい東京ファンドが開設した。同団体の稲葉剛さん、小林美穂子さんの活動を追ったテレビ番組を見た人が、家を提供してくれたのだ。これによって、新たに4人の外国人が住まいを手に入れた。

しかし、シェルターの絶対数が足りないので、今も寒空のもと、路上で震える人がいる。

大澤さんが週に一度は様子を見に行く男性は、ある公園で野宿生活をしている。在留資格はあるけれど、生活保護は利用できない。母国の情勢によって日本に逃れてきて、帰ると命の危険があるが、難民認定されていない(日本の難民認定率は1%以下)。昨年冬、防寒着も寝袋もない状態で野宿となった。アルコールの問題もあるので、酔ったまま路上で寝て凍死してしまわないかが心配だと大澤さんは言う。

日本に来て自殺を図った人もいる。母国で家族がイスラム原理主義者に殺され、自身も集団暴行を受け、「殺される」と命からがら日本に逃げてきた男性だ。しかし、何度難民申請しても認定されず、仮放免に。働けないので友人に頼っていたものの、支えきれなくなったのか電話にも出てくれなくなってしまう。そうして昨年9月、家賃を滞納し、電気・ガス・水道もすべて止まった部屋で、彼は手首と首の後ろを血が噴き出るほどにざっくり切った。

部屋から流れ出した血で隣人が気づき、救急搬送される。請求された医療費は16万円。しかし、当然払えず自主退院となる。部屋に戻るがお金も食べ物もなく、警察にまで助けを求めるもののどうにもならない。そうして彼は自殺未遂の傷が癒えないまま、昨年10月から路上生活になってしまったのだ。大澤さんが彼と初めて出会ったのは昨年12月。シェルターに入ってもらいたかったが満室なので、今はホテルで保護しているという。ホテル代は痛い出費だが、背に腹は代えられない。彼は今も「死にたい」と口にし、「なんであの時死ねなかったんだろう」と死ねなかったことを悔やんでいるという。命の危険から逃れるために辿り着いた日本で、孤立と困窮の果てに自死にまでに追い詰められる外国人。

そんな人々を支援している大澤さんが、彼ら彼女らにもっとも必要だと思うこと。それは「就労」だ。

「生活保護も国民健康保険も必要だと思うんですけど、一番大事なのは就労だと思っています。みなさん、働けるんですよ。なのでまずは、条件付きでもいいので働くことを認めてほしい。働かないと生きていけないので。難民や仮放免の人の中には高学歴の人も多いんです。そういう人たちに市民の一員として働いてもらって税金も納めてもらえばいい。そうすれば、私たちも持続可能性がある支援ができます」

私自身、何人かの仮放免者に取材してきたが、皆「働きたい」と口を揃える。仮放免者の中には働き盛りの世代が多い。宙ぶらりんの状態に置かれたまま、収入を得る手段もなく福祉の対象外と放置されていること自体、おかしいのだ。ヨーロッパなどでは難民申請中も働けるという。少なくとも日本のように長期にわたって「就労も福祉もダメ」という扱いはなされていない。

さて、就労以外でも問題は山積みだ。大澤さんは「入管と難民を保護する部署を分けるべき」と指摘する。

「フランスでは、難民審査のための独立した部署があるそうです。日本は入管の管轄は法務省ですが、出入国在留管理庁(入管)という管理をする部署と、難民を保護する部署は分けたほうがいいんです。おそらく入管の職員には“偽難民を追い出す”“悪い外国人を取り締まる”という正義感があるんでしょうが、それがいろいろな問題を引き起こしている」

そのことで思い出すのは、入管の収容施設で命を落としたスリランカ女性・ウィシュマさんのことだ。

施設に収容されずとも、手続きのために訪れた入管で、大澤さんは驚くような光景を目にしてきた。

「難民申請に同行することもあるんですが、都内だと品川の東京入管の3階に行きます。びっくりしますよ。職員が外国人を怒鳴りつける。最近も、中東からの家族が拙い日本語で『難民申請します』と書類を出したんですが、不備がたくさんあったみたいで職員は日本語で『ダメダメ、あなた日本語わかる? わからないよね。今日はダメ、日本語わかる人連れてきて!』と追い返してました。そんな扱いを受けてるんです。しかも書類を埋めるのも大変で、居住歴や海外渡航歴や迫害を受ける利用などを詳しく説明しなくてはいけない。本当に、行くたびに衝撃を受けます」

大澤さんの知る中には、入管の対応で日本が怖くなった人もいるという。

「ある国で銃をつきつけられて、たまたま日本のビザが取れて逃げてきた人がいました。その人は高校時代、日本は素晴らしい国、優しい国と教えられたそうです。が、日本に来て初めて会った日本人が入管の職員で、怒鳴られ、机を叩かれ大声を出されて収容されて、出てきてからはコンビニにも行けなかったそうです。日本人はみんな怖いと思い込んでしまって。その後、支援者たちに出会って日本人の印象は変わったそうですが、入管の職員はそうやって日本のイメージを悪くするのをやめてほしいです」

現在、悪い意味で世間の注目を集めている入管だが、日本の信頼を失墜させないためにも本気で改善に取り組んでほしい。

さて、ここまで話を聞きながら気になったのは、大澤さんはなぜこのような活動をするようになったのかということだ。

聞くときっかけは10年ほど前、大学生の頃だったという。

「ちょうどお笑い芸人の母親の生活保護利用が話題になって生活保護バッシングが広がっていた頃(12年)、たまたま大学に講師として、水島宏明さんが来たんです」

元日テレ(日本テレビ)の水島さんは、「ネットカフェ難民」の番組を多く手がけていた人でもある。

「それで水島さんが生活保護の不正受給問題に触れたんです。最初は『不正受給が多い』という報道を見せてくれて、それを見て『いけないな』と思った。その後、実は不正受給は全然多くない、それどころか生活保護を利用できるのに漏れている人の方が多いと聞いて、衝撃を受けました。自分は差別する人間じゃないと思ってたのに、生活保護イコール不正受給みたいな偏見を持っていたことに衝撃を受けたんです。それで、何も知らなかったんだ、まず勉強しようと思いました」

そうして「もやい」など、貧困問題に取り組む団体のもとに通うようになり、14年、「もやい」にボランティア登録。その年に「つくろい東京ファンド」が立ち上がり、スタッフとなる。支援活動をする一方、大学、大学院で福祉について研究も続けてきた。17年に博士課程に進学し、21年に大学院の博士課程修了。現在は支援活動の傍ら非常勤講師もしながら外国人と生活保護について研究を続ける身だ。研究に専念しないのか聞かれるが、今は現場がいいという。

その大澤さんから見て、就労の次に必要なのは医療へのアクセスだ。

「特に緊急医療に限ると日本は最低ランクですね。ヨーロッパなんかは、人権や治安のためにも認めています」

医療へのアクセスができないことによって、これまでの多くの外国人の命が奪われてきた。21年1月には、カメルーン人の女性が路上生活の果てに命を落としている。母国の紛争から逃れてきた彼女は末期癌の状態で家賃を滞納して家を追い出され、42歳で亡くなってしまったのだ。最後は病院に入れたそうだが、早い段階で医療にかかれていたら、まったく違う結末になっていただろう。

さて、3月7日、そんな仮放免の人たちをさらに追い詰めるような入管法改定案が閣議決定された。これから国会で審議される見込みだが、難民申請中は強制送還の手続きを停止するという現在の原則を大きく後退させるような内容が盛り込まれているのだ。詳しくは連載の第625回を読んでほしいが、こんなものが通ったら、どれほどの人が命の危険に晒されるだろう。ぜひ、この今後の動きに注目していてほしい。

外国人を救う「公助」がまったくない中で、大澤さんは今日も支援に奔走している。そんな大澤さんに、最後にメッセージをもらった。

「苦しんでいることに国籍や在留資格は関係ありません。国として制度を変えるのは一番大事なことですが、みなさんできる範囲内で少しでも困っている人に関心を向けてほしい。SNSでリツイートするでもいいし、できる人は寄付したり、とにかく関心を持ってほしいです。今、ウクライナからの避難民は日本に2000人以上います。多くの人が手を差し伸べていて、サッカー選手を地元チームに受け入れたりと素晴らしい話がたくさんあります。なので、ウクライナの人じゃない外国人にも、同じように手を差し伸べてほしいですね」

難民認定率1%以下のこの国で、先が見えない生活を強いられる人々。

最近は「難民・移民フェス」などのイベントも開催されているので、まずはぜひ、彼ら彼女らと接してみてほしい。そこからできることは、たくさんあるはずだ。

(2023年3月8日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第628回:困窮する外国人支援の現場から〜大澤優真さんに聞く。の巻(雨宮処凛)』より転載)

…クリックして全文を読む

オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
困窮する外国人支援の現場から〜大澤優真さんに聞く