『すずめの戸締り』受賞逃すも物語の普遍性に海外から高評価。ウクライナ出身の記者「自国の被害を連想させる」

第73回ベルリン国際映画祭のプレミア上映に出席した『すずめの戸締まり』の新海誠監督(右)と原菜乃華さん(左)=2023年2月23日

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日本国内で大ヒットを記録している新海誠監督の『すずめの戸締まり』。先日発表された第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門での受賞はならず、最高賞である金熊賞には、フランスの二コラ・フィリベール監督のドキュメンタリー映画『On the Adamant』が選ばれた。  

日本のアニメ映画としては宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりの選出となった『すずめの戸締り』は惜しくも無冠に終わったが、実写映画中心の国際映画祭にアニメーション映画が選ばれること自体、異例のことで選出された時点で充分な快挙と言える。 

新海監督は、記者会見であくまでエンタテインメントとして同作を作ったことを強調。東日本大震災のことを伝えるために、より多くの観客に届けることを考えていたと語り、芸術性を競う映画祭での成功にプライオリティは置いていないようだ。

日本神話を参照し、国内の災害をモチーフにしたドメスティックな内容であることに関しては、「自分たちの足元を掘っていけば、みなさんのいる普遍的な場所にたどり着ける」と語り、海外の観客にも受け入れられる可能性を信じるコメントもあった。

同映画祭の会見では、ウクライナ出身の記者から地震による災害描写が自国の戦争被害を連想させたという感想が聞かれ、海外メディアにも、ツボを抑えた好意的なレビューが出ている。

ハリウッドリポーターは「スマートな脚本とアニメーションで少女が成長する様を描き、コミカルな世界観を構築するのは、震災のような出来事でそれらが失われる可能性があることを想起させるため」と評価

インディーワイアーでは、日本が年間平均1500の地震に襲われる国であり、日本神話ではナマズが地震を引き起こすと伝えられてきたことを紹介し、2011年の震災で2万人以上の命が奪われたことにも言及。その上で「同作はスペクタクルな悲劇に傾倒せず、日本の土地の構造を知るための精神的な旅路を通して、見えない巨大な力で故郷と愛する人を失った悲しみにどう向き合うかを描いたもの」だと解説している。 

本作が描く震災に見舞われた人々の物語は、国を超えても普遍的なものとして伝わる力があることは、証明されたと言えるのではないか。

今年のベルリン国際映画祭は、『すずめの戸締まり』の他、中国のアニメーション映画『Art College 1994』(リウ・ジアン監督)も選出され、他の部門に目を向けると、さらに数本のアニメーション作品が選ばれ、ディズニー100周年記念で往年の名作短編映画を特集するなど、例年以上にアニメーション作品の進出が目立った。

同映画祭の芸術監督カルロ・シャトリアン氏は、今年の同映画祭はコロナ禍明けで一般の観客、特に若い世代にも来て欲しい、映画祭の枠を広げたいという思惑があったと取材で語っている。『すずめの戸締まり』は、その一翼を担ったと言える。

シャトリアン氏は、アニメやドキュメンタリーなど、実写の劇映画以外へと映画祭の門戸は広がっていると語る。日本の映画配給会社ロングライドが共同製作に参加した『On the Adamant』が最高賞を獲得したのも、門戸の広がりを如実に象徴している。同作も『すずめの戸締まり』とともに映画祭に新鮮な風を吹き込んだと言えるだろう。  

(文:杉本穂高 編集:毛谷村真木/ハフポスト) 

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