中国は2000年代初頭から、世界のテック産業における主要なプレイヤーです。しかし現在、中国政府は180度方向転換し、過去20年にわたって成長してきた自国のテック企業を締め付けつつあります。
なぜ中国は、自国産業を虐め、衰退させるような行動をとっているのでしょうか?その疑問について、海外YouTubeチャンネル「The Infographics Show」が解説しています。
*Category:テクノロジー Technology *Source:The Infographics Show,日本経済新聞
近年中国は、アリババを始めとする収益性の高いテック企業のいくつかに対して、信じられないほど巨額の罰金を科しています。
中国政府は2020年11月に金融会社アント・グループの新規株式公開(IPO)を延期に追い込んで以降、IT企業に対する締め付け姿勢を鮮明にしている。
具体的には、アリババに対して独占禁止法違反で約182億元(約3100億円)の罰金を科したほか、米国に上場した中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)などネット企業3社に対し、国家安全上の理由でネット規制当局が審査を行った。その後もユーザー数が100万人超の中国企業が海外上場する際に当局の審査を義務付けた。企業の呼び出しや指導も相次ぐ。
取り締まりが始まるまで、中国の大手テック企業のほとんどは、ユーザーデータを収集するソフトウェア、プラットフォーム、アプリに集中していました。このデータは、消費者への広告や商品販売に利用されています。さらに、中国政府も暗号通貨やさまざまなソーシャルメディアプラットフォームに大量の時間と資源の投入をしていました。
中国政府がこのような規制強化に走る理由は、中国のテック産業の一新だとされています。つまり、プラットフォーム産業の代わりに、マイクロプロセッサー、ロボット、半導体、電気自動車といった物理的なハードウェア産業を成長させることを狙っているのです。
そのために、中国は「ユーザーデータの保護」「サイバーセキュリティの強化」「反競争的行為の抑制」など、数多くの規制を制定しました。この規制は、中国で活動する外国企業にとって大きな痛手です。一方、中国の中小テック企業は、より大きなイノベーションにつながることを期待し、優位に立つことができました。
中国が導入した独占禁止法は、大手テック企業が競合他社をすべてすくい上げたり、廃業に追い込んだりすることを防いでいます。そのため、中小企業は生き残ることができ、また、テック大手は中国以外の国への進出に注意を向けざるを得なくなりました。これは企業自身にとって有益なことですが、中国の影響力を広げることでもあります。
習近平国家主席がテック産業を破壊するために行っていることの多くは、中国がより大きな力を発揮できるような形で再建するためのものなのです。しかし、現在、中国ではコロナ対策の批判などから抗議やデモが増えています。
中国のGDPの30%以上を占めるテック産業が大きく変化していることに加え、こうした要因から、中国国内では間違いなく警鐘が鳴らされているはずです。ただ、中国は巨大な市場であり、外交・経済政策に関しても影響力を持っています。
中国には膨大な消費者基盤があるため、多くの企業は中国政府を相手に商売をする必要があります。つまり、外国企業が中国の新しい法律に適合するために、巨額の資金を費やすことになっても従わざるを得ないということです。
中国は、規制に適合しない企業には多額の罰金を科すか、極端な場合は中国での事業を許可しないことを明確にしています。そのため、中国内外の企業は、この重要な市場へのアクセスを失わないよう、手続きを変更しつつあります。これは中国のテック企業にとって朗報です。なぜなら、誰もが同じルールでプレーすることを意味するからです。
また、テック企業が中国で事業を展開するためにそのやり方を変えるということは、世界の経済規範も変化していることを意味します。
さらに、厳しい規制による中国国内のテック企業の破壊は、政府に大きな利益をもたらしてもいます。中国がテック業界に課している規制の多くはデータ収集に関係するものです。新法は、中国で活動する外国のテック企業に、より詳細な情報を提供するよう求めると同時に、中国国民について収集したデータを外部の第三者と共有することを制限しています。
つまり、中国政府だけが大量のデータを持つということです。その結果、中国政府はテック企業に自分たちの言いなりになることを強いることができるかもしれません。新しい法律は中国のテック企業に打撃を与えますが、中国政府にとっては長所が短所をはるかに上回っているのです。
中国のテック業界に対する取り締まりをより詳細に調べてみると、その決定が計算された意図的なものであることがよく分かります。中国の新しい規制によって罰金を科されたり、破滅させられたりしたテック企業のうち、約95%はソフトウェアやプラットフォーム企業であり、ハードウェア企業は残りの5%に過ぎません。このことは、中国政府が自国のテクノロジー部門をどのような方向に導こうとしているかを明確に描き出しています。
習近平国家主席は、中国がより自給自足的な国になることを望んでいることをはっきりと表明しています。習近平国家主席は、中国のソフトウェアやインターネット企業がいくら力をつけても、最先端のコンピュータを作れず、他国の進歩についていけなければ意味がないことを知っています。
中国のテック産業を解体するためにこのような厳しい規制が設けられた主な理由は、業界全体がハードウェアの製造と開発に軸足を移し、ソフトウェアは副産物としてしか頼りにされないようにするためです。現状は、マイクロプロセッサー、ロボット、半導体に大きな重点が置かれています。
今までの中国のテック産業では、ユーザーデータを採掘し、ソーシャルメディアや将来のメタバースなどのシステムを作るだけに留まるはずです。しかし、これらのものではグローバル市場での競争力を維持することはできません。つまり、中国のテック企業の破壊は、より多くのイノベーションを促し、国の技術的自立を発展させるための試みだということです。
また、外国のテック企業が新しい厳しい規制を守れば、習近平国家主席がその企業に対して影響力を持つことになります。もし、外国企業が規制に従わず、撤退することになれば、中国企業がその座に就くと考えています。そして、これらの企業は中国政府が資金を提供し、中国政府が望む企業となります。習近平国家主席は、いずれ中国国内でハードウェアを製造するすべてのテック企業を何らかの形で管理しようとしています。
中国がテック産業を見直したいと考えているもう1つの理由は、中国の「半導体製造」「航空宇宙工学」「バイオテクノロジー」などの分野で米国に大きく遅れをとっているからです。中国は自国の欠点を補いたいのです。現に2021年、中国政府は半導体やバイオテクノロジーを開発する企業に過去最高の投資を行っています。
オリジナルサイトで読む : AppBank
中国政府が〝自国IT企業の締めつけ〟をする理由