ゴミだらけの川、女性を性被害から守るための場所…長野智子さんが難民キャンプで目にした光景

2022年師走に痛ましいニュースが入ってきました。ロヒンギャ難民約190人を乗せたボートが数週間にわたって漂流し、食糧や水が底をついて子どもを含む多くの死者が出たというものです。

ロヒンギャとは、ミャンマー・ラカイン州のイスラム教少数民族です。2017年、ラカイン州北部で起きた暴力行為によって、約77万人もの人々が隣国のバングラデシュへと逃れるという未曽有の事態となりました。あれから5年の歳月が経ち、日本のニュースではあまり伝えられていませんが、彼らは今も壊滅的な人道危機といえる状況にあります。  

2017年8月以降のロヒンギャ難民の緊急避難時

今回漂流したボートはロヒンギャ難民キャンプがあるバングラデシュを出発し、マレーシアを目指していたとみられています。しかし周辺国が受け入れを拒否したため漂流してエンジントラブルが起きたということでした。

彼らのように、過密になったキャンプから逃れようと、船にのって第三国へ向かおうとするロヒンギャ難民が後を絶ちません。しかしそのほとんどが受け入れてもらえない状況です。ロヒンギャの人たちの多くは国籍を持っていないので、厳しい避難生活のみならず、無国籍による国家保護の欠如という二重の苦難にさらされているのです。

私は国連UNHCR協会の報道ディレクターとして、2022年10月末にバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを訪問したのですが、その状況は想像を超えて過酷なもので衝撃を受けました。

難民キャンプの中を流れる川沿いに、難民たちは写真のように手作りの簡易スペースを作って暮らしています。最初に目に飛びこんできたのは、川に放置された無数のゴミでした。

バングラデシュ・コックスバザール近郊のウキヤ難民キャンプ

難民キャンプの人口が増えればゴミも増加します。投げ捨てられたゴミによって川が汚染され、衛生状態も悪化するのでUNHCRなどの支援機関や難民自身が行うボランティアによって必死の清掃が行なわれていますがなかなか追いつきません。こうした川で子どもたちが遊ぶと、足の傷などから細菌に感染して病気になることも少なくないそうです。

半数以上が女性と18歳未満の子どもたち

今回一緒に難民キャンプを訪問したクリエイティブ・ディレクターの辻愛沙子さんと。真ん中のジアくんは5年前に98歳の祖母を担いで避難し、今は若者のボランティアリーダーとして頑張っています

キャンプ内は子どもたちでいっぱい。逃れてきた人のうち半数以上が女性と18歳未満の子どもたちです。

お話をうかがった女性のなかには、銃撃によって重傷を負った夫と子どもたちとともに、草むらに隠れながら8日間も飲まず食わずで歩いて避難したという方もいました。 

女性たちに安心な場所を提供するために、UNHCRがパートナー団体と運営している「ウイメン・セーフ・スペース」でお話を聞きました

命からがらたどり着いた避難先でさえ、誘拐や性暴力の被害をうける可能性があり、女性たちは昼間であっても1人で行動すると危険です。そのため、女性だけで悩みや過酷な体験をシェアして話し合うことのできる「ウイメン・セーフ・スペース」のような施設は難民キャンプに欠かすことのできないものだそうです。

家族が殺されるところを目撃して声が出なくなってしまったという女性は、「ウイメン・セーフ・スペース」で他の女性の話を聞くうちに、自分の話を聞いてくれる人がいるという安心感から声を取り戻したと言います。

5年前に難民が多数避難したときには、料理の煮炊きをする火を起こすために難民たちが周囲の森林を伐採して使いきってしまったという話も聞きました。その際、調理の時に煙を吸った多くの女性が病気になり命を失ったそうです。

今はUNHCRが中心となってLPガスを提供したので改善されていますが、それもウクライナ紛争の影響によるガスのコスト高によって支援が困難になっているといいます。

私たちのために難民ボランティアの方が調理してくれた食事。豆のスープとチキンの辛いスープ。味は日本人好みであっさりしていました

実際にお話をすると、ロヒンギャの人たちはとても優しく勤勉で、手先がとても器用な方たちでした。

UNHCRがファーストリテイリングや現地NGOと共同で自立支援をする「ジュート工場」。ジュートとは現地でとれる麻の一種です

キャンプ内では、UNHCRのグローバルパートナーである(株)ファーストリテイリンググループの生産パートナーや現地NGOの協力を得て、縫製スキルのトレーニングが実施されています。日本企業による支援というのが嬉しいですね。

難民キャンプで日常的に必要とされる、繰り返し使える布ナプキンなどの縫製を学んでいます。皆さん器用にミシンを使ってエコバッグなども生産していました。

ロヒンギャ難民女性たちによる作品。縫製もしっかりしておりデザインも素敵

この工場には授乳スペースなど働きやすい環境も整備されています。工場に来て3日目くらいという女性は「ミシンがすごく楽しい。意外に簡単。ミャンマーに戻ったらこの技術を活かして働きたいです」と目を輝かせていました。

こうした支援は難民が尊厳を取り戻して自立するためにとても重要だそうです。   

「いつか広いグラウンドで運動をしたい」と夢を語ってくれたジャナタラちゃんとジャヌウちゃん。小さな子どもたちの運動リーダーとして頑張っています

世界で最大規模、かつ最も密度の高い難民キャンプであるウキヤ難民キャンプは、他国の難民キャンプを見てきた私にとっても、これは本当にどうしたらよいのかと途方に暮れるような劣悪な環境でした。

そこから逃れようと船に乗って漂流の危険にさらされる人もいる一方で、キャンプ内での性暴力を減らそうと教育活動をしたり、植林や道の整備をしたりと、少しでも環境をよくするためにボランティア活動をする若い世代の難民もたくさんいて、彼らの前を向こうする姿には頭が下がる思いです。

人で渋滞する難民キャンプ

ウクライナ問題に世界中から大きな注目が集まる一方で、バングラデシュを始めとする世界の難民支援の現場は厳しい資金難にあえいでいるのが現実です。

ロヒンギャの人々に2022年に必要とされた支援活動に対して現時点で調達できている資金は未だ51%という報告もある中、日本の皆さまからもご支援をいただければ嬉しいです。

「WOMEN+BEYOND 私たちから、世界を変えよう。」のウェブサイトでは、日本にいる私たちができる支援について具体的な例を挙げてご紹介していますので、ぜひお時間のあるときにご覧ください。よろしくお願いいたします。

(文:長野智子 編集:毛谷村真木

【参考資料】 

https://reporting.unhcr.org/bangladesh-funding-2022
https://reporting.unhcr.org/document/3554
https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/news/2211091300.html
https://www.unhcr.org/news/press/2022/12/63a562784/unhcr-urges-states-act-save-lives-andaman-sea.html
https://www.theguardian.com/world/2022/dec/10/activists-appeal-rescue-rohingya-refugees-boat-bangladesh-malaysia

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