2022年10月1日から「産後パパ育休」の制度がスタートし、育児のために男性も仕事を休みやすくなることが期待されています。コロナ禍のリモートワークも育休の取得を後押ししています。一方で、上司と部下の意識ギャップもまだあるようです。最新のデータから、男性育休の最前線に迫ります。
大手住宅メーカーの積水ハウスが発表した「男性育休白書2022」(詳細は後述)によると、2022年の男性の育休取得率は17.2%。前年の12.2%から5ポイント増えました。
年代別にみると、対象の男性のうち20代は4人に1人(24.9%)、30代では5人に1人(21.1%)が育休を取得しています。
厚生労働省の雇用均等基本調査では2021年度、男性の育休取得率は過去最高の13.97%でした。これら2つの調査の対象や時期は異なりますが、育休を取得する男性は着実に増えているといえそうです。
2022年10月1日から改正育児・介護休業法により、いわゆる男性版産休の「産後パパ育休」(出生時育児休業制度)が施行されます。さらに、従来の育休も分割して2回まで取得できるようになります。
業務の特性上、長い期間を続けて休むのが難しい人や、妻が職場復帰するタイミングに合わせて休みたい人など、それぞれの仕事や家庭の事情に合わせて制度を活用できるようになります。
積水ハウスは、国の制度に先駆けて2018年9月から男性社員に1カ月以上の育休取得を推進しており、2022年8月末で取得率は100%となっています。9月19日を「育休を考える日」と定め、インターネット調査の結果を白書にまとめて毎年発表しています。
2022年6月、小学生以下の子どもがいる20〜50代の男女9400人を対象にしたのが冒頭の調査で、「男性育休白書2022」で発表されました。これによると、男性の育休取得率は17.2%。取得日数は平均8.7日で、前年より5日も長くなっていました。
積水ハウス執行役員でダイバーシティ推進部長の山田実和さんは「働き方の変化が育休の取得を後押ししています」と話します。コロナ禍でリモートワークが増えたことによって、育休の取得率に変化がみられたからです。
調査では、リモートワークをしていない男性の育休取得率が14.5%だったのに対し、リモートワークをしている男性の育休取得率は35.0%と大きな差がありました。
一方、リモートワークをしている男性の46.2%が「リモートワークをすることで、育休を取得する必要性を感じなくなった」と答えました。コロナ収束後の働き方の変化によっては、育休の考え方や取得の仕方に影響がでることが予想されます。
リモートワークが夫婦の家事・育児の分担に影響していることも、今回の調査によって改めてわかりました。
仕事のある日の家事・育児時間を聞くと、男性は1.55時間で前年より5.4分長くなり、女性は4.73時間で前年より19.8分短くなりました。
さらに、リモートワークの時間が「増えた」という男性の勤務日の家事・育児時間は1.84時間で、男性の平均の1.55時間よりも長く、夫のリモートワークの時間が「増えた」という女性の勤務日の家事・育児時間は4.15時間で、女性の平均4.73時間より短くなっていました。
制度の充実や働き方改革による後押しが進む男性育休ですが、課題は職場の理解を得ることです。
調査では、育休取得を検討した男性の61.1%が「検討するときに不安を感じた」と答えていました。
「いつまで休むのかしつこく聞かれ、休みづらさを感じた」(岐阜県 / 34歳)
「男なのに育児休業を取るのかと言われ、悲しかった」(岩手県 / 38歳)
「制度はあるがこれまでに取得した男性がなく、取らないのが当たり前な風潮。とてもとりにくかった」(長崎県 / 27歳)
「上司に、これからのキャリアに響くと言われた」(新潟県 / 31歳)
出典:「男性育休白書2022」
調査結果を受け、ジャーナリストで東工大准教授の治部れんげさんは、こう話します。
「20代、30代にとっては男性育休は特別なことではなくなってきています。それなのに、当事者と上司層との間にある意識のギャップが、実際に取得することを阻む要因のひとつになってしまっています」
9月14日に積水ハウスが開いた「男性育休フォーラム2022」では、治部さんがファシリテーターとしてこうした世代間ギャップをテーマに議論。
パネリストのひとりであるサイボウズチームワーク総研所長の和田武訓さんが、上司と部下の間には、育休を取得する期間の長さについても大きな意識差があると指摘しました。
サイボウズチームワーク総研は2022年4月、男性部下がいる上司層2000人と、育休を取得する意向がある男性1000人に、男性育休についての意識調査を実施しました。
育休を取得する意向がある男性に「理想の取得期間」を聞いたところ、「1カ月以上」を希望する人が約7割で、そのうち「半年〜1年未満」が33.8%と最多でした。ところが上司層に、男性部下に育休を許容したい期間を聞いたところ、「1週間未満」と答えた人が20.8%と最多でした。
同様に「現実的な取得期間」を聞いたところ、上司層の回答は「理想期間」とほぼ変わりませんでした。一方、取得希望者のほうは「1週間未満」と答えた人が36.9%と最多となりました。33.8%が理想としていたはずの「半年〜1年未満」は8.3%に転落。理想と現実の期間が見事に逆転する結果となりました。
「男性育休フォーラム2022」に登壇した人事院総裁の川本裕子さんは、「男性が育休をとることに職場がまだまだ慣れていないことが問題です」と話します。
「育休の対象となる職員を事前に把握して取得計画をつくり、育休中の代替要員を確保するのはマネジメント業務の一環であり、上司の責任です。経営層は、こうした中間管理職層のマネジメント力も人事評価に反映することが重要です」
「そして育休当事者は、ロールモデルがいないことに臆さず、自分がロールモデルになるという勇気をもってほしいです」
2022年10月1日に「産後パパ育休」がスタートします。「男性版産休」の取得や育休の分割取得もできるようになる制度、あなたならどんなふうに活用しますか? 理想と現実のギャップがある場合、差を埋めるためにはどんな工夫やサポートが必要でしょうか。
OTEMOTO編集部は、夫婦のパートナーシップや働き方改革をともに考え、新たな時代の育児休業のあり方を探る企画「育休革命2022」をはじめます。ぜひ想いやご経験をアンケートで教えてください。
(取材・文:小林明子)
(2022年9月19日のOTEMOTO掲載記事「部下「半年休みます」→ 上司「1週間で戻るよね」。男性育休の理想と現実」より転載)
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部下「半年休みます」→ 上司「1週間で戻るよね」。男性育休の理想と現実