エリザベス女王が9月8日、70年という記録的な在位期間を経て96歳で亡くなった。イギリスで最も長く君主を務めた女王の死に、世界中の人々が涙しているのは当然のことだろう。
多くのイギリス人にとって、女王は義務感と気品、そして優雅さを備えた「イギリスの精神そのもの」であった。
しかし一部の人たちにとっては、女王や君主制は全く別のものを意味する。それは帝国主義、植民地化、そして奴隷制度とは切り離せないものだ。
これらは過去のこととして捉えられているが、不平等や人種差別を存続させる構造において王室がこれまで果たしてきた、そして今も続けている役割を無視することは、一部の人たちにとっては難しい。
そのため、女王の訃報が流れた時、誰もが悲しみや苦しみを感じたわけではない。
それどころか、王室が世界中の黒人や褐色人種の人々の生活にどれだけ深い影響を及ぼしてきたかを感じる瞬間となったという人たちもいる。
女王と植民地化や奴隷制度は切り離せない
パン・アフリカ主義(世界中のアフリカ系住民の連帯を訴える思想)の文化ハブ「Uncover」の創設者であるロンドン在住の作家Shirley Sozinhaさんは、女王が70年以上も国を導いてきたことは大きな功績であり、彼女を女王として尊敬していると言う。
「しかし、彼女のいた組織を尊敬してはいません」とハフポストUK版に語る。
「エリザベス女王は女性リーダーの象徴だけでは終わりません。彼女は植民地主義を象徴し、彼女の統治はイギリスの残虐性の頂点でした」
英連邦諸国を含む世界のリーダーたちから追悼のメッセージが寄せられる中、その存在そのものが、帝国主義における王室の役割をはっきりと思い起こさせるものだと指摘する人たちもいる。
女王自身が他国を植民地化したわけではない。しかし、彼女の一族は帝国の恩恵を受けている。それにも関わらず、その血なまぐさい過去とまだ向き合っていない、と主張する人たちもいる。
マヤ・ジャサノフさんはNew York Timesへの寄稿の中で、「女王は在任中、大英帝国のほぼ全てが崩壊し約50の独立国家に分かれ、帝国の世界的影響力が著しく低下するのを目撃した」と綴った。
「国家元首として、またイギリスとその旧植民地の連合体であるイギリス連邦の長として、彼女の存在は何十年にもわたる激しい大混乱に、冷たい伝統主義者の顔を被せた」
イギリスの弁護士で人権活動家のShola Mos-Shogbamimu博士はTwitterで、「過去の歴史を否定して女王に敬意を示すのはやめてください。彼女への愛情を示すのは良いですが、嘘はつかないでください」と述べている。
「私たちは泣くべきではない」
これは時事問題となっている。最近では2021年11月に、バルバドスが女王を国家元首から外し、世界で最も新しい共和国となった。ジャマイカも同様の動きを辿っている。
バーミンガム市立大学の黒人研究の教授であるKehinde Andrewsさんは、2022年夏に行われたコモンウェルスゲーム開催中に、イギリスのニュースメディアBirmingham Liveに次のように語った。
「英連邦は、イギリスが帝国の過去と何らかの象徴的な繋がりを保とうとするためのものです。帝国は、ある意味まだそこにあるのです」
コンゴ出身のSozinhaさんは、有色人種の人々が今、王室に対して葛藤の感情を認めるのは正しいことだと考えている。
「人々が目にする王室の活動に反し、彼らは何百万人もの血に手を染めてきています。有色人種の人々にそれを見過ごせと言うのは、あまりにも大きなお願いです。
私たちは泣くべきではありません。女王は私たちのためになるようなことは何もしていません。私たちは王室の臣民ではないのです」
国民的な追悼ムードを否定しているのは、Sozinhaさんだけではない。スポーツキャスターで元イングランド代表サッカー選手のトレバー・シンクレアさんは後に削除されたTwitterで「イングランドでは人種差別が60年代に違法となったのにまだ健在している。黒人や褐色人種が悲しむ必要などない」と投稿した。
メディアは彼の意見を批判したが、他の人たちは、黒人コミュニティの意見は同様に王室と複雑な関係にあるアイルランド人たちよりも厳しく批判されていると指摘した。
明確になった世代ギャップ
さらに強い感情を抱いているイギリス人たちもいる。
イギリス系ナイジェリア人でソーシャルメディア・コーディネーターのKelachi Onyebuchiさん(26歳)は、女王の死を聞いた時、勝利の感覚を覚えたと言う。
「ゆっくりと、長年の奴隷制度、植民地主義、痛み、苦しみを意味する組織そのものが崩れ落ちていくのです。
私は植民地支配者たちの死を悲しむことはないし、私の民族の飢餓や虐殺を助長した人々の氏を悼むことは決してありません。絶対に」と彼女は述べた。
ちなみに、彼女の両親は女王や君主制についてあまり関心がないそうだが、母親はダイアナ妃を愛していたという。
これは黒人の家族において決して珍しいことではない。ダイアナ妃は世界中から愛されていたが、特に移民の家では、ダイアナ妃の悪口は言わないものだと子どもたちが察するほど愛されていた。
しかし、黒人コミュニティでも多くの高齢者はエリザベス女王のことも同様に愛しており、国中の他の人たちと共に、彼女の死を悲しんでいる。
若い有色人種の人の中には、両親の反応をTikTokで投稿する人もおり、世代ギャップがかつてないほど明確になっている。
植民地時代の歴史はただの過去ではなく、「今」
広報として働く26歳のEki Igbinobaさんは、自分の両親よりも女王の死去に関して強い考えを持っている。
「もうすぐ70代を迎える両親は、敬意や感謝を示すよう教育されていて、それは私たちの世代とは違います。両親は私の意見を理解し賛同してくれますが、女王に対してもっと敬意があります」
若い有色人種の人たちは歴史に踏ん切りをつけ、前に進むべきかを問うと、彼女から明確な答えが返ってきた。
「過去が未来に影響し続けているのに、有色人種の人々が過去を忘れることができますか?社会は私に、全ての白人一人一人を個人として扱うよう求めます。でも黒人の私はそのように扱われていません。
両親がここに移民して来たことに感謝することを求められるのに、私たちはいまだにイギリス人でないと感じさせられるのです」
多くのアフリカ系イギリス人が忘れられないこの歴史は、ただの過去ではなく「今」なのだ。
メーガン妃が結婚して王室の一員になってから体験したことや、イギリスに何十年も住む移民家族への扱いまで…それは人種差別だ。
「女王は贅沢な暮らしをしていました。でも、私たちは違います」と Igbinobaさんは話した。
ハフポストUK版の記事を翻訳・編集しました。
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「私たちは泣くべきではない」エリザベス女王の死に、アフリカ系イギリス人たちが複雑な感情を抱く理由