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学校に行けない子には「メタバース登校」の選択肢を。認定NPOカタリバと埼玉県戸田市教委が連携協定

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不登校の子どもと親に「メタバース登校」の選択肢をーー。

夏休み明けから、不登校の子をオンラインでサポートする取り組みを、埼玉県戸田市の教育委員会が認定NPO法人カタリバとの連携協定を結んで始める。

不登校の小中学生は全国で約19万6000人(2020年度)と増加を続けている。一方で、公的な支援は不足しており、相談・支援につながっていない子どもは3割以上。それらの家庭は、孤立した状態にあると推測される。

不登校の子やその支援について、現場ではどう捉えているのか、今、子どものためにどんなことが必要か。戸田市の戸ヶ﨑勤教育長、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さん(後編)のそれぞれに聞いた。

メタバース登校とは?

「メタバース登校」とは、学校に行けない子が、カタリバの運営するオンラインの学び場「room-K」などを使って、自宅などで学びを進めることができる仕組み。相談・支援の内容を元に校長が認めれば、戸田市教委では出席扱いにする方向だ。

子どもは、臨床心理士や社会福祉士などの資格を持つコーディネーターとの面談を経て、個別の時間割「マイプラン」や支援計画を作成する。

そのプランに応じて、PCなどを使って仮想空間にログインし、その中で他の子と一緒に学習・雑談やクラブ活動などをしたり、スタッフとの相談などを行ったりすることができる。研修を受けたメンターも伴走する。

オンライン支援の「room-K」についてオンライン支援の「room-K」について

room-Kが始まってからは、およそ1年が経過している。これまで参加した子どもたちにとってはどんな効果があったのだろうか。

カタリバによると、参加した子どもたちからは、個別の計画に応じて小さなチャレンジを積み重ねていくことで、「朝起きられるようになった」「目標を持てるようになった」「興味のあることがみつかった」などの声があったという。

また、利用者アンケートからは、これまで1年以上学校に行くことができていなかった子どもの約8割が、オンラインの場であれば週に1回以上活動に参加できていることがわかったという。

不登校の子の支援のため、教育委員会は学校とは別の組織として「教育支援センター」などを設けることが努力義務となっている。

これまでも教育改革を進めてきた戸田市の場合は、すでに教育支援センターに加えて、市内3校の中には校内型のサポートルームなども設置されている。

しかし、外に出ることがそもそも難しいという子にとっては、センターに通うのもハードルが高かった。そこで、戸田市では、オンライン上の教育支援センターのような「room-K」を第三の選択肢として活用していくことになったという。

また、不登校の子がいる家庭は、保護者が仕事を辞めるなどして経済的に困難な状況に追い込まれることも少なくない。オンラインでの支援では保護者のサポートも同時に進めていくという。

連携協定について発表する戸田市の戸ヶ﨑勤教育長(左)、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さん連携協定について発表する戸田市の戸ヶ﨑勤教育長(左)、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さん

ーー不登校の子が学校に行けない理由は人によって様々だと思います。しかし、全体として増えていることについて、現場ではどう捉えているのでしょうか?

戸ヶ﨑勤教育長:要因は大きく分けて三つあると思っています。一つ目は子ども自身の要素。学習のことや生活のこと、部活のこと。発達障害ということもあると思います。

二つ目は子どもというより家庭の要素。貧困や虐待も含まれますし、学校に通わなくてもいいという考えの家庭もあります。

三つ目は学校に要素があるもの。特に私が注目しなければと思っているのが、先生と子どもの認識の違いです。不登校の子への調査で、行けなくなったきっかけに「先生」を挙げた子どもの割合が小学生で30%、中学生で28%だったのに対して、学校側で要因を「教職員」に挙げたのはおよそ1〜2%という結果です。

教員としては「一生懸命子どものために」と思ってそれぞれやっているのだと思います。しかし、多様な子どもがいるので、同じような指導をしても、受け止められ方が全く違う。それで苦しくなってしまう子がいる。

これは、昔からあること、と言えばそうですが、以前は「学校は行くのが当たり前」で、不登校は「問題行動」とすればよかった。でも今は、「学校って本当に行かないといけない?」とそもそもの議論がされる時代です。

教師にとっても、やらなくてはいけないこと、発達障害がある子の対応なども含めて、勉強して身につけるべき技術が非常に多岐にわたる。難しい、戸惑いの時代だと思います。

ーー不登校に対応する「戸田型オルタナティブ・プラン」の中では、データを用いて「不登校を事前に察知する」計画も進んでいますね。

これまで、不登校になりそうだなという子のケアは、教員や保護者の感度の高さに依存していたところがあります。不登校の状態が始まってからではなく、その前に子どもが発しているSOSを検知して、困りごとがあるなら積極的に解決するというプッシュ型の支援をしていかなければいけないのでは…というのが長年の課題でした。

現在はデジタル庁の実証事業として、教育委員会だけでなく他部局、例えば虐待・貧困など家庭の状況と関連する健康診断など、子ども一人一人の総合データを作ろうという方向で検討しています。今はまだ、アドバイザリーボードの先生方によるデータ分析の段階で、SOSの検知まではできていませんが、進めていきたいと思います。

ーーデータ利用で「経験と勘と気合いから脱却した政策立案」を掲げていますね。

自治体としては、さまざまな知見を駆使して適切な支援をしなければいけない。経験や勘を軽視しているわけではありません。それも大事なことです。ただ、いつまでもベテラン教員の「匠の技」に頼って、後ろ姿で学ぶというような非効率なことをやり続けていいのかというのは疑問です。

教員の優れた技、支援の仕方を皆で学ぶために、もっともっとデータを使いながら、攻めの姿勢で取り組んで行きたい。

ーーデジタル庁の「教育データ利活用」をめぐっては、批判もありました。

個人情報の保護や倫理面での配慮は当然重要です。しかし、国と自治体とは立場が根本的に違います。我々地方自治体は、実際に子どもを助けなくてはならないんです。自治体として適切な支援をするためには、やはり様々な知見を集めて取り組まないといけないと思っています。

ーー多様な子どもたちの「幸せ」を公教育が実現するのが非常に難しい時代なのだと思います。子どもの幸せのために、今何が必要だと感じますか?

「ウェルビーイング」という言葉が政府の計画でも盛んに使われています。その言葉を言葉で終わらせてはいけない。耳障りのいい言葉ですが、具体的に「ウェルビーイングが実現できた子ども」とはどんな子どもなのか、誰もわからないまま進んではいけない。まずは現状の課題をしっかり分析して、改善のPDCAサイクルを回していかなければいけない。データの利活用などはそのための取り組みです。

個人的には、幸せに生きるには、社会的な自立が最低限の基盤ではないかと思います。そこに子ども自身の好きなものが付け加わっていくこと。ですから、社会的な自立のための支援をこれまで以上にしっかりとしていき、その子が抱えている不満が自分や外に向かうことが少しでもなくなるように、考えていかないといけないと思っています。

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