日中に猛暑日が続き、ニュースなどの天気予報では繰り返し熱中症対策が呼び掛けられています。強い日差しの下での外出時などはもちろん十分な水分補給などが必要ですが、実は熱中症に最も注意する必要があるのが夜間、とくに睡眠中だといいます。
夜こそ注意したい熱中症対策について、横浜鶴見リハビリテーション病院(横浜市鶴見区)の吉田勝明院長に伺いました。
この夏も昼の猛暑日同様、熱帯夜が増えることが予想されます。
「気象庁の統計によると、2012~2021年の平均の熱帯夜(※)の日数は、東京で7月が8.8日・8月が16.7日で、大阪でも7月が16.0日・8月が22.3日。特に東京の8月は7月に比べて2倍近くも熱帯夜の日が増えることになります。
夜間の熱中症に注意すべき日々の訪れは、むしろこれから。8月に入ってからだといえるでしょう」(吉田院長)
※ここでは便宜的に日最低気温が25℃以上の日を「熱帯夜」としています
東京都の2019(令和元)年6~9月の統計では、熱中症による死亡者総数135人のうち約3割(40人)が夜間に亡くなっています。夜間に熱中症を発症する原因はどんなところにあるのでしょうか。
「日差しの少ない夜間は室温も下がっているはずと思いがちですが、油断は禁物です。昼の高温によって家の天井や壁が暖められて蓄積した熱が、夜に放射熱となって室温を上昇させ、そのまま下がりにくくなってしまうことがあります」(吉田先生)
また身体の状態にも、夜は熱中症を引き起こす原因があるといいます。
「睡眠時は水分の補給がなされず、汗による排出だけになってしまうため、脱水症状が起こりやすくなります。大塚製薬佐賀栄養製品研究所のデータ(2000年)では、約29℃で約8時間の睡眠をとった場合、体から約500mlもの水分が失われるそうです」(吉田先生)
寝ているうちに熱中症を発症し、重症化してしまうケースも少なくありません。
「熱中症の初期には頭痛をはじめ、めまいやほてり、倦怠感(だるさ)、筋肉のけいれんなど、さまざまな症状が現れます。昼間なら自覚できるこれらの症状は、睡眠中にはなかなか気づくことができないので、気づかぬうちに症状が進行して重症化してしまうというリスクがあるのです」(吉田院長)
コロナ禍での運動不足も熱中症を引き起こす可能性があるといいます。
「新型コロナウイルスのまん延で、運動の機会が減少したことで、体力低下や筋肉量の減少が危惧されています。筋肉量が減ると脱水症になりやすいので注意が必要です。
体内に吸収された水分は、筋肉中の細胞内に貯め込まれる性質があります。筋肉量の減少によって水分の体内貯蔵量も減少し、そこへ猛暑も加わって水分不足による脱水症状、つまり熱中症を引き起こしやすくなるのです。
また筋肉量の減少は、『筋ポンプ作用』と呼ばれる静脈を通じて心臓に戻ろうとする血液循環の勢いを弱め、脚のむくみのなど原因にもなります。とくに足指など体の抹消部分の循環機能の低下は、体の冷却機能の低下を助長させてしまうので、これによっても熱中症の危険性が高まってしまいます」(吉田院長)
夜間の熱中症予防対策には、どのようなものごとが効果的ですか。
「天気予報を日々こまめにチェックして、熱帯夜の可能性が高い日はより注意を心がけてください。そのうえで、睡眠環境を整えることが大切です。寝室でもためらうことなくエアコンを適正に使用して室温が28℃を超えないようにしてください。
就寝前の十分な水分補給は必須です。コップ1杯の水か甘さを控えたスポーツドリンクを飲んでから、寝床に就くようにしましょう。厚生労働省の啓発ポスターに『目覚めの1杯、寝る前の1杯』というキャッチコピーがあります。これを実践しましょう。
ただし、お茶やコーヒーなどカフェインが含まれた飲料や、アルコール飲料は利尿作用があるため、水分補給にならないことをよく理解しておいてください。入浴などで汗をかいてのどが渇いた後、就寝前にビールのがぶ飲みするのは“危険”とされています。絶対に控えてください」(吉田院長)
真夏日・猛暑日に加えて熱帯夜が頻出する日々が、もうすぐそこに迫っています。昼間の外出時や室内にいる時とともに、就寝時の環境を整えて水分補給を十分に行うなど、夜間の熱中症対策も心がけていきましょう。
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熱中症に最も注意が必要なのは夜間、とくに「睡眠中」。対策を聞いた