7月10日投開票の参院選で、女性の当選者数は35人で過去最多となった。全ての当選者に占める女性の割合も28%となり、これまで最も高かった2016年の23.1%を上回り過去最高を記録した。
政治分野におけるジェンダーギャップの解消が一歩進んだようにも見える今回の参院選だが、選挙期間の間近には女性の候補予定者に対するハラスメント問題も起き、波紋が広がった。
今回の選挙戦を識者はどう見るのか。
女性の議員や候補者の支援、ハラスメント研修などに取り組む「Stand by Women」代表の濵田真里さんと振り返った。
ー今回の参院選では181人の女性が立候補し、女性の数も割合も過去最高となりました。一方で、政党別に見ると大きく差が開いていることが分かります。
全体に占める女性候補者の割合が初めて3割を超えたことは重要だと思います。
ただ政党別で見ていくと、与党の自民・公明とNHK党は20%台にとどまる一方、立憲や共産をはじめとする野党が全体の女性候補者の割合を引き上げた形になりました。
今後さらに全体の女性比率を上げるためには、議席数が多い与党が本腰を入れて、女性候補者数を増やす努力をする必要があります。
ー最大与党である自民党の選挙区・比例区ごとの男女別の候補者を見ると、選挙区では男性40人・女性9人、比例区では男性23人・女性10人となっており、特に選挙区における男女の比率に偏りがあります。
自民党は5月末の記者会見で、比例代表の公認候補として新たに4人の女性を決めたと発表しました。これにより「比例区での女性候補者の比率は3割に達した」と報告していましたが、開票結果をみると、比例代表の下から6番目までにこの女性4人全員が入ってしまっていました。
知名度の低い新人が比例区で当選することは極めてハードルが高いです。今回の自民党の姿勢は、「とりあえず女性を擁立して候補者の数をクリアすればいい」というような数合わせに女性候補者を使ったのではと疑問が残ります。候補を立てて終わりではなく、当選させるつもりで党として後押ししていくことが重要です。
ーそもそも、女性議員が増えることはなぜ社会にとって必要なのでしょうか。
女性議員だからといって、必ずしもジェンダー平等政策に前向きに取り組むとは限りません。ただ過去を振り返ると、DV防止法やストーカー規制法といった特に女性の人権にとって重要な政策が、超党派の女性議員たちによる議員立法で成し遂げられた側面があります。
現状では女性が負担を強いられがちな家庭内のケア労働や、緊急避妊薬(アフターピル)のアクセス改善、男女の賃金格差など、女性が現実に直面しているものの周辺化されてしまっている問題が社会には多くあります。
当事者の視点のある女性議員が増えることで、それらが「取り組むべき社会課題」として認識され、政治の場で議論が進むことが期待できます。
ー今回の参院選では、元東京都知事の猪瀬直樹氏が、日本維新の会の立候補予定者である女性の体を複数回触る動画がネットで拡散し問題となりました。
維新の松井一郎代表は、6月17日の記者会見でこの問題に対する見解を問われた時、「そういう風に(セクハラと)受け取られるような可能性があるんなら、やめるべき」などと答えていました。
一方で、投開票日のJRN・TBSラジオの報道特番『開票ライブ!参院選2022』では、「当事者がハラスメントじゃなかったということをはっきり言ってます」「猪瀬さんは隣にいた(現職の参院議員の)音喜多(駿)さんにも、チームですから親しく肩を抱いて紹介しているんですけどね。ですからちょっと誤解があるのかなと思います」などと発言しています。
ハラスメントは、権力関係があって声を上げたり抵抗できなかったりする被害者に対して行われやすい。その構造を軽視して、「ハラスメントではない」という本人の言葉を鵜呑みにして否定することは非常に危険です。
動画を見た人たちには、「自分よりも権力のある人にハラスメントを受けても、政治の場では笑って受け流さないとやっていけないんだな」と認識されてしまい、立候補したい意欲を一層そいでしまうのではないでしょうか。「ハラスメントは許されないものだ」という見解を政党としてきちんと発信しなければいけなかったと思います。
そもそも、他人の体に不用意に触ることは人権を侵害する行為だという認識のアップデートが必要です。一般の企業では体に触る行為は極めてリスクが高いことが常識ですが、それが政治の世界ではいまだに容認されていることの現れです。
ー政治分野の男女格差をなくすために、今後どのような取り組みが必要でしょうか。
「政治分野の男女共同参画推進法」が2018年に施行されました。各党に男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める内容ですが、強制力がないことが大きなネックになっています。少しずつ前進しているとはいえ、大きな山を動かすには、(候補者の一定数を女性に割り当てる)クオータ制の導入も検討されるべきです。
今回の選挙では、ある女性候補者が、小さな子どもを連れて選挙活動をすることが法律に違反する恐れがあるとの指摘を受けたことで議論を呼びました。同様の悩みは、過去の選挙で別の女性候補者からも聞いたことがあります。
多様な背景を持った人が政治の世界に入るためには、挑戦しやすい仕組みが必要です。被選挙権を持っている人全てが“政治参入のチケット”を持っているかというと、現実にはそうなっていません。
今回のような「子連れの壁」や資金面のハードル、家族のケアのため選挙活動に多くの時間を割けないといった、女性や様々なバックグラウンドの人の立候補を妨げる要因は多くあります。入り口の部分で排除されないよう、現状の制度を見直すなどこうした課題を一つずつ解消していくことが長期的には求められます。
<取材・文=國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版>
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ハラスメントは「笑って受け流すもの」とのメッセージに…女性当選者は「過去最多」でも露呈したジェンダー問題【参院選2022】