「日常のルーティンが心の安全に繋がる」不調を見逃さず対処する方法、専門家が解説【安倍元首相銃撃】

安倍晋三元首相が銃殺された事件は、メディアやSNS上で発砲の様子を捉えた映像が伝えられた。

衝撃的な映像や凄惨な事件のニュースに繰り返し触れることで、深刻で長期的な心理的影響が出ることが懸念されている。

誰もに影響が起きうるが、特に子どもや過去にトラウマ体験がある人は、配慮が必要だ。

凄惨な事件がもたらす心の負担や対処法は何か。大人や子どもの不安のサインを見逃さないためにはどうしたらいいのか。

認定NPO法人「PIECES」代表理事で児童精神科医の小澤いぶきさんへの取材やnoteに記した内容から解説する。

小澤いぶきさん

凄惨な事件がもたらす心の負担

小澤さんは、凄惨な事件など大きなストレスに直面すると「どんな人でも心が傷つく可能性があります。それは『安全を喪失した』体験でもあり、身の回りや社会が安全ではないように感じたり、突然起きたことに対しての心身のさまざまなサインが現れたりすることがあります」と説明。

恐怖や不安が強まると「例えば睡眠がうまく取れない、突然涙が出てくる、身体がいつもより緊張している、いつもはイライラしないことにイライラする、身体がだるくて何もやる気が起きないといったようなサインが見られることがあります」と指摘する。

「社会が一時的に混乱・不安定になることが、個人に影響することがあります。また、流れてくる誤情報や過激な情報に触れ、さらに心が疲弊したり傷つくこともあります」

今回、演説中に聴衆の前で銃殺されるという衝撃的な事件だったことから、社会的な影響や報道などから受ける心の負担がより大きくなることが懸念される。

犠牲となった安倍氏は、首相在職日数が通算で歴代トップで、国内外の幅広い世代に知られる人物だった。

小澤さんはこの点、「どんな人の命も、一人の人としての大切な命」と断った上で、影響を指摘する。

「著名人や一国の首相を務め誰もが知っている人である場合、より広範囲に、誰もにとって心の反応が現れたり、影響が起こりえます。また、集団としての安全の喪失や傷ともなり得ます」

「また、過去の怖い体験や暴力的なことを突然思い出し、心身にさまざまなサインが現れることもあります。このような時に心が傷つくことはとても自然なことです。『誰もが傷つく可能性があり、集団として、社会として広く傷が生まれる可能性がある』ことを前提に、報道や、情報共有、対応を考えていく必要があります」

不安の高まり、対処法は

社会が不安定となり、一人ひとりの不安が高まっているいま、私たちはどう対処したらいいのか。小澤さんはnoteでこう説明する

・情報から離れる

・日常を取り戻す

・大事な人と安全を共有する

・自分にとって安心できる、その考えから離れられるリラクゼーションを試す

・深呼吸などをし、過度に緊張し、覚醒している心身をほぐす

安倍氏の銃撃映像や事件のニュースに何度も触れることで、知らず知らずのうちに『更なる傷つき』を体験する可能性があるという。小澤さんはハフポスト日本版の取材に「繰り返される映像やニュースから離れて、深呼吸し、事件を考えない時間、違うことをする時間をぜひつくっみてください」と語る。

同時に日常のルーティンの大切さを説く。

「毎日、必ずこの日常が明日もくると思えるようなルーティンを繰り返していく。同じ時間に起きてご飯を食べる、普段していることをする。ルーティンは安全に繋がります」

自身がリラックスでき、不安の軽減や安全を感じられるような方法を試してみてほしいと、伝えている。

「深呼吸をしたり、肩をぎゅっとあげて下げたりといったことも試してみてください。自分に合った、安全だと感じる環境で気持ちを緩めることが大切です。深呼吸する、お風呂にゆっくり入る、散歩や好きな本を読むなど、自分に合った自分自身を取り戻せるような時間を大切にしてみてください」

心や身体の不安のサインは

小澤さんによると、ストレスに対して心や身体に様々な反応が出るのは自然なことだという。ただ、その状況が継続すると心が深く傷ついてしまう恐れがある。

自分や周囲の人の心や身体が不安定になっているのか、どんなサインから判断したらいいのか。小澤さんが例をあげる。

・眠れない

・いつもより落ち着かない

・身体が硬くなっている、緊張している

・呼吸が浅い

・心臓がドキドキしている

・気づいたら涙が出てきてしまう

・いつもはイライラしないことでイライラする

・常にニュースを見ていないと不安

・普段していることができなくなる

・いろんなことが安全でないと感じる

など

小澤さんはこうした変化について「起こるのは自然なこと。自分の状態を教えてくれるとても大切なサインで、自分の力でもある」と強調。心当たりがある場合は対処が必要だ。

子どもの不安のサイン、対処法は

子どもの場合はどんなサインとして現れる可能性があるのか。子ども発達段階によっても現れ方は様々だという前提で、小澤さんが例を挙げる。

・赤ちゃん返りしたように見える

・頭が痛い、お腹が痛いと訴える

いつもと比べて、

・落ち着きがない

・不機嫌・イライラしたように見える

・活気がない

など

子どもに望ましい対処法として、ニュースや情報から離れた上で「一緒に遊んだり、違うことをする」ことなどを小澤さんは挙げる。

「ニュースから一緒に離れてみてください。また、ニュース以外の子どもが普段みている番組みや普段やっていることを大切にしてください」

子どもがスマホなどを使う年齢である場合、ネットやSNS上に溢れた事件の情報に全く触れないようにするのは難しい。どうしたらいいのか。

「ニュースを見て気になったり聞きたかったりしたことがあればいつでも話してね、SNSやネットの情報がたくさんありすぎて何を信じていいか分からない時は一緒に考えることもできるから、と伝えてください」

「映像やニュースを見て、苦しくて落ち着かなかったり、嫌なことを思い出したりした時は、ニュースから離れるのも自分を守ることになること。そして、自分がやっている好きなこと、落ち着くことをやってみる方法もあることを伝えてください」

もし、事件やニュースについて何か伝えられた場合、子どもの言葉を受け止めてほしいと語る。

「びっくりしたと言ったら、『そうだよね、びっくりしたよね』と受け止める。どんな感情もあなたの大切な感情で、自然なことだと伝える。何か話したいことがあればいつでも聞くと伝えることが大切です」

また、6歳ぐらいまでの幼児期は、起きたことや、周囲の大人の反応やいつもと違う状況に対して「自分のせいじゃないかと考えることもある」という。

そのため小澤さんは「その子の責任ではないことをぜひ伝えて」とも呼びかける。

子どもが事件の情報から離れられない場合も「不安などその子なりに理由があるはず」と断った上で、こう提案する。

「まずは見たくなる気持ちを否定せずに受け止めてください。どんな気持ちの時に見たくなるのか、事件が気にならないのはどんな時か、に耳を傾けてみてください。子どもが既にできている落ち着くための工夫があるかもしれず、子どもの考えや声を大切に、情報から離れた時に一緒にできることを探してみてください。子ども自身が自分で選択し、自分の中の知恵や力に気づくきっかけにもなります」

報道やSNS発信、求められること

報道側に対しては「衝撃的な映像や、同じニュースを繰り返し流すのは、受け取り手の負荷も大きく、心の疲弊や傷に影響を及ぼすので慎重になってほしい」と、小澤さんは求める。

流す必要がある場合は、過度の強調や拡散されないような配慮や「暴力的な映像が流れること、情報から離れた方が安全な場合は離れて欲しいと事前に共有してもらえたら」と話す。 

事件の報じ方についてこう期待もした。

「衝撃的な部分だけでなく、事件が起こってしまった社会の構造や解決策、こうような危機をこうやって乗り越えたというグッドプラクティスや予防策も一緒に伝えてほしいです。また、ニュースにより起こりうる心の反応と、相談先もセットで伝えることが大切ではないかと思います」

SNS上では、事件をめぐる誤った情報や、過度に感情や対立や煽るような発信、差別的な投稿も見られる。SNSの使い方によっては、利用者一人ひとりがそうした情報の拡散に加担してしまう恐れもある。

「深呼吸して、一旦情報から離れて、意図的に(拡散を)保留することもとても大切な力。それが、痛みや排除が広がることを防ぎ、未来に起こりうる新たな暴力の予防につながるかもしれません。自分の心だけでなく周りの心を守るためにできることの一つが、保留することです」

適切な環境とケアで傷は回復していくこと、暴力的な状況を助長せず乗り越えてきた経験や知恵があるはずだと、小澤さんは伝えている。

相談窓口一覧

▽電話窓口

こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556

子供(こども)のSOSの相談窓口(そうだんまどぐち)0120-0-78310

子どもの人権110番(法務省)0120-007-110

▽SNS窓口

特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア

特定非営利活動法人 あなたのいばしょ

10代20代の女性のためのLINE相談

特定非営利活動法人 チャイルドライン支援センター

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