日本漫画家協会(里中満智子理事長)は7月4日、インボイス制度の導入に対する声明を発表した。
消費税の仕入額控除を受けることが可能なインボイス制度(適格請求書保存方式)は国税庁が2023年10月1日に導入する予定だが、各界から懸念の声が出ている。
日本漫画家協会の今回の声明は「多くの漫画家に不利益を喚起しかねない懸念事項が払拭されていない」として、「現行のインボイス制度には反対し、見直しを求めます」と結論付けている。
協会は声明の中で、国内の漫画家の大半がフリーランスであり、前々年度の課税売上高が1000万円以下のいわゆる「免税事業者」に該当する者が多く存在することを説明。
新制度下でインボイスを発行するためには「免税事業者」として活動する漫画家が、「課税事業者」への変更を余儀なくされるとした。しかし、インボイスを発行してもしなくても、「漫画家の創作活動を阻害するおそれがあります」として、以下のように懸念を示している。
<インボイスを発行する課税事業者になる場合>
システム導入・専門的なサポート等なしではインボイス発行に伴う事業者の事務処理負担が増加する
<インボイスを発行しない免税事業者のままの場合>
(仕入税額控除を受けられなくなる)発注元と漫画家との関係悪化もしくは最悪、免税事業者であることを理由に取引が中止される
その上で、さらなる懸念として「インボイス発行事業者になると『適格請求書発行事業者公表サイト』に本名が公表されるため、個人情報保護への懸念を抱く漫画家も少なからず存在する」と漫画家の個人情報が明かされることへのリスクも表明した。
声明全文は以下の通り。
私たち日本の漫画家は、その大半がフリーランスとして創作活動を行っております。その中には前々年度の課税売上高が1,000万円以下のいわゆる「免税事業者」に該当する者が多く存在します。
インボイス制度(正式名称:適格請求書等保存方式)では、出版社等の発注元が仕入れ税額控除を行うためには、取引事業者から登録番号が記載されたインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要があります。インボイスを発行するためには所轄の税務署に登録しなくてはならないため、免税事業者は課税事業者への変更を余儀なくされます。
インボイスを発行できない場合、発注元と漫画家との関係悪化もしくは最悪、免税事業者であることを理由に取引が中止される等のリスクが考えられます。また課税事業者へ変更したとしてもシステム導入・専門的なサポート等なしではインボイス発行に伴う事業者の事務処理負担が増加することも懸念され、これらはいずれも漫画家の創作活動を阻害するおそれがあります。
次に、そもそもインボイス制度は商品等のカテゴリーによって8%と10%の複数税率が混在する「軽減税率制度」に伴い導入されたものであり、制度導入の前に一時的な一律税率化を検討する余地はあると考えます。またペンネームで活動することの多い漫画家にとってはインボイス発行事業者になると「適格請求書発行事業者公表サイト」に本名が公表されるため、個人情報保護への懸念を抱く漫画家も少なからず存在するのが実情です。
健全なる漫画の普及および漫画創作活動の奨励、ひいては我が国文化の発展に寄与することを目的として活動する当協会は、前述のいくつかの懸念事項を払拭できない限り、現行のままインボイス制度が導入されることは看過できません。
先般、政府が閣議決定した「骨太の方針 2022」においても「クリエーターの創作活動の支援」が重点施策として盛り込まれているという現状、多くの漫画家に不利益を喚起しかねない懸念事項が払拭されていない、現行のインボイス制度には反対し、見直しを求めます。
2022年2月28日
公益社団法人日本漫画家協会
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「漫画家の創作活動を阻害するおそれ」インボイス制度に反対する日本漫画家協会の声明全文