企業広告がSNS上で炎上するというのは日本でも近年よく聞く話だけれど、デンマークでもここのところちらほらとそんな話を耳にするようになった。
今回は、デンマークの伝統的な誕生日ケーキ、kagemand(あるいはkagekone)について、ある有名なベーカリーチェーンがこのケーキ名を少し新しくしたことから炎上したという話題について書いてみたい。
Kagemand/kagekoneとは、
という意味で、簡単にいうと人型をしたケーキのことを指す。
これはデンマークで人々が職場や学校、家庭で誕生日を祝いたいとき、自宅で作ったりベーカリーで予約できるタイプの伝統的なケーキで、ほとんどの人がどこかで一度は口にしたことのあるものだ。記事トップの写真のように、人間のかたちに焼き上げたパンに、グミやチョコレート、クリームなどでデコレーションをした非常に甘いケーキである。
6月初めにある有名なベーカリーチェーン、Lagkagehusetが、すでに販売している kagemand(男性)とkagekone(女性)に加えて、性別を限定しないkageperson (男性・女性という語を使用する代わりに、性を限定しない”パーソン”という言葉に変えた)という商品を増やしたことをフェイスブック上で紹介したところ、多くの人々が反応した。
「もういい加減にして」「そのうち”男”って言葉がつく単語はなくなるんじゃないか?」「wokeはもううんざり」など、怒りのコメントを中心に、普段は2桁程度のコメント欄に、4000件以上のコメントが付き、ネットニュースやワイドショーなどでも大きく取り上げて話題になった(ちなみにデンマークのフェイスブックのコメント欄は日本のヤフコメのような場所になっていて、国会議員や企業の炎上の場にもなっている)。
ことの始まりは、ある全国紙がこのベーカリーのフェイスブック投稿を発見し報じたことだった。「今後、このパン屋では”男性”・”女性”ではなく、”パーソン”という商品名で注文することになったらしい」との声に、人々は激しく反応したようだ。
しかしそもそもこの商品名を発表したベーカリー自身は、商品の選択肢を増やしただけで、kagemand(男性)、kagekone(女性)という従来の呼び名の商品も残したまま、新たにkageperson (パーソン)という新しい商品名を加え、性別に限定されないケーキを注文したい人が選べるようにしただけだとのこと。つまり、報道された内容には誤りがあったということだ。
それでもこのような誤解が起こってしまうこと、そしてそれが炎上へと発展してしまうのには、人々が近年、言葉選びに慎重になっていることや、それを支持する人々とそうでない人々との間で溝が深まりつつあるからかもしれない。
この新しい商品名について、初めて報じたBerlingske紙編集長、トム・イェンセンは、「社会の規範や伝統とは、何年も、幾世代にもわたって議論しながらゆっくり変わっていくものである。しかしこのような“woke”(社会で起きている様々な問題に関心をもち、多様な立場に理解を示す人々の状態を示す英語のスラング)な人々は、社会の少数者が求める規範を多数派に求め、さらにそれを短期間で徹底しようとしている」と批判的な見解を示している。
またデンマークの右派政党元代表、ピア・ケアスゴーは「この商品名(パーソンの方)は異常。従来からあるケーキ(kagemand/kagekone)にとっても良くない」とし、このベーカリーチェーンをボイコットするとも発表している。こうした鼻息の荒い反応と、新商品名を支持するという人々との間で、SNS上では激しい意見が交わされた。
この新商品名はありなのか、なしなのか。
人々の関心が高いこともあり、国営放送DRのワイドショー番組でもこの話題は取り上げられた。番組には、ゲストとしてデンマークLGBT+事務局代表のスサンネ・ブランナーも参加していた。
今回の件はベーカリー自身が、性の多様性に配慮した商品名を選んだことを、ブランナーはどう評価するのだろうかと注目されたが、ブランナーの発言は、今回の炎上どころではない、もっと切実な問題について触れたものだった。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
炎上で見落とされたこと 。性的少数者の生きづらさにこそ光を当てて