法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないのは憲法違反だとして、全国のLGBTQ当事者が国を訴える「結婚の自由をすべての人に」裁判で、大阪地裁(土井文美裁判長)は6月20日、原告側の訴えを棄却しました。
判決理由は「同性愛者と異性愛者の間に差異はあるものの、同性間の関係にどのような保護を与えるかはまだ議論の過程にある」などとしています。
判決後、大阪市内で行われた記者会見で、弁護団の三輪晃義弁護士は「国が議論をしないからこそ、裁判を起こしています。今回の判決は、少数者が置かれている人権侵害を解消することが期待される司法府の役割を放棄したに等しい」と指摘。
「同性愛者は婚姻制度から排除され、自身の望む人生を歩めず亡くなる当事者も多くいます。原告は、こういった扱いを受けるのは自分たちの世代で最後にしたいと訴えており、この判決は到底許容することができません」として、控訴する方針を示しました。
「結婚の自由をすべての人に」裁判は、全国で30人以上の性的マイノリティが原告となり、全国5つの地裁、高裁で裁判が進んでいます。
大阪地裁の訴訟では、坂田麻智さんと坂田テレサさん、田中昭全さんと川田有希さんら3組のカップルが原告になっています。
この裁判には、2つの大きな争点があります。
1つ目は、戸籍や住民票の性別が同じふたりの結婚を認めないことは、憲法が保障する「法の下の平等」(14条)や「婚姻の自由」(24条)に違反しているのか。
2つ目は、もしいずれか、もしくは両方が「違憲」と認められた場合、国が憲法違反の法律を放置し、必要な法整備を怠っていたことが、国家賠償法に反する「立法不作為」で、違法になるのか。
昨年3月には札幌地裁が、「法律上の性別が同じカップルだけが、結婚によって得られる法的な効果を受けられないのは、憲法14条に反する不当な差別で違憲」といった判決を下しました。
今回の大阪地裁の訴訟では、憲法14条にも24条にも違反しておらず、立法不作為も成立しないとして、原告側の請求を棄却。
原告の「違憲」とする訴えを退け、「結婚の平等」をめぐる司法判断が札幌地裁と分かれる形となりました。
大阪地裁の判決では、憲法24条1項について、
・憲法24条の条文には『両性』や『夫婦』などの文言が用いられている
・24条の制定過程でも「男女両性」などの文言が用いられ、同性間の婚姻について議論された形跡はない
といった点から「『婚姻の自由』が保障されているのは異性カップルのみで違反は認められない」といった判断を示しました。
また憲法14条1項について、
・24条1項は、同性婚を禁止するという趣旨ではないものの、異性間の婚姻について定めている
・結婚できないことによって、同性愛者が被っている不利益や異性愛者との「差異」は、自治体によるパートナーシップ制度などで緩和されつつある
などとして、「同性愛者と異性愛者の間にある「差異」は、国会の立法裁量の範囲を超えたものとは言えず、『法の下の平等』を保障する憲法14条に違反しない」といった見解を示しました。
また判決のポイントとして、
・婚姻制度は「男女が子を産み育てる関係を保護する」ことが目的。同性間の関係にどのような保護を与えるかはまだ議論の過程にある
・同性カップルについて「公認に係る利益」を実現する方法は、今ある婚姻制度の対象に同性カップルを含める方法だけではなく、新たな類似の制度を創設することもできる。どんな制度が適切かは、国の伝統や国民感情などを踏まえた上で、「民主的な過程」において決められるべき
といった点も挙げています。
大阪地裁は以上のことから、 法律上の性別が同じふたりの結婚を認めないことは、憲法に違反するものではなく、「立法不作為も認められない」と結論づけました。
判決後、大阪市内で開かれた記者会見で、弁護団は「当事者が人権侵害されている現状に向き合っておらず、到底受け入れられない。特に、憲法14条の法の下の平等に違反しないとの判断は、札幌地裁判決が示した違憲の理由を覆すような説得的な理由は示されておらず、極めてずさんな判断だ」と非難しました。
判決では、結婚できないことによって同性愛者と異性愛者が享受できる法的効果に「差異」があると認めたものの、「遺言など他の制度などを用いることで、一定の範囲では婚姻と同等の効果を受けることができる」としています。
近年、各自治体が同性カップルの関係を認める「パートナーシップ制度」が広がっているものの、法的拘束力はなく、期待できることですら公営住宅の入居などごくわずかです。当事者はパートナーの法定相続人になれず将来の不安を抱えるなど、法的効力は婚姻に遠く及びません。
三輪弁護士は「この裁判で私たちは、同性カップルにも、男女に限定されている婚姻制度にアクセスさせてほしいと主張してきました。別の制度ができたとしても、同性愛者の人権が侵害されている状況は改善されません」と話します。
また婚姻制度の意味について、大阪地裁は「男女が子を産み育てる関係を保護するもの」と説明しました。これに対して、大畑泰次郎弁護士は「国の主張に大阪地裁がのってしまった形で、非常に残念」と指摘します。
国の「結婚は子を産み育てるもの」という主張は以前から、男女でも子を授からない夫婦もいることなどから批判が集まっていました。また原告の坂田テレサさんは、ゲイの友人から精子提供を受け8月に出産する予定で、パートナーの坂田麻智さんと一緒に育てていくといいます。坂田さんをはじめ、子どもを育てる当事者も増えており、珍しくなくなってきています。一方、テレサさんがアメリカ国籍であること、日本で同性婚が認められていないことにより、生まれてくる子どもには、共同親権もダブル国籍もとることができないといいます。
三輪弁護士は「本人尋問などを通じて裁判官に、当事者が置かれている日々の過酷な生活を直接伝えてきたつもりですが、そうした現状を軽視や無視しているから、こうした判決が書けるのではないかと思いました」と話します。
判決文には、「議論が尽くされていない」といった指摘が繰り返し盛り込まれました。
三輪弁護士は「国が議論をせず、性的マイノリティの尊厳が長きにわたって奪われ続けてきたからこそ、この裁判は起こっています」と指摘。実際、昨年3月に札幌地裁が「同性カップルが結婚できないのは違憲」といった判決を下したものの、具体的な議論はほとんどされていないのが実情です。
三輪弁護士はこう訴えます。
「議論を尽くさないと、少数者の尊厳というのは回復されないのでしょうか。また、その議論というのは誰がして、どういうところまで達したら憲法違反に当たるのか、そんな目安があるのでしょうか」
「そもそも少数者が抱える問題というのは、多数の人が積極的に議論をしないから、差別として残り続けているわけです。議論をしている間にも当事者の方は亡くなっています。そのような状況を、議論がまだ途上だということで放置することは、私は許されないと思っています」
「多くの場合少数者の立場というのが無視、軽視されて制度ができてしまうということだと思うんです。それを是正するには裁判所が積極的に司法判断をするべきケースというのはまさに今回のケース。司法府の役割というのは、人権侵害があったときにそれを解消する方向での役割が期待されています。その点で、今回の大阪地裁判決は、司法府の役割を放棄したに等しいと思っています」
<取材=佐藤雄(@takeruc10)、坪池順(@juntsuboike)/ハフポスト日本版>
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「人権侵害を解消せず、司法の役割を放棄した」。判決に原告側が訴えたこと【結婚の平等裁判】