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iPhoneには「脱獄」という、改造方法があります。
ユーザーが脱獄を行う理由や、長年にわたって脱獄に使用されてきたソフトウェアの解説、そして脱獄に対してのAppleの対応について、Appleに詳しいYouTubeチャンネル「Apple Explained」が解説しています。
*Category:テクノロジー Technology|*Source:Apple Explained ,wikipedia
Appleを苦しめる「脱獄」の始まりとは?
「脱獄」を一言で言うとiPhoneの「特権の拡大」です。分かりやすくいうと、ユーザー権限を増やし、iOSにどれだけアクセスできるかということです。
iPhoneを脱獄すると、それまで制限されていたOSの一部にさらにアクセスできるようになります。つまり、デバイスの特権レベルが上昇するということです。
脱獄は、通常OSの設計上の欠陥やバグなどのいくつかの種類を悪用することによって実現することが可能です。脱獄をすると、iPhoneでできることが、脱獄前より格段に多くなるのです。
脱獄という言葉は、iPhoneが発売してから使われるようになった言葉ですが、Playstationのような他のシステムでの権限昇格を表す言葉としても使われています。
近年では、他のシステムでも同様のツールが開発されています。
例えば、「root化」は、Androidスマホやタブレットのユーザーの間で、デバイスの特権を昇格させるための一般的なプロセスになりました。
テクノロジーをいじることが好きな、ハッカーや開発者そしてプログラマーの巨大なコミュニティのおかげで、リリースから短時間でiOSを脱獄する方法が見つけられてきました。
現在、脱獄方法にはいくつかの種類があります。
まずは、アンテザードといわれる方法です。これは一番理想的な脱獄の状態で、開発者が脱獄ツールの開発過程において最終チェックを行い、ネットで一般ユーザーに公開したものです。つまり、再起動をすることなく使用できます。
次は、テザードといわれる方法です。これは、再起動をする度にコンピューターに接続して、脱獄ツールを起動させ、そこからiPhoneを再起動する必要があります。ただ、脱獄アプリがうまく実行されない可能性があります。
最後に、セマイテザードという方法です。これは、デバイスを再起動するたびに脱獄する必要がありますが、コンピュータを必要とせず、デバイス上のアプリで行うことができます。
ユーザーはなぜ、このようなことをして、脱獄をさせたいと思うのでしょうか。
それは、最初のiPhoneがリリースされたとき、ユーザー自身が管理権限を持っていなかったからです。つまり、個人のデバイスであるにも関わらず、かなりの制限があったということです。
Appleはこれらの制限には正当な理由があると主張しています。しかし、ユーザーにとっては、無制限にアクセスできる魅力の方が強かったのです。
脱獄をすることによって、ユーザーは自分のデバイスを完全にカスタマイズすることができます。つまり、代替の文字入力システムをインストールしたり、アプリのコマンドラインにアクセスして変更を加えたり、インターフェースを完全にカスタマイズすることが可能になるのです。
また、すでにダウンロードしたアプリのカスタマイズだけではなく、脱獄することでApp Storeにないアプリやソフトをダウンロードすることも可能になります。
しかし、App Store以外からアプリを入れる場合は、マルウェアやスパイウェアなどの有害なツールを含んでいる場合があり、未許可のアプリをダウンロードする際には注意が必要でした。
最後に、脱獄の最大の動機の1つは、初代iPhoneにキャリアの互換性がなかったことです。
アメリカでは、2011年まで「AT&T」という通信会社がiPhoneを独占的に販売していました。
ユーザーの中には「独占キャリアとの高額な契約に縛られたくない」「既存のプランからキャリアを変更したくない」「AT&Tの携帯電話サービスが悪い」などと考えている者が多数いたのです。つまりiPhoneを他社で使いたいということです。
しかし、キャリアを早期で解約すると違約金が発生することや、他国から制限がかかっていないiPhoneを輸入しても、契約を強いられるといった問題に依然と直面していたのです。
そして、この解決策として一番有効だった方法が脱獄だったのです。
Appleとキャリアは、勝手に他社で使われないようにする為に、脱獄を阻止しようとしました。しかし、ユーザーは脱獄をすることによって、Appleが正式に認めていないキャリアでiPhoneを使うようになったのです。
最初の脱獄は、2007年にジョージ-ホッツという若い男性によって行われまし。彼は、当時17歳で、メガネのドライバーとギターピックを使って、iPhoneとキャリアを結びつけるハードウェアの一部を取り外しました。そして、初代iPhoneをT-Mobileという通信会社で使用することに成功したのです。
その直後、ハッカー集団がiPhoneのカスタム着信音を再生する動画をYoutubeにアップロードし、脱獄が成功したことを証明したのです。
この2つの出来事がきっかけとなり、脱獄のムーブメントが発生しました。
また、2007年10月に「iPhone Dev Team」と呼ばれる、ハッカー集団が脱獄ソフトウェアをリリースしたのです。これで、簡単にiPhoneを脱獄させることができるようになりました。
JailBreakMeまたはAppSnappと呼ばれるこのバージョンは「JailBreakMe.com」からアクセスでき、ユーザーは簡単にプロセスを開始することができます。
一時期、ハッカーがApple Storeに入り、展示されているiPhoneを脱獄することが頻繁にあったため、Appleは店内の無線LANでJailBreakMeのウェブサイトにアクセスできないようにしました。
この時点で、脱獄コミュニティには多くの関心が集まっていたのです。
Appleは脱獄が重大な被害をもたらす可能性があると考えました。そして、iOSのアップデートを何度も行い、脱獄ができないように対策したのです。
しかし、ハッカーは常に新しいiOSのアップデートがリリースされると、直後に新しい脱獄を考え出したのです。
スティーブ・ジョブズは、この絶え間ない攻防を猫とネズミのゲームと呼び、アップルが猫なのかネズミなのかよくわからないと語っていたそうです。
iPhone Dev Teamは、2008年に当時「PwnageTool」の新バージョンを「iPhone OS 2」に向けにリリースし、それとともに「Cydia」と呼ばれる、脱獄したデバイスでソフトウェアを検索、ダウンロード、インストールするためのプラットフォームを導入しました。
このCydiaは脱獄の歴史の中で最も重要な発展の1つです。
これは、Jay Freemanという人物によって開発され、実質的に最初のアプリマーケットプレイスとなったのです。
Cydiaは、ユーザーがアプリをダウンロードするだけでなく、Tweakをインストールし、コンテンツをカスタマイズし、かつてないほどにiPhoneをカスタマイズできるようになったのです。
その結果、ユーザーは広告ブロッカーをインストールしたり、テーマを変更したり、AT&Tのネットワーク外で電話をかけたり、データストレージの設定を変更できるようになりました。
CydiaとJailbreakMeのパートナーシップは数年にわたり強固なものであり続けることになったのです。
Cydiaのリリース後、iPhone Dev Teamはかなりのお金を稼ぐハッカーのコミュニティとなりました。
彼らとAppleの関係は、複雑でした。Freemanとハッカー達はしばしばWorldwide Developer’s Conferenceに現れたり、チームメンバーの一人であるBen ByerはAppleの社員であることが判明したのです。
新しいiPhoneが発売されると、数日以内にハッキングされ続けました。iOS 3.1.3と3.2には、ニコラス・アレグラが開発したワンクリックツール「Spirit」がリリースされ、後にiPhone 4用の「JailBreakMe 2.0」もリリースされました。これらは、Safariブラウザ経由でアクセスできるワンクリックツールです。
他のハッカーも何年もかけて脱獄の世界に参入し、新しいiOSやiPhoneのリリースに合わせて、他のソフトウェア・バージョンもいくつか作成しました。これらのツールの中には、脱獄ツールで有名なLimera1nやAbsintheも含まれています。
ほぼ全てのリリースには独自の脱獄があり、常にハッカーが貢献しています。
しかし、時間が経つにつれて、AppleはiOSに多くの脱獄機能を統合し始めました。そして、多くのキャリアで通信もできるようにしたのです。その結果、脱獄の人気は低下していきます。
かつてはiPhoneユーザーの10%近くがやっていたことですが、今ではほとんど趣味の世界になってしまったのです。
それにも関わらず、iOS 11用の脱獄ツールは「Electra」「RootlessJB」「LiberiOS」などが存在しています。
Electraの脱獄方法はセマイテザードであり、2018年1月にCoolStarによってiOS 11用に開発されました。しかしCydiaをサポートしていませんでした。Cydiaに対応する新しいバージョンは2018年2月にリリースされ「iPhone」「iPad」「iPod Touch」のiOSや「Apple TV」のtvOSで実行できるようになりました。
LiberiOSもElectraの直前の12月に登場したセマイテザードの脱獄です。そして、Rootless JBはその後、2018年7月にリリースされました。
繰り返しにはなりますが、近年は脱獄の人気も機能もかなり低下しています。しかし、iOSのバージョンアップごとに新しい脱獄用のツールが新たに登場する可能性は十分にあります。
オリジナルサイトで読む : AppBank
【Apple vs ハッカー】iPhoneと「脱獄」の長い歴史