複数の中傷ツイートに「いいね」を押され名誉を傷つけられたとして、伊藤詩織さんが自民党の杉田水脈議員に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は伊藤さん側の請求を棄却した。
今回の訴訟では、誹謗中傷のツイートに対する「いいね」が名誉を傷つけるとして法的責任を問えるかが焦点となった。
伊藤さんは判決後の記者会見で「『いいね』による誹謗中傷が認められないことで、裁判所がセカンドレイプを許しているような気持ちになりました。苦しむ人が多くいるからこそ、社会全体でアップデートが必要だと思います」と訴え、控訴する方針を明らかにした。
伊藤さんは杉田議員が誹謗中傷のツイートに「いいね」をしたことについて、「誹謗中傷を繰り返されることによって、ずっとナイフを突きつけられる感覚がありました。とても傷つきましたし、法律を作っていく国会議員の方が個人攻撃を助長するような空気を作っていたことに恐怖を感じていました」と振り返った。
その上で判決に対し、「『いいね』をすることが許されると、セカンドレイプや個人の尊厳を傷つけることができる社会になってしまう。そういった空気は、被害を受けた人を沈黙させることにつながってしまう」と述べた。
伊藤さんは、誹謗中傷を繰り返されたことで眠れなかったり、自死が頭によぎったりしたこともあったと明かした。中傷ツイートに「いいね」を押す人に対しては、「『いいね』をすることで、その人にどういった苦しみがあるか、押す前に考えてもらいたい」と訴えた。
判決では、「いいね」を押すことが違法と認められるのは、「加害の意図を持って執拗に繰り返されるといった特段の事情がある場合に限られる」とした。
代理人の佃克彦弁護士は「杉田氏は伊藤さんを誹謗中傷するツイート25件のほか、伊藤さんやその支援者を悪く言うツイート計約100件に対し、わざわざ『いいね』をしている。これが執拗と言えず違法性を超えないというのは甚だ遺憾で、承服できない」と話す。
武藤貴明裁判長は、杉田議員の「いいね」をめぐり、「これによって示される好意的・肯定的な感情の対象や程度をうかがい知ることはできない」との判断を示した。
これに対し佃弁護士は、「いいね」を押した真意を聞くため杉田議員の尋問をするよう裁判所に申請したにもかかわらず、それを採用されなかったと主張。
「立証の機会を奪っておいて、杉田氏がどういうつもりで『いいね』をしたのかわからないと言われても、じゃあ我々は何をすればいいのかという話。裁判所の訴訟進行は非常にアンフェアだと思っています」と憤った。
「杉田議員の言動の影響力は絶大」という伊藤さん側の主張に対し、判決は「被告の影響力によっても結論は左右されない」として認めなかった。
この判断について、佃弁護士は「杉田氏がどういう職業であろうと、11万人のフォロワーがいる状態での『いいね』は一定の責任を伴うはず。その点に対する考慮を裁判所は十分に払っていなかった」と批判した。
伊藤さん側は、杉田議員が2018年6〜7月、性暴力被害を訴えている伊藤さんに対する、匿名のTwitterアカウントによる「枕営業の失敗」「売名行為」「嘘をついて日本を貶めている」といった誹謗中傷の投稿に「いいね」を押され名誉を傷つけられたとして、220万円の損害賠償を求めた。
判決では、杉田議員が誹謗中傷のツイートに「いいね」を押したことについて、その投稿に対する「好意的・肯定的な感情を示したものと一般に受け止められるものだと認めるのが相当である」と指摘。
一方で、「いいね」はブックマークや備忘などの目的で使われることもある上、「いいね」を押すこと自体は「感情の対象や程度を特定することができず、非常に抽象的、多義的な表現行為にとどまるもの」だとした。
その上で武藤裁判長は、「『いいね』を押す行為は、原則として社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価することはできないというべき」と結論づけた。
判決後、杉田議員は「妥当な判決だと受け止めております」とのコメントを文書で出した。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
伊藤詩織さん「裁判所がセカンドレイプを許している気持ちに」。杉田水脈議員の“いいね”裁判、控訴の構え