鳩貝啓美(はとがい・ひろみ)さんが、自分は同性を好きになると気がついたのは、小学5年生の時。
「同性愛なのかもしれない」と思い、本で調べると「異常性愛」や「性的倒錯」と書かれていてショックを受けた。「決して誰にも知られてはいけない」と感じ、自分の性的指向をひた隠しにして10代を過ごした。
それから約45年経った今、鳩貝さんは裁判の原告として同性婚の実現を求めている。
「結婚の自由をすべての人に」裁判・東京2次訴訟の口頭弁論(飛澤知行裁判長)が開かれた3月24日、鳩貝さんは意見陳述で「結婚できるかどうかは、差別にも影響を与える重要な問題だ」と訴えた。
通称「同性婚訴訟」で知られるこの裁判は、全国5つの地裁と高裁で進んでおり、30人を超える原告が、法律上の性別が同じ者同士の結婚を認めるよう国に求めている。
鳩貝さんは24日の意見陳述で、自身の性的指向を受け入れるのに長い年月が必要だったことを明かし「結婚が認められないことこそが、同性愛者への差別、偏見を維持している」と強調した。
20代まで、自分の未来を描けなかった
鳩貝さんは大学生になって同性の恋人ができたが、2人で同性愛の話をしたことはなかったという。「自分たちの関係を語ることすらできない、直視できない心理状態だったんだと思います」と話す。
2人にとって、結婚が認められないとは未来がないことを意味した。恋人から「あなたが男だったら結婚できたのに」と言われた鳩貝さんは打ちのめされ、自ら彼女との関係を終わらせた。
苦しみの中で自らのセクシュアリティと向き合った鳩貝さんが、自分が同性愛者であることを受け入れられるようになったのは20代後半だった。
18年かかった理由を「普通に結婚をして生きていく選択肢がないことで、まったく自分の未来を描けなかった」と振り返る。
「結婚という選択肢がある世の中になれば、自分の核となる部分が定まって、進路や職業選択、生き方の模索がのびのびとできていたと思います」
結婚できなければ、差別は温存されたまま
鳩貝さんは16年前に、現在のパートナーの河智志乃(かわち・しの)さんと出会った。「この先も一緒に生きたい」と思える相手だった。
両親やきょうだいは受け入れてくれた。しかし、弟の結婚式で河智さんを親戚に紹介しようとしたところ、母親がためらいを見せることもあった。鳩貝さんは「パートナーとして扱わないなら、結婚式を欠席する」と詰め寄った。
「異性カップルであれば、何ごともなく進んだはずなのに、なぜ大切な親とパートナーを天秤にかけ、揉めなくてはならないのか…」という思いは、鳩貝さんを苦しめた。
また結婚できないことで、異性カップルにはない経済的な負担もかかった。
鳩貝さんと河智さんは、家を建てる時に2人で住宅ローンを借りられなかった。同性カップル向けの住宅ローンはあったものの、公正証書やパートナーシップ契約書が必要だった。
ただでさえ、男女の収入格差が大きい日本社会。鳩貝さんたちは「レインボーコミュニティcoLLabo」でレズビアンなどの性的マイノリティを支援してきた経験からも、女性同士で経済的に余裕のある人生を成り立たせることは大変だと感じている。
「自分たちなりの工夫をして2人の人生を守るために闘っています。しかしこの先も自分たちで努力して勝手に生きていけというのは、あまりに過酷だと思います」
こういった経験から「同性同士で結婚できなければ、差別は温存されたままだ」と訴えた鳩貝さん。若い世代が同じ苦しみを味わって欲しくないと語った。
「同性同士で結婚できる法制度が整うことで、ようやく平等のスタートになると思います。子どもや若者、これからセクシュアリティに気づく人たちに、私と同じ経験はもうさせたくありません」
命がかかっている裁判と認識してほしい
国は、異性カップルの結婚を認めない理由について「結婚は、子を産み育てる男女に法的保護を与えるための制度だから」「男性も女性も異性とは結婚できるが、同性との結婚は認められていないので、差別的とは言えない」などと主張してきた。
原告の弁護団は24日の口頭弁論で、こういった国の主張を「婚姻制度の目的は当事者の親密な関係を保護することであり、生殖保護という見解は、法解釈としても社会的事実としてもありえない」と厳しく批判。
「男性も女性も異性とは結婚できる」という主張についても、「私たちが問題にしているのは、結婚したい相手が自分と同じ法律上の性かどうかで結婚できる・できないが決まるのが差別だということで、男性一般と女性一般の間で差別を問題としているのではない」と、論点のずれを指摘した。
さらに、弁護団はこれらの主張について、被告の国に対し、見解を確認する質問をしたものの、国は「回答するかどうかも含めて検討する」と答え、裁判長から次回の口頭弁論までに準備するよう促される場面もあった。
河智さんは口頭弁論後の取材で、こういった国の姿勢について「いい加減にしてくれという思いはある」と語った。
「これは命がかかっている裁判で、時間をかける裁判じゃないと思っています。そこを国はしっかり認識して欲しいです」
鳩貝さんも、この河智さんの言葉に賛同し、1日も早く婚姻の平等が実現して欲しいと願う人たちがいると訴えた。
「裁判が始まってから1年経ちますが、その間に、同性婚や自治体のパートナーシップ制度を求める活動をしながら亡くなった方が複数いらっしゃいます。そのことや、若い人の中にもセクシュアリティに気づいて苦しまなければいけない人がいるかもしれないことを思うと、1日も早い実現を願いたいです」
【「結婚の自由をすべての人に」裁判・東京2次訴訟】
・(第1回)娘を守るために嘘を重ねた。同性婚2次訴訟、初弁論で原告が訴えたこと
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「結婚できなければ差別は温存される」同性婚が必要な理由、原告が語る【東京2次4回】