「命の危険」冒して避難か、飢えに耐えるか。ウクライナ人女性の家族に起きていること

「家族を抱きしめたい。今すぐに」

イギリス在住のウクライナ人の女性は、母国で戦火に見舞われている家族に向けて呼びかけた。

女性は日々、家族の安否や状況をInstagramで発信し続けている

両親と祖父母は、ロシアによる侵攻が続くキエフなどウクライナ国内にとどまっている。実家は焼け、両親はわずかな食糧を食いつないで、命の危険と隣り合わせの日々を過ごしている。

命の危険にさらされながら避難するのか。それとも飢えに耐え忍ぶのか。両親の間でも意見が分かれているという。今のウクライナで何が起きているのか。

女性の投稿から、彼女や両親の身に起きたことを紹介する。

女性の両親は、首都キエフと北方のデマルの間に住んでおり、周辺地域ではロシアによる侵攻が始まった当初から、戦闘が繰り広げられ緊迫した状況が続いているという。祖父母はキエフ中心地に住んでいる。

侵攻が始まった2月末、両親は1日のほとんどをシェルターで過ごした。頻繁に爆撃音が聞こえ、窓が音を立てて揺れたという。母親からは「机の前で祈ることしかできない」とメッセージが届いた。

毎日、両親の無事を祈る日々。女性は「どうしても家族を抱きしめたい。今すぐ。本当に」と苦しい胸の内を明かした。

なぜ、避難しないのか。

女性はそんな問いに続いて「両親の住んでいる村には文字通り戦車がいて、いつ撃たれてもおかしくない」と説明。さらに、両親が住んでいる地域からキエフに繋がる橋が破壊され、移動方法がないという。

2年前に脳卒中を患い、何の不自由なく動けるわけではないという祖父を例に「交通手段もなく、高齢の人たちが首都キエフから国境まで逃げられない」と訴えた。

時折、家族からの連絡が滞ると「最悪のシナリオを考えずにはいられない」と恐怖に駆られた。また「戦争地域以外の生活」が存在すると受け入れるのが最も困難なことの一つだと、女性は打ち明ける。

女性にもロンドンでの自身や子どもの生活がある。ただ、ウクライナにいる何百人もの子供たちが恐怖に震える日々を過ごしていることを思うと、「それが私だったかも。息子だったかも」と考えずにはいられないという。

3月に入っても、両親は脱出する術がなく実家にとどまっていた。ガスや電気もなく、火を起こして調理しなければいけない状態だったという。父親からは「静かな夜だった。でもそれがかえって不安にさせる」と連絡があった。

女性は、西欧諸国のリーダーに向けて「何年もチェチェンやジョージア、シリア、ウクライナの人たちが、西欧諸国にプーチンを止めるよう懇願してきた。聞こえてきたのは“外交”や”交渉”というつぶやきだけで、行動はほとんどなかった」と投稿。

「私たちは手遅れになるまで放置した。そしていま、ヨーロッパで大規模に行われているジェノサイドを目撃している」と対応を批判した。

3月4日ごろ、両親が住む5キロ先の村で、巨大な爆撃が起きた。ウクライナ軍からロシア軍への攻撃があったという。

この際にやりとりした母と父の様子は「さよならを伝えているように見えた。希望を失い最悪に備えているかのようだった」と女性は振り返る。無事を祈ることしかできず「このことを許さないし、忘れない」と憤りをつづった。

その後、両親が地下室に隠れている間に家に火の手が上がった。両親は無事だったが、飼っていた一部のペットが犠牲となり、家具なども全て焼けた。なぜ火が出たのかは定かではないという。

女性は「私がとても大切にしていた場所にもう2度と戻れない。子どもが泳ぎや自転車に乗るのを学んだ場所。耐えられない」と悔やんだ。

幸い、両親は他に過ごす場所が見つかったという。爆撃はしばし収まった様子だったが、飲食料が乏しい状態が続いていた。母親と電話すると、家族で避難を考えていると告げられた。

「この悪夢が現実だと信じられない」

最悪の状況下でも、わずかに良い知らせもあった。キエフにいる友人が、祖父母に食料を届けてくれたという。友人から送られてきた写真には、飼い猫と一緒に映る祖母の姿があった。

3月5日、女性は祖母がロシアの人たちに向けて呼びかけた動画を投稿。次のように話していたという。

「目覚めて、この悪夢が現実であることが信じられない。眠ることもできない。病院を破壊し、子供達の命を奪っている。どうして?恐ろしく、ショックを受けています。幼い子どもたちがどうやってこの恐怖を理解したらいいのか。無関心にならず、彼(プーチン)を止めて」

キエフ中心地にいる祖父母は、いまのところ外に出歩くことができている。近所では犬を連れて歩く人の姿もあるという。

女性は祖母に対して、その場から避難するための移動手段を用意する考えを繰り返し伝えているが、祖母は頑なにその場を離れるつもりはないという。

避難かとどまるか。割れる意見

戦闘地域に近いという両親の避難には、より一層の困難やリスクが伴う。命を落とす危険も高く、誰かが家族がいる場所に迎えに行ける状態ではなかった。

「彼らは(ロシア軍に)包囲されている。車は壊されたため、徒歩で移動するしかなく、とてつもなく危険を伴う」と状況を説明した。

配給は日々乏しくなり、両親は1日1回のわずかばかりの食事で耐え凌いでいた。女性がどうにか食料を届けたくても、連絡をとったボランティアからは「両親のいるエリアに近づくことすらできない」と返された。

国外に逃れようとした市民たちが銃撃されたという報道を聞き、両親は避難できずにいた。

家族内で意見が割れたという。危険すぎると考える父親は、今いる場所を離れるのを嫌がった。一方母親は、同じように足止めを食らっている友人たちと一緒に避難することを決心したといい、りょうsh離れ離れになってしまう可能性もある。

女性はこの状況に「全ての選択にリスクが伴うときに起こるひとつの例。解放される希望を持って、飢えに耐え凌ぐのか。それとも命の危険を覚悟して避難するのか」と投稿。どうしようもない現実を前に「胸が張り裂ける。彼らをサポートし、安心できるような言葉をかけることしかできない」とこぼした。

「愛する人を抱きしめ、愛していると伝えて」

女性は4月の休暇に、両親とスペイン・マジョルカへの旅行を計画していた。その足でキエフに立ち寄る予定だったが、母国が侵攻され叶わなくなった。父からは「みんなでマジョルカにいるのを思い浮かべると、ここ(ウクライナ)にいることが少しだけ楽に感じられる」と告げられたという。

国外にいるウクライナ人として「安全という特権に守られていることを後ろめたく思う」と複雑な心境もつづった。それでも「私がこれからの人生ですることは全て、ウクライナが値する正義を得るために時間を捧げるものだ」と自分に言い聞かせた。

女性はイギリス・ロンドンでの抗議デモに参加。国会議事堂前の広場でウクライナ国旗をまとい、掲げる人たちの動画を投稿し「国歌がこれほどまでに心を打つものに感じられたことはない」と打ち明けた。支援金を集めたり、知り合いのウクライナ家族の避難・宿泊先の手配にも取り組んだりもしている。

何か手助けをしたい。そう考える人たちに向けて、こう呼びかけた。

「全てチャンスを逃さずに、愛する人を抱きしめて、愛していると伝えてほしい。全ての瞬間を大切に。自由であることを大事に。あたたかいベッドや食事など、小さな楽しみに感謝してほしい」

女性の両親や祖父母は、何とか無事に過ごしている。ロシアによる侵攻に巻き込まれ、市民は先の見えない恐怖に苛まれている。

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「命の危険」冒して避難か、飢えに耐えるか。ウクライナ人女性の家族に起きていること

Rio Hamada