雛人形が進化する理由は? 金髪につけまつげ、ぽってり唇にドレス。人形師に聞いた

茶色や金色の髪の毛にティアラ。つけまつげやアイシャドウでぱっちりの目。

ぽってりとしたピンク色の唇に、ふりふりのドレスー。

黒髪に伝統的な和柄の十二単が当たり前とされてきた雛人形が、6、7年前から「現代風」に多様化しています。

現代風雛人形の第一人者とされるのが、人形のまちとして知られるさいたま市岩槻区の「鈴木人形」3代目・鈴木慶章(けいしょう)さん(41)。今っぽさを感じさせる雛人形は、若い世代を中心にかわいいと話題となり、製作する人形店も増えてきました。鈴木人形の現代風雛人形も、今年用意していた300セットが完売したといいます。

雛人形が多様化する理由や、髪型や顔、服の見た目や作り方など、従来と現代風の雛人形の違いや魅力について、鈴木さんに取材しました。

◆現代風は「雛人形離れ」から生まれた

鈴木人形の長男として生まれた鈴木さん。幼い頃から、人形を作る祖父や父を見て育ち、自然と人形師に憧れを抱いたといいます。雛人形について「すごく華やかですし、言葉にするのが難しい独特な風合いが大好きです」と語ります。

大学院修了後、社会人経験を積み、鈴木人形で人形師デビューを果たしました。年を重ねるほどに「人形の持つ癒しの力」や、岩槻に受け継がれてきた伝統技術の素晴らしさを実感してきました。

一方、「雛人形離れ」が進んでいることも痛感。住宅が全体的に狭くなり、飾る場所の問題が出てきたほか、人形は昔ながらのさっぱりとした顔が基本で、子どもらからは「怖い」と言われることもありました。

「雛人形を愛しているからこそ、より多くの人に手に取ってほしいし、技術も残していきたい。子どもや若い世代にもかわいいと思ってもらえる形も…と考え、明るい髪色やメイクで現代風にした雛人形に行き着きました」(鈴木さん)

◆伝統と違う形に邪道との声。一方、一目惚れも多数。

岩槻の人形の歴史は400年ほどあり、伝統と異なった人形は作り手側から抵抗があったといいます。特に、長年やってきた70代の職人からは反発が大きく、鈴木さんは一人一人と話し合い、理解を得ていきました。業界内でも最初は「こんな奇抜なもの、邪道だよ」という声も多くあったといいます。

ですが現代風雛人形を「Bell’s Kiss」と名づけシリーズ化すると、一目惚れして買ってくれる人が多くいました。反響を受け、現代風雛人形を作る人形店も増えているといいます。今では年配の職人からも、「これもありかもね」「作るのが面白い」という声も聞こえるようになりました。

鈴木さんは「伝統的と現代風、両方の雛人形に愛を持っていますし、大切に思っています。両方あってこそ、今後も日本の雛人形の文化が続いていくと信じています」と力を込めます。

◆「両方かわいい」伝統的と現代風のお雛様

ここからは現代風雛人形の特徴を、髪型や顔など、パーツごとに写真で紹介。伝統的な雛人形との違いについてもつづります。

・髪型は茶髪や金髪、ティアラなどのアクセサリーも

従来の雛人形の髪型は、黒色の長髪を後ろに垂らす「大垂髪(おすべらかし)」と冠が中心でした。一方で現代風雛人形は、最近の結婚式で、花嫁がウェディングドレスを着た時のような髪型などをイメージして作られています。

また、茶髪や金髪のアップスタイルにティアラを飾るなど、今らしいかわいさを追求しているといいます。

・顔はつけまつげやアイシャドウ、ぽってり唇に

従来の雛人形は、昔ながらの切長の目でさっぱりとした表情が特徴的でした。人気な一方、「独特な顔で、怖い」という声もあるといいます。

それに対して現代風雛人形は、幼顔をイメージ。輪郭を丸く、目は大きくし、顔の凹凸をはっきりさせるなど、現在の化粧の技術を取り入れているといいます。

例えば、つけまつげ。従来の雛人形にはつけていませんでしたが、人形の目もぱっちりさせても良いんじゃないかと考え、つけてみると評判が良かったといいます。

それに合わせて頬紅のほか、明るいピンクや黄色のアイシャドウをしたり、明るいピンクやオレンジ色の口紅でぽってり唇にしたりなど、今の流行に寄せているそうです。

・服は洋服屋ドレス向きの生地も

従来は、伝統的な紋様が入った十二単を着せるのが基本で、西陣織を使っているといい、織元への相談のために年に何度も京都に行くそうです。

一方で現代風雛人形は、いろんな洋服やドレス向きの生地を用いるといい、十二単に用いると趣も変わり、作り手としても面白いといいます。

・現代の男性に増えてきた化粧、男雛にも

男雛も、従来はちょんまげの上に烏帽子をかぶっているのが正式な様式でしたが、女雛と同じように男雛も短い金髪など、今風のヘアスタイルにしています。

また女雛と同様、つけまつげをアクセントに使ったり、赤いアイラインを入れて目の大きさを強調したりなど、少し化粧もするといいます。鈴木さんは「形は少し違いますが、化粧をする男性も増えているので、そういう意味では実情と似ているかもしれません」と話します。

・屏風も和風のものからパステルカラーに

屏風は、完成した人形をメーカーに持ち込み、雰囲気に似合ったものを作ってほしいと依頼する形をとっています。
衣装がパステル調の明るいものであれば、屏風もパステル調のものにするといいます。

・販売の仕方も多様化
伝統的な雛飾りは、人形15体の七段飾りが基本でした。ですが今は住宅が小型化している影響などから、現代風雛人形に限らず、女雛と男雛1体ずつの親王飾り(しんのうかざり)や、それに三人官女を加えた五人飾りが主流になっているといいます。

◆多様化ゆえの難しさも…

雛人形を多様化させることについて、鈴木さんは「日々、勉強と失敗の繰り返しです」と語ります。

現代風雛人形のみを作っていた時は、仕事では行かなかった洋服の生地の専門店や雑貨チェーン・ユザワヤに週1回ほど通い、ドレス用の布やツヤツヤしたサテン生地、フリフリとしたレースがついているものも買うようになったといいます。従来の西陣織などは厚みがあり縫いやすいそうですが、光沢のあるドレス生地はツルツルしていて滑りやすかったり、極端に薄かったりするなど、生地が多様化することで生まれた縫製の難しさもあるといいます。

「ひなまつりや雛人形を、もっと多くの人に楽しんでもらうのが私の夢です。これからも失敗を恐れず、伝統的なものと現代風、両方が皆さんに気に入ってもらえるような人形作りを心がけていきたいと思います」

〈取材・執筆=佐藤雄( @takeruc10 )〉 

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Takeru Sato