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企業は社会課題を解決できるのか。ヤフーの宮澤弦さんが語る「起業家マインド」

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企業版ふるさと納税を活用した脱炭素化施策の支援や、3.11と検索すると復興支援活動に寄付できる「3.11検索企画」など、社会課題に取り組む独自のアイデアを次々と打ち出すヤフー。「社会課題解決のエンジン」としてこれらの取り組みを牽引する取締役常務執行役員の宮澤弦さんは、なぜ大企業でも起業家精神を持ち続けられたのか。民間企業が社会課題に取り組むヒントを探った。

宮澤弦さん

起業精神の原点

宮澤さんと「起業」の出合いは、少年時代に遡る。北海道に生まれた宮澤さんは、音楽家の両親や姉、そして漫画家のいとこなど、芸術や美術の分野で活躍する家族らのもとで育った。

自身には「芸術系の才能がありませんでした」と語る宮澤さん。

「自分が一生やる仕事は自分の好きなことをやればいい」。両親からは、そう言われていたと宮澤さんは振り返る。

将来を模索する宮澤さんの目に留まったのは、事業家の伝記だった。世界各国で新しいビジネスを始めて発展させていくエピソードに、心が踊った。

「学生のうちから起業して新たな企業を生み出すダイナミズムを知り、素晴らしいと思いました。その人たちは全員とても楽しそうに仕事していて、中学生の僕には魅力的でした」

そして、大学入学と同時に上京し「シリウステクノロジーズ」を立ち上げる。

広告のプラットフォーム事業としてスタートしたシリウステクノロジーズは、6年後にヤフー社に買収されることとなる。当時からヤフーは数千万人の利用者、数万社もの広告テナントを抱える一大プラットフォーム企業だった。

「シリウスを運営していた当時は、多くの人には使ってもらえなかったという反省がありました。プラットフォーム事業は多くの人に使ってもらってなんぼ。12年前、28歳の時に、当時の井上雅博社長に熱心に誘って頂き、『一緒にやろう』と声をかけてもらったんです」

「変化自体が尊い」

自分の会社では40人ぐらいだった仲間が、ヤフーに入って最初から200人のプロジェクトを受け持った。メディア責任者に就任した時は最大で3000人の大所帯を率いた。

しかし、宮澤さんが「大企業に取り込まれた」という感覚ではなく、ヤフーの中でも起業家精神を失わなかったのは、ヤフーという会社の特徴に起因したのかもしれない。

「現社長の川邊健太郎氏やCOOである小澤隆生氏など、ヤフーでは買収やM&Aで入社した若手起業家たちが幹部として活躍するケースは珍しくなかったんです。

ヤフーという会社にはそれぞれの領域に情熱を持っているプロがおり、そうした素晴らしい仲間とのコラボで仕事をしている意識が非常に強く、私も誇りに思っています」

ヤフーに集った新進気鋭の起業家同士が共鳴しあい、強力なエネルギーが生まれていく。

大きな組織でも同僚に求めていたのは「起業家マインド」だった。

「起業家とは何かを考えたとき、解決したい課題を見つけて、その課題を何らかの方法で解決するもの。ただその前段として『この課題は解決せねばならない』という思いがあり、当事者意識を持ってドライブして周りを巻き込んでいくのが、いわゆる起業家だと思います。そういう意味では、社員や起業家、社長など関係なく、皆でそういったマインドを持ったほうが仕事は楽しくなるのではないでしょうか」

社内では「宮澤常務」ではなく「宮澤さん」と呼ばれ、肩書に関係なくフラットに議論する文化がヤフーには根付いているという。「世の中は今後こうなるんじゃないか」「バイアスなく考えて今がベストなのか」といった変革に向けた議論がしやすい土壌が育まれていた。

「ヤフーには『変化自体が尊い』という考え方があります。ずっと同じことをしているというのは、変化できていないということであり、それでは生き残っていけない。未来に向けたアップデートについては、皆が意欲を持っています」

宮澤弦さん

強みを生かした解決法

ヤフーで社会課題の解決を事業として取り組む際に大事にするのは、「ヤフーとしての強みをいかに活かせるか」ということ。

「『3.11検索企画』の時は、私が検索部門の責任者でした。

希望を捨てずに震災を生き抜く人を支えたいという議論の中で、どうすればヤフーらしく届けられるのかを考えました。検索という多くの人が使う機能で、寄付しつつ防災情報を知る導線になったらいいのでは、という話になったのです」

当然、全ての企画が上手くいくわけではない。「検索すれば寄付ができる」といった分かりやすいものの多くは成功するが、取り組み内容が複雑になってしまうと失敗に終わることもある。失敗の可能性を絶えず含む挑戦についてはどう考えているのか。

「本当は百発百中だと良いですが、私たちもそうではありません。成功の確率は上げたいですが、百発百中に拘り過ぎると挑戦できなくなってしまうとも感じています」

こうした中で、新たな変化として政策起業的な視点でヤフーが取り組んでいるのが、企業版ふるさと納税を通じた脱炭素化施策の支援だ。関連する法律が2020年度に改正されたことに合わせて、ヤフーとしても取り組むことになった。

自治体を巻き込んだ広域でのプロジェクトを実現できるのも、震災以降、現地に支店を構えて自治体と連携してきた経験があってこそだという。

ヤフーが目指すのは、「脱炭素のための納税」というモデルを作ること。

「ヤフーには、やるからには我々にしかできない大きなことをやろう、というカルチャーがあります。取り組むからにはちゃんと全国に横展開できるものを、ということです。企業版ふるさと納税についても、今後も全国の自治体から公募していきます。ヤフーの取り組みを見て、他の企業からも問い合わせがきています。2030年までにCO2排出量を減らすために、地球規模で、全員でそうした動きを加速させる必要があります」

企業から政策起業家を生み出すには

ヤフーの取り組みは、企業の一員であっても社会課題に取り組み、他社にも影響を与えながら世の中を変えていく、新しい政策起業家の可能性を示している。そんな「企業内政策起業家」を増やすにはどうしたらいいのか。

「ヤフーは、初代社長の時から 『課題解決エンジン』を目指すと掲げています。そのため、どんな問題を解決できるかをずっと考えてきました。ただ、他の企業でも当たり前を疑う意識は持てるのではないでしょうか」

「民間企業としてできることは沢山あります。意思決定が素早く、決定したら瞬時にできるのが最大の良さ。会社の強みを生かして社会課題に取り組む方法を考えて仕事をするだけで、政策起業できるようになるはず。それはきっとどんな企業でもできるはずです」

(執筆:相部匡佑、小宮山俊太郎、向山淳、編集:國崎万智)

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