1月中旬、絶滅危惧種のオオワシが衰弱して、北海道の牧場で飛べなくなっている姿が見つかった。動物専門の医療機関に保護されたが、治療の甲斐なく翌日に死んだ。その死因は「鉛中毒」だった。ハンターの鉛弾を浴びたシカなどを食べた結果、体内に鉛が取り込まれたことで起きる症状だ。
全国の野鳥で相次ぐ被害を防ぐために、専門家は「一刻も早い規制を国にはお願いしたい」と訴えている。
このオオワシが見つかったのは、北海道浦河町にある競走馬の育成牧場「ヒダカファーム」だった。
ヒダカファームの担当者によると、雪に包まれた放牧地に降りている様子を1月15日にスタッフが確認した。そのときは「地面に降りているのは珍しいな、エサでもあるのかな」くらいに思っていたという。
しかし2日後の17日になっても飛び立たずに放牧地におり、「こんな近くに人間が来てるのに逃げないのはおかしい」と異常を感じたという。
町役場や環境省などに相談したところ、釧路市の動物専門の野生動物専門の医療機関「猛禽類医学研究所」で保護することになった。獣医師の齊藤慶輔代表が片道3時間半かけて自動車で駆けつけ、オオワシを保護した。
ヒダカファームは同日、公式Twitterで写真とともに「何とか回復してくれる事を願っています」と心配げに投稿していた。
「猛禽類医学研究所」の齊藤代表によると、オオワシは収容直後から状態はすこぶる悪かった。
搬送時から呼吸困難な様子があったほか、「キャッ!」と奇声も上げていたことから鉛中毒の可能性があるとみていた。検査の結果、やはり鉛中毒だったことが判明した。
血中の鉛濃度は極めて高濃度。レントゲン撮影したところ、「胃の中に鉛ライフル弾の破片と思われる陰影を2つ確認」した。解毒剤を投与し、ICUの中で高濃度の酸素を供給したが、このオオワシは17日夜に死んだという。
斎藤代表は奇声をあげたり、苦しそうに呼吸するオオワシの動画をTwitterにアップした。
「日高地方では2020年にもオジロワシの鉛中毒が確認されており、当地域を中心に続発する可能性がある」と指摘した。今回のオオワシの症状について「鉛中毒は見ているだけで辛い。苦しそうな努力呼吸、脳にまで鉛が回ることで発する奇声。。 凄まじい苦しみをもたらし、治すことが困難であるからこそ予防が大切だ」と訴えた。
ハフポスト日本版は、斎藤代表に電話取材した。鉛弾の破片を体に取り込んだ野鳥は「体内に重金属が入ってすぐ吸収されます。極度の貧血になり、全身の臓器がボロボロになります」という。
斎藤代表によると、このオオワシが鉛中毒になった背景には、エゾジカなどのハンターが本来は北海道で禁じられている鉛弾を使用した可能性が高いという。
「本州ではまだ使用可能なのでそこから来たハンターが持ち込んだ可能性などが考えられます。狩猟で撃った動物はその場に放置してはいけないことになっていますが、肉だけを持ち帰って内蔵を放置したり、冬だと雪の中だけに埋めておくだけにしておくとオオワシなどの猛禽類がシカの死体を食べてしまい、鉛弾の破片を体内に取り込んで、鉛中毒になるのです」
北海道では、鉛中毒で命を落とす野鳥は1996年に初確認されて以降、オオワシだけでなくオジロワシなど猛禽類全般で200羽以上に上る。2021年に入ってからは、このオオワシが初だった。斎藤代表によると「鉛中毒は北海道だけの問題ではなく全国で起きている」と指摘する。
鉛弾をめぐっては2021年9月10日、当時の小泉進次郎環境相が2025年度から全国の狩猟を対象に鉛弾の使用を段階的に規制し、2030年度までに野生鳥類の鉛中毒ゼロを目指す方針を記者会見で表明している。この動きについて斎藤代表は「遅すぎると感じています」と焦燥感を打ち明けた。
「今から3年間は鉛弾によって動物たちが死に続けます。鉛弾を使った狩猟で、動物たちが鉛中毒で死ぬ事例は北海道だけでなく全国で多発しています。一刻も早い規制を国にはお願いしたいです」
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苦しそうに奇声を上げるオオワシは鉛中毒で死んだ。治療した獣医師が警告「一刻も早い鉛弾の規制を」