「カーボンニュートラル元年」といっても過言ではなかった2021年。
2020年に菅義偉前首相が宣言した「カーボンニュートラル」はわずか1年余りで日本全体に驚くほど浸透しました。
ニュースで「脱炭素」という言葉を聞かない日はほとんどなくなり、企業や学校、官公庁の公式サイト、テレビCM、ポスターなどありとあらゆるところで「SDGs」や「カーボンニュートラル」に引っ掛けた宣伝文句が並んでいます。
何が本当に必要で意味のある取り組みなのか、何が形ばかりの「ウオッシュ」なのか、見極めるのはとても難しくなり、胡散臭さを感じる人もいるかもしれません。
でも、「胡散臭い」という気持ちをいったん横に置いて考えてほしいのが、人類共通の課題である「気候危機」です。
2021年、地球のあちこちで、気候変動による脅威が目に見える形で示されました。
特に史上最も暑い夏となった北半球では、欧米やアジアで熱波による山火事や記録的豪雨による洪水が相次いで発生。15億ドル(約1700億円)以上の損害が出た異常気象は10件に上っています。
8月に公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、気候変動は人間の経済活動によるものだと断定したうえで、今後もこうした異常気象の発生頻度や強度が高まっていくと指摘しました。
今すぐに行動を変えなくては、もう時間がないーー。
世界全体で気候変動への危機感や対策の必要性についての認識が高まる一方、だからこそ、各国の思惑や主張が対立する場面も増えつつあります。
12月13日に開かれた国連の安全保障理事会では、気候危機が安全保障に影響を与えると警告する決議案が採決にかけられ、「西側諸国から押しつけられたアプローチ」だとしてロシアが反対(中国は棄権)したというニュースもありました。
「気候変動」という問題が、環境や科学という枠組みを越えて、経済や安全保障といった国際政治、そして人権の問題にまで発展しています。
そういう時代認識を持って「気候変動」を捉えることがマストになってきました。
もちろん先進国の一つとして、日本にも多くの「宿題」が突きつけられています。
たとえば、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、日本の岸田首相のスピーチに「化石賞」が贈られるなど、日本のエネルギー政策には世界から厳しい目が向けられました。
日本が注力していくと表明した、水素やアンモニアを燃料とした「ゼロエミッション火力発電」。
“二酸化炭素(CO2)を排出しない火力発電”として期待がかかりますが、実は燃料となる水素やアンモニアを生成するのにかなりのCO2を排出することはあまり知られていません。
また、アンモニアを燃焼すると有害な窒素酸化物が発生しますが、これを抑える技術の開発や普及には課題が残っています。
本当に「日本の切り札」としていいのか。2022年、まだまだ議論が必要です。
さらに、政府の「グリーン成長戦略」では「短期的(~2030 年)には、石炭火力への20%アンモニア混焼の導入や普及を目標とする」と書かれており、あくまで石炭火力の延命措置であることが見てとれます。
CO2を回収・貯留する技術の研究開発も行われていますが、多くのコストと時間がかかり、温室効果ガス削減に「待ったなし」の状況下では有用性が疑問視されています。
気候変動対策に経済的な観点から取り組む国際的な動きも加速しています。
COP26では、国家間の炭素クレジットに関するルールも策定されました。
こちらでは日本政府の貢献が評価されています。
また、気候変動と同時に考えなくてはならないのが「生物多様性」の保全です。
2021年に引き続き、2022年には中国で第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)の対面交渉が予定されていることもあり、関連ニュースも増えることでしょう。
企業活動が生態系などの自然環境に及ぼす影響や依存度に関する評価や、生物多様性の損失が企業経営に与えるリスクについて情報開示を求める流れの中で、日本も国際的なルール作りに参加することも決まりました。
これまで企業のバランスシートの中で見過ごされてきた生物多様性や環境資源など「自然資本」という考え方に注目する動きは、今後も確実に強まると考えられます。
もう一つ、「気候正義」という考え方も忘れてはいけません。
先進国が排出したCO2の影響を、海抜の低い島嶼部や貧困国が被っているという「国家間の不正義」。
そして、過去・現役世代が排出したCO2によって将来世代が大きな負担を被ることになる「世代間の不正義」。
この2つの不正義をどう正しながら、気候変動対策を進めるか。何が正解で、何が間違っているのか。
もしかすると地球にとって良いことが、国や企業、個人という点では不利益につながることもあるかもしれません。長期的にみてメリットがあることも、短期的にはデメリットの方が大きいこともあるでしょう。
政府や企業には、本当に難しい舵取りが求められています。
とはいえ、「2050年カーボンニュートラル」が注目され始めた1年前には、たった1年で状況がこれほど進むとは思っていなかったように、次の一年もまた劇的に変わっていくのだと思います。
「胡散臭い」なんて思っている暇はなく、変化は本当に待ったなしです。
だからこそ、目の前のジレンマから目をそらさず、「完璧」でなくても手が届くところから変えていく。
2022年、ハフポスト日本版は、社会を前に進めていくために取り組む企業や個人に注目し、課題解決のためにメディアとしてできることを考えながら、走っていきたいと思っています。
この記事は、2021年12月29日配信のニュースレターを一部編集して転載したものです。
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猫も杓子もSDGs…。それでも2022年、「気候危機」と向き合わないといけない