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異性カップルなのに結婚できず、家族を守れない。同性婚裁判でトランスジェンダー原告が訴えたこと【2次訴訟・第3回】

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12月16日に開かれた「結婚の自由をすべての人に」裁判で、意見陳述をした一橋穂さん

法律上の性別が同じふたりの結婚を認めるよう国に求める、「結婚の自由をすべての人に」裁判の東京2次訴訟3回目の口頭弁論(飛澤知行裁判長)が12月16日、東京地裁で開かれた。

この裁判は通称「同性婚訴訟」と呼ばれているが、訴訟の原告は同性カップルだけではない。

2次訴訟原告の一橋穂さんは戸籍上の性別は女性だが、性自認が男性のトランスジェンダー男性。パートナーの武田八重さんとは異性カップルだ。

しかしふたりは法律上の性別が同じであるため、結婚が認められない。

16日の口頭弁論では一橋さんが意見陳述に立ち、訴訟を提起しなければいけなかった理由や、差別をなくすためにも結婚の平等が必要だという思いを語った。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟

2019年2月にスタートし、現在全国5つの地裁と1つの高裁の計6件の裁判が行われている。3月には札幌地裁で「同性同士の婚姻を認めないのは違憲」という判決が言い渡された

同じスタートラインに立たせてほしい

一橋さんと武田さんは、子どもと3人家族。結婚している他の夫婦同様、一橋さんにとって結婚は「大切な家族を守るための仕組み」だ。

しかし、結婚が認められないため、一橋さんと武田さんには様々な不安がある。

その一つが、病院で家族として扱ってもらえないかもしれないということ。

一橋さんは数年前に父親が心筋梗塞で倒れた時、病院から「集中治療室に入れるのは家族だけ」と言われた。

法律上の家族のみが家族として扱われる現実を目の当たりにして、一橋さんは「どちらかが倒れて意識のない状態になったら、互いのそばにいられるのだろうか」という恐怖を感じたという。

裁判所に入廷する「結婚の自由をすべての人に」裁判の原告ら

相続の不平等さも感じている。

法律上の家族になれない現状では、相続で得た財産を武田さんや子どもに相続させられず、2人で築いた財産をお互いが相続することもできない。遺言書による「贈与」という選択肢はあるが、相続に比べて税金面で不利になる。

一橋さんは「生活を安定させるためにリスクに備えたり、経済的にも備えておきたいと思うのは、自然なことではないでしょうか」「婚姻している夫婦や家族に用意された仕組みを私たちも使えるように、同じスタートラインに立たせて欲しい」と訴えた。

これが差別だと思った

日々感じているのは困難だけではない。理不尽な差別も受けてきた。

一橋さんと武田さんは数年前、ウエディングフェアで気に入った結婚式場と契約しようとしたことがある。

しかし、契約書にサインをする段階になって、ウエディングプランナーに「戸籍上の性別は女性だ」と話すと、1時間ほど待たされ、そして最終的に契約を断られた。

後日理由を本社に問い合わせたところ、返ってきたのは「同性カップルの結婚式は引き受けない方針」という回答だった。

一橋さんはこの時「これが差別ということなんだと、はっきり感じた」という。

手術を選択しない実情

武田さんとの結婚を望む一橋さんがこれまで何度も尋ねられてきたのが「どうして手術を受けないのか」という質問だ。

一橋さんは数年前に性同⼀性障害と診断された。「性同一性障害特例法」のもと、生殖腺を取る手術を受けて法律上の性別を変更すれば、武田さんと結婚できる。

しかし一橋さんは、手術は「決して簡単なものではない」と訴える。理由の一つが、健康上のリスクだ。

「卵巣摘出によって体のホルモン量が変化するので、自律神経が乱れたり、精神的に不調をきたしたりする可能性があります。健康状態が悪化して、仕事にも支障が出てくることになれば生活の糧を稼ぐことも困難になってしまいます。今は自分1人の体ではないので、リスクの大きい卵巣摘出手術を受けることには大きな抵抗があります」と説明する。

また、ホルモン治療をすると外見が変化するため、実家のある地元での人間関係がうまくいかなくなったり、親やきょうだいが嫌な思いをしたりするのではという不安もある。

様々な理由で、手術を受けない選択をするトランスジェンダーの人たちは少なくない上、経済的な負担も大きいため望む人すべてが受けられるわけでもない。

一橋さん自身は、体への違和感を常に感じながらも、今の体とどこまで折り合いをつけられるかということに向き合いながら、心の健康を保っている状態だ。

裁判の応援に駆けつけた支援者

トランスジェンダーの子どもたちが希望を持てる社会に

一橋さんが原告になると決めたもう一つの理由が「トランスジェンダーの子どもたちが希望を持てる社会にしたい」という願いだという。

 一橋さん自身、子どもの頃は孤独を感じ将来に希望が持てなかった。

自分の経験からも、大人には誰にも相談できず苦しむトランスジェンダーの子どもたちが希望を持てる社会にする責任があると考えている。

今、学校や職場、ネット空間などで社会の様々な場所で、トランスジェンダーの人たちは偏見や暴力にさらされている。

一橋さんは、偏見や差別がなくならないのは「国の法律がLGBTなどのセクシュアルマイノリティを、人権や尊厳を守るべき社会の一員であると認めていないからではないか」と指摘。

「裁判所はマイノリティの人権を守る最後の砦。トランスジェンダーを含む法律上同性のカップルが、結婚できないのは違憲だという判断を示して欲しい」と求めた。

人権を守る社会を実現して

唯一のトランスジェンダー原告として、裁判所で思いを語った一橋さん。

記者団の取材に「私みたいな戸籍の性別は変更していないトランスジェンダーがいるということを伝えたかった」と語った。 

記者団の取材に答える一橋穂さん

一橋さんは2020年のハフポストの取材で、「自分は結婚できないだろうと思っていた」「どうせ家族を持てないのなら、太く短く生きようと思っていた」と語っている。

そんな人生観を変えたのが、武田さんとの出会いだった。

「彼女に出会って、長生きしたいと思うようになりました。それは家族ができたから。自分一人の体ではなくなって責任感も生まれました。相手を悲しませたくない、幸せな時間を一緒に過ごしたいという感情が強くなりました」

一橋さんは16日の意見陳述でも「生涯をかけて守っていきたい大切な人。八重さんとの生活を守るために最大限のことをしたい」と武田さんへの思いを語った。

結婚をしたい目的も、必要な理由も、他の夫婦と同じ。裁判所にはマイノリティの声に耳を傾けて、人権を守る判断をして欲しいと望んでいる。

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異性カップルなのに結婚できず、家族を守れない。同性婚裁判でトランスジェンダー原告が訴えたこと【2次訴訟・第3回】

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