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自死・自殺問題に取り組む“お坊さん”が電力会社 「テラエナジー」を作った。その理由は?

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テラエナジーを立ち上げた4人の僧侶。左から2番目が竹本了悟さん、3番目が本多真さん。

京都に僧侶が始めた電力会社がある。その名も「テラエナジー」。

二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)によって発電された電気を中心に販売しており、支払った電気料金の一部が社会課題に取り組む市民団体などに寄付されるのが特徴だ。

立ち上げたのは、電力事業はおろかビジネスにもゆかりのない僧侶たち。それにしても、一体なぜ「電力会社」なのだろうか。

電力事業の収益で地域に不可欠なサービスを支える「シュタットベルケ」との出会い

テラエナジーの取締役社長の竹本了悟(たけもと・りょうご)さんは、奈良県葛城市・西照寺の住職だ。小学生のときにいじめられて自殺を考えた経験から2010年、9人の仲間とともに「京都自死・自殺相談センター」(愛称Sotto〈そっと〉)を設立。電話やメールで年に約4千件以上の相談を受けてきた。

竹本了悟さん

電力には縁もゆかりもなかった竹本さん。電力事業との出会いは、知り合いの住職の誘いで参加した「仏教と環境問題」の勉強会でのことだった。そこで、ドイツの「シュタットベルケ」の取り組みを知る。

シュタットベルケとは、電気や水道、ガス、交通などのインフラを複合的に提供する自治体公社のことで、ドイツ国内に約1400ある。その特徴の一つが、黒字部門の収益によって赤字部門の経営を支えていることだ。たとえば、電力事業で黒字を維持し、その収益を路線バスやスポーツなど収益性の低い事業に補填するなどのケースが見られるという。

日本でも地域創生やまちづくりで注目を浴びているシュタットベルケ。2016年の電力小売全面自由化によって誰でも電気の小売業に参入できるようになってからは、「日本版シュタットベルケ」として自治体出資の電力会社などが誕生している。

この話を聞いて、竹本さんの脳裏にふとあるアイデアが浮かんだ。

「シュタットベルケの仕組みで、京都自死・自殺相談センターのような市民団体の活動を支えることはできないだろうか」ーー。

社会的に意義のある活動、「想いだけでは継続できない」という現実

京都自死・自殺相談センターでの相談風景

竹本さんは、京都自死・自殺相談センターの代表として、ある葛藤を抱えてきた。運営資金の確保が障壁となり、助けを求める人に手を差し伸べきれずにいることだ。

「積極的な告知はしていないのに、電話相談やメール相談はいつも満杯。需要に対して十分対応できていないことに忸怩たる思いがありました」

活動はボランティアによって成り立っている。相談員を雇えばもっと多くの人から相談を受けることができるが、雇用するための十分な資金がない。

京都自死・自殺相談センターに限らず、全国の市民団体が同じ課題を抱えていると感じていた。

「想いを持って活動を始めても、持ち出しが積み重なったり、助成金が打ち切られたりして、活動が継続できなくなる団体を見てきました。お金が集まらなければ、どんなに尊い活動も継続していかない。どうにかして、想いを持った団体が無理なく活動を継続できるような経済的なバックアップの仕組みを作れないか、と考えていたんです」

そんな矢先に出会ったのが「シュタットベルケ」だった。電力事業を立ち上げ、その利益を社会課題に取り組む団体の運営費用に充てることができると考えたのだ。

負担を強いることなく応援できる「寄付つき電気」

竹本さんの動きは早かった。志を共にする4人の僧侶とともに2018年、寺から独立した株式会社として、テラエナジーを起業。2019年6月に電気の供給を開始した。

テラエナジーは現在、個人や企業、公共施設など、約1000世帯に電力を供給している。電気料金の2.5パーセントが社会課題に取り組む団体に寄付される仕組みで、寄付先の団体は41団体(2021年10月現在)。利用者は、地域や社会課題の分野から、寄付する団体を指定することもできる。2021年の寄付額は約1000万円想定しているという。

「寄付つき」だからといって電気料金が高くなるわけではなく、地域の大手電力会社と契約するのと比較して、電気料金は安くなることが多い。利用者に電気料金以上の負担を強いることなく、「『この活動を応援したい』という気持ちでお金が循環していく仕組み」(竹本さん)だ。

 

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「仏教者として環境問題に対して何ができるか」。そのアンサーがテラエナジーだった

テラエナジーで提供する電気を再エネにすることにこだわったのは、恵光寺(大阪府八尾市)の住職で、テラエナジーの共同取締役の本多真(ほんだ・まこと)さんだ。

かつて、龍谷大学大学院で「仏教と環境問題」の研究をしていた本多さん。寺にも再エネ電気を普及させていくべきと考えていた矢先、竹本さんと電力会社設立で意気投合した。

本多さんによると、仏教では、同じく世界宗教のキリスト教と比較すると、環境問題への意識があまり高まってこなかった。キリスト教では、アメリカの科学史家のリン・ホワイトが1960年代に「ユダヤ・キリスト教の人間中心主義が環境破壊の一因になった」という論文を発表したことを発端に、環境問題に関する議論が盛り上がったという経緯がある。

こうした背景から、気候変動を目の前に「仏教者として何ができるか」を模索してきたという本多さん。その一つの答えが、テラエナジーによる再エネ電気の普及だった。

「仏教界で気候変動があまり関心を向けられていないなか、僧侶としてテラエナジーを立ち上げることで、この課題に光を指していくことができるのではないかと感じました。日本の僧侶は約35万人。気候変動に対して、できることは少なくないはずです」

テラエナジーでは2019年時点で、提供する電気の8割を再エネ(FIT電気も含める)でまかなっている。

電気の購入先を決める「選択権」を行使してほしい

日本では長年、電気の小売業は地域の大手電力会社の独占が続き、消費者には電力会社を選ぶ選択肢がなかった。しかし、電力小売全面自由化以降、消費者は電力の購入先を主体的に選ぶことで、エネルギーに対する意思を表明できるようになった。たとえば、再エネを重視する電力会社から電気を買えば、それが再エネ電気の普及につながっていく。

しかし、2020年時点で、電力会社を新電力(大手電力以外)に切り替えている家庭や企業は約2割ほど

「何事も知るところからスタートする。知って、考えて、選んでほしい。エネルギー問題は一部の人たちだけが考えるものというイメージを払拭したい」と竹本さん。

そうした考えから、テラエナジーでは、気候危機やエネルギーについて学べるセミナーを無料で公開している。

テラエナジーでは気候変動について学ぶ無料イベントを定期的に開催している。電気の契約有無は問わない。

「エネルギーをどうしていくかは私たちが将来生きていく地球環境にすごく影響するので、もっとみんなでちゃんと勉強して、どういうエネルギーを使いたいのか / 使わないのかをオープンに議論するような土壌を作っていきたいです。その上で、消費者や企業にはそれぞれの考えのもと、電気を選ぶ『選択権』を行使してもらいたいと思います」。

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自死・自殺問題に取り組む“お坊さん”が電力会社 「テラエナジー」を作った。その理由は?

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