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RSウイルス検査、1歳児以上の多くは「保険適用外」。自己負担で検査すべき?専門家に聞いた

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病院で診察を受ける赤ちゃんのイメージ写真

東京オリンピックのメダルラッシュで日本中が沸き立っていた8月上旬のことだった。鼻水が続いていた1歳5カ月になる娘が、夜中の2時に泣き出した。娘をあやしていた妻が「体がすごく熱い」と心配そうに言った。慌てて体温を測ると約40度。こんなに高熱が出たのは初めてだった。解熱剤で翌朝には熱が下がったが、気になって近所の小児科に連れていった。

医師からは「症状からみてRSウイルス感染症の可能性はあるけど、保険適用外なんです」と言われた。えっ、保険適用外だったんだ。2021年に入ってから「RSウイルスの感染拡大」がテレビなどで報道されていただけに、健康保険で検査ができるものとばかり思っていた。RSウイルスだったら、どうしよう。自費負担でも検査してもらうべきか。迷った末に検査はしなかった。

数日後に熱は下がったが、今度は咳がひどくなった。呼吸するときに「ヒューヒュー」と喉を鳴らして心配だったが、2週間後には全快。元気に公園を遊び回るようになった。ただ、あのときRSウイルスの検査をすべきだったのか。喉の奥に刺さった魚の小骨のようにずっと気になっていた。

 

■2歳までにほぼ全員が感染するRSウイルスとは?

RSウイルス感染症の都内での定点医療機関当たりの患者報告数。赤い線が2021年の推移

厚労省公式サイトのQ&Aを読んでみた。RSウイルス感染症とは、「RSウイルスの感染による呼吸器の感染症」のことを指す。

ワクチンや特効薬はなく、治療は基本的には対症療法(症状を和らげる治療)になる。生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の子どもがRSウイルスに少なくとも1回は感染する。症状は、軽い風邪から重い肺炎まで様々だが、特に生後数週間~数カ月間の乳児がRSウイルスに初感染した場合は、細気管支炎、肺炎といった重篤な症状を引き起こすことがあると注意を呼びかけている。

東京都健康安全研究センターに聞いたところ、RSウイルスの感染者数は都内の定点観測で7月中旬に2003年の調査開始以来、過去最大のピークになったが、その後は減少傾向にあるという話だった。

厚労省の2011年の通知によると、RSウイルスの検査で保険適用されるのは(1)入院中の患者(2)1歳未満の乳児(3)パリビズマブ製剤適用となる患者に限られている。やはり1歳児以上の幼児の場合、RSウイルスの検査は原則、保険適用外となっていた。

一体なぜなのか。保険適用外でも自費検査した方がいいのか。オンライン医療相談サービス「小児科オンライン」代表で、都内のクリニックでも勤務している小児科医の橋本直也さんにZoomで詳しい話を聞いた。

■「1歳児以上の場合、検査の有無はお子さんの未来の健康を左右しません」と専門家

Zoomで取材に応じた橋本直也医師

―― RSウイルスに子どもが感染するとどんな症状が出るんでしょうか?

いわゆる「風邪」の症状をイメージしてもらって大丈夫です。咳・鼻水・熱が出てくるのが基本です。ほぼ100%の子どもが、2歳になるまでに一度はかかったことがあるといわれています。ただ、6月未満のお子さんが感染した場合には「普通の風邪より要注意」です。呼吸の苦しさの症状が目立つことがあるからです。普通の風邪の症状では終わらず、ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音とともに、呼吸がつらくなる可能性がある。そうなったら要注意ですね。

―― RSウイルス感染が疑われる場合、どのタイミングで医療機関を受診すればいいでしょうか?

これは全ての風邪に共通ですが、呼吸状態の確認が一番大事です。お子さんのシャツを上げて胸をはだけて呼吸の状態を確認してみましょう。咳をしているときではなく穏やかな呼吸であるはずの状態のときに、いつもよりすごく速い細かい息をしていたり、あばら骨が浮き出るような呼吸をしていたりしたら、それは「頑張って呼吸している」というサインです。ひどくなってくると口元に耳を近づけると、特に吐く息で「ヒュー、ヒュー」と、ちょっと高めの音が聞こえることもあります。そういった呼吸が苦しそうなサインがあれば、必ず小児科を受診してもらいたいと思います。

――2021年は例年に比べて感染者数が大幅に増加していますが、小児科オンラインに寄せられている相談は増えたでしょうか?

今年は多かったですね。7月くらいに、すごく感染者数が増えた時期がありました。その時期には「RSウイルス検査をした方がいいですか?」という相談も来ました。「RSウイルスの検査で陽性が出て、家で熱がまた上がってきたけど大丈夫でしょうか?」といった相談も来ました。RSウイルス関連の相談は、感染者数の増加とともに増えたという印象がありますね。ただ、東京都の感染症情報センターの定点観測のデータを見ても、9月に入ってからは減っていますね。小児科オンラインでの相談件数も少し落ちついてきました。

――2020年は新型コロナウイルスの感染予防の影響で感染者数が少なく、子ども達が免疫を獲得しなかった。その反動で、2021年に入って感染が拡大しているという説もあります。

その可能性はあると思います。やはり昨年度に人の往来が減った。そういった状況下で、昨年はRSウイルスの感染者が目立たなかったので、それへの反動の可能性はあります。ただどうしても、推測の域は出ませんが。

――本題の質問に入りたいと思います。1歳以上の幼児へのRSウイルス検査の多くは、健康保険の適用外です。僕のように1歳以上の幼児を抱える保護者が、RSウイルス検査を自費でするべき否かで迷った場合、どうすればいいでしょうか? 

保険適用の話に入る前に、まずその前提となる話から入りましょう。目の前のお子さんの健康が、保護者としても一番大事なところだと思います。その観点で言うと、病院で実施する検査の目的のうち重要なものの一つに「検査の結果次第で治療が変わる可能性がある」ことがあります。適切な治療することで効果が上がるものを、しっかり見つけるのが大きな目的です。検査結果を見逃すことで、お子さんの健康が損なわれてはいけないからです。

子どもの感染症のわかりやすい例では、溶連菌(ようれんきん)の検査が挙げられます。これは3歳以上から多くなる感染症で、のどが腫れて熱が出ますが、これは検査して陽性になったら「抗菌薬を飲んだら治る」ということが分かっています。つまり検査結果によって治療方針が変わるので、検査して早く見つけて早く治療を始めることが非常に重要なんです。

一方、RSウイルスに関して言うと、1歳児以上の場合は検査結果が陽性になっても陰性になっても、治療は変わらないです。なぜかというと、RSウイルスに効く特効薬というのがないからです。熱を下げ、鼻水やせきを和らげる対症療法が中心となります。

その子の健康という観点からすると、RSウイルスの検査の有無は、お子さんの未来の健康を左右しません。「検査しても何も変わらない」というのがRSウイルスに関するポイントだと思います。

ただし、たとえば生後1カ月のお子さんだったら話が違ってきます。RSウイルスはとにかく小さい子ほど重症化しやすく、1歳未満、特に生後6カ月までは心配です。生後1カ月の赤ちゃんで鼻水が増えていたり、ミルクの飲む量も減っていたりするときにはRSウイルス検査をすることがあります。

なぜかというと、その先のフォローアップの頻度が変わるからですね。これでもしその生後1カ月の赤ちゃんがRSウイルス検査の結果、陰性だったら「明後日もう1回来てください」って言うかもしれません。

だけどもし陽性だったら「大きな病院を紹介するから入院してください」となるかもしれない。そこまでならなくても、「絶対明日もう一回来てください」となったりします。経過観察の頻度とか心構えが医師としてもずいぶん変わります。生後1カ月のRSウイルスって集中治療室に入ることもあるので、すごく神経を使います。それは意味があるので一旦は検査するという判断になります。これがRSウイルス検査の一番の骨子です。

1歳以上の検査における保険適用の話に戻します。日本の医療で保険適用しているものは、「国民の健康を守るために必要だから公費負担しよう」と判断されたものです。たとえば、医師が必要と判断して実施された溶連菌の検査で陽性になった場合には、「この抗菌薬を出します」となり、一連の治療は保険適用になります。それは国民の健康を守るために必要だからですね。

近年は医療費が膨らんで、毎年40兆円以上になっています。その中で、どの医療行為に公定価格をつけて国で補助していくは冷静に判断しないといけません。全ての医療行為に保険適用をすると、結局は国民が負担する税金に反映されてしまうかもしれません。

そうした判断から、通常の1歳児以上のRSウイルス感染の場合は、国が保険適用をしてまで検査することを求めていないのが現状です。1歳以上の場合は、自由診療で「もし親御さんが強い希望があるならそれは全額自分で負担してね」というのが国の方針になっています。

――なるほど、そうなんですね。ちなみに小児科オンラインでは1歳以上の子どもを抱える保護者から「RSウイルスの検査は保険適用外だけど受けた方がいいか」という相談があった場合は、どのように回答されていますか?

小児科医の観点で一番大事なのは、その子の健康が損なわれてしまうかどうかです。そのため、相談を受けた場合には「検査結果によって治療が変わるような性質のものではない。一番重要なことは悪化のサインを見逃さないこと。呼吸状態悪化のサインをお伝えしますので、それを見逃さないようにしてください」という話をしています。そうした理由が分かることで、お父さんお母さんも納得して、お子さんの検査をしないケースが多いのではないかと思います。

■取材を終えて思ったこと

橋本医師の取材を終えると、ずっと胸の中でモヤモヤしていた疑問が氷解していくのを感じた。それまで、子育て中の知人や同僚に相談しても「RSウイルスの検査って無料でできるんじゃないの?」と驚かれることが多かった。

ネットで検索すると、2021年にRSウイルスの感染が例年よりも急速に広まっていることを伝える報道は山のように出てくる。その一方で、1歳児以上のRSウイルスの検査が基本的に「保険適用外」という事実は特に報じられていなかった。自分と同じように検査すべきかどうか迷っている保護者は多いのでは…と思ったのが、今回の取材のきっかけだった。

この記事を執筆している10月時点ではRSウイルスの感染拡大はピークを過ぎたが、2022年以降も毎年、RSウイルスの感染は続くだろう。この記事が少しでも保護者の方の悩みを解消する助けになればと思っている。

 

■小児科オンラインとは?

小児科オンラインは、株式会社Kids Publicが運営するオンライン医療相談サービス。子育ての悩みや不安の多いママと子どもを守りたいという思いから、2016年にスタートした。24時間以内に医療者から返信が送られてくる一問一答形式のサービス「いつでも相談」のほか、平日の18時~22時の間、10分間の予約制で小児科医に相談できる「夜間相談」を実施している。2021年9月以降は個人向けの有料会員の新規登録は停止しているが、法人向けサービスは継続中。企業の会員や社員、自治体の住民が無料でサービスを受けられる。イオンの子育て応援アプリ「キッズリパブリックアプリ」からも無料利用できる。

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RSウイルス検査、1歳児以上の多くは「保険適用外」。自己負担で検査すべき?専門家に聞いた

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