自民党総裁選の決選投票は、岸田文雄・前政調会長(64)と河野太郎・規制改革担当大臣(58)の対決となった。岸田氏は、広島1区選出で当選9回。祖父、父も国会議員の「世襲3世」で、安倍氏や総裁選を戦った野田聖子氏らと当選同期となる。
名門・開成高校(東京)では野球部に所属した。著書で「(野球は)政治の世界と相通じることが多々ある」とチームワークの大切さを語っている。東大受験に3度失敗して早大に進学、日本長期信用銀行(当時)勤務を経て、政界の道に進んだ。
会長として率いる宏池会(岸田派)は、「所得倍増計画」の池田勇人元首相が1957年に立ち上げた伝統あるリベラル派だ。総裁選告示日(9月17日)の所見発表演説会で、岸田氏は「個性と多様性を尊重する社会を目指す」と訴え、こう続けた。
「若者も高齢者も障害のある方も、そして女性活躍を進め、性別にかかわらず全ての人が居場所を見つけ、生きがいを感じられる社会を目指します」
ところが、その後のテレビ番組の討論などでは、「多様性」とは矛盾するような発言を繰り返す。
選択的夫婦別姓をめぐっては、「議論はするべきだ」としつつ、「子どもの姓を誰がいつ決めるかなど、まだ整理がついてない部分がある。国民の皆さんにもしっかり理解が進んでいるのかどうか確認したうえで考えなければいけない」と賛否を留保した。
同性婚の制度化についても「議論はあってもいいと思うが、現状においてまだ認めるというところまでは私は至っていない」と語った。
こうした慎重なもの言いは、安倍氏をはじめとする党内の保守層を意識したものだ。決選投票では、1回目で3位となった高市早苗氏を支持する安倍氏らの支援が欠かせないからだ。
安倍政権で外務大臣や政調会長を務めてきた岸田氏は、これまでも安倍氏との関係構築に余念がなかった。
「ハト派」の宏池会トップながら、安倍氏が掲げた憲法改正案に賛同し、自身が首相になったら任期中に改正のメドをつけたいと述べている。安倍政権時代に発覚した「森友学園問題」も、再調査の必要性はないと言い、舞台となった財務省の麻生太郎財務大臣への配慮も見せる。
「寛容な政治」「聞く力」をモットーとするが、良く言えば「調整型」、悪く言えば「自分の意志が見えない」――。マスコミの世論調査でも、国民的な人気では河野太郎氏に水をあけられ、アピール力不足が課題とされてきた。
そんな岸田氏が、総裁選で唯一強気に出たのが「党改革」だ。
「権力の集中と惰性の防止」を目的に、「党役員の任期を明確化し、総裁を除く党役員の任期を1期1年、連続3期までとする」と掲げた。
小選挙区制度のもと、誰を公認するかなど強い権限を持つ幹事長ポストは、同じ人物が長く務めれば「腐敗」は避けられない。
念頭にあるのは、2016年から幹事長を務める二階俊博氏だ。二階氏は昨年の総裁選で菅義偉首相を誕生させた立役者で、次点だった岸田氏には忸怩たる思いがある。これまでの国政選挙の候補者選びでも、自らの派閥を優先する二階氏に、岸田派は冷遇されてきた。
一方、二階氏も岸田氏の反撃には黙っておらず、今回の総裁選では、自らの派閥から岸田氏以外の3候補に推薦人を出すという対抗手段をとっている。
こうした党内の人間関係もあり、岸田政権が誕生すれば、二階氏とは距離を置きつつ、安倍氏や麻生氏が影響力を持った政権運営が予想される。
宏池会にとって、総理総裁の輩出は1991~93年の宮沢喜一政権以来の悲願だ。しかし、安倍氏らの意向が優先され、宏池会の伝統的なリベラル路線が消え去れば、派閥の政策集団としての意義が失われることになりかねない。
岸田氏は総裁選のなかで、「みんなで助け合う社会」「新自由主義的政策を転換」「分配機能を強化し、所得を引き上げる『令和版所得倍増』」と、独自色の打ち出しも試みてきた。
総裁選に勝利しても、直後には自身が自民党の「顔」となる衆院選を控えており、「岸田カラー」をどう構築していくかが問われている。
Source: ハフィントンポスト
岸田文雄氏とは?リベラル派なのに保守的な言動。28年ぶり宏池会出身の総裁誕生なるか【決選投票】