「9月18日が終わるまで待てと言われました」。
中国東北部・大連市にある東京ドーム13個分の土地に作られた「京都再現プロジェクト」。1000億円超を投資し、京都の町並みを模した商店街などを作り上げたが、現地SNSでの反対の声が高まったあと、開業わずか1週間ともたずに一時休業を余儀なくされた。
「休業がいつまで続くかは未定(プロジェクト関係者)」だが、冒頭のような証言も聞かれる。「9月18日」は中国ビジネスに関わる日本人ならほぼ誰でも知っているであろう「敏感な日」なのだ。
この1日だけではない。歴史問題を抱える中国では、日本の話題を極力避けるべき日付が複数存在する。中国ビジネスに携わる人たちに注意するタイミングと対策を聞いた。
■「前後1週間は宣伝しない」
まずは7月7日。盧溝橋事件が起きた日だ。1937年7月7日に北京(北平)郊外で発生した軍事衝突を指す。夜間演習中の日本軍が実弾の銃撃音を聞いたとし、近くの中国軍と戦闘になった。これが日中戦争の発端となった。
2021年の7月7日は実際に問題が起きてしまった。ソニーの中国法人が、7日夜から商品発表会を行うと予告したところ批判が相次ぎ、「日程の選択で皆様に誤解と迷惑をおかけした」などと謝罪する事態になったのだ。
謝罪後もソニーには「中国法人の社員は気まずいだろう」「この日がどういう意味を持つか知らないなんて、信じられない」などの批判的なコメントが寄せられている。
次は、京都プロジェクトの一件でも話題になった9月18日。これは盧溝橋事件の6年前、1931年9月18日に柳条湖事件が発生した日だ。奉天(瀋陽)の南満州鉄道を関東軍が自ら爆破した事件で、関東軍はこれを張学良(ちょう・がくりょう)軍の仕業とし、満州事変の口火を切った。
ビジネス関係者が「一番気をつけなくてはいけない」と話すのが1937年12月13日の南京事件。旧日本軍が中華民国国民政府の当時の首都だった南京を占領した際、一般人や捕虜を殺害するなどしたとされる事件だ。
日本の外務省は公式サイトで「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています」と説明している。しかし中国側の主張する被害者数などとは大きな隔たりがある。
ほかにタブーとしてあげられるのが6月4日。1989年に第2次天安門事件が起きた日だ。共産党の胡耀邦・元総書記の死去をきっかけに北京の天安門広場に集まった人たちが民主化を求める運動に発展し、人民解放軍が武力で制圧。振れ幅はあるが多数の死者を出した。この時期が近づくと、特に言論統制や監視が強まることで知られている。
上海でコンテンツ関連のビジネスを展開する30代男性は、「6月4日(天安門)、7月7日(盧溝橋)、9月18日(柳条湖)、12月13日(南京事件)。少なくともこの4つの日にちの前後1週間は必ず宣伝を避けます。ネットに出している広告なども停止させます」と話す。別の男性も「イベントや発信はしません」。
そのほか、日本の終戦記念日にあたる8月15日や、中国が「抗日戦争勝利記念日」と定める9月3日を挙げる人もいた。
また1919年に北京で学生らが起こした反帝国主義運動の「五・四運動」の5月4日や、1941年に当時首都だった重慶市に大規模爆撃があった6月5日、今の中国の建国記念日にあたる10月1日の「国慶節」なども回答に含まれた。
■「歴史リスク」防ぐ方法は
「注意が必要な日は、日本大使館の公式サイトなどにも記載されています。チェックするよういつも呼びかけていました」。
上海市で日本企業の進出支援などに関わってきた男性はそう話す。
日本大使館のサイトでは「特に、過去に日本人が関与した歴史的事件が発生した日には反日感情が表面化する傾向が強いので、思わぬトラブルを引き起こすことがないように注意してください」として7月7日(盧溝橋)、9月18日(柳条湖)、12月13日(南京事件)などを列挙している。
民間のサイトにもこうした情報はある。例えば浜銀総合研究所はこれらに加え、3月15日(消費者権益保護デー)、7月1日(1921年/中国共産党成立記念日)、8月1日(1927年/中国人民解放軍成立記念日)の3つを挙げている。
しかし、こうした情報をチェックするのは「最低限」だと男性は話す。
「地域ごとに日中間で不幸な事件が起きた日があります。それは大使館などのページには載っていません」。
必要なのは地に足をつけた情報収集だという。
「支店や工場の開業式典やセールなどの日にちは、日本人経営者が独断で決めるべきではありません。地元採用の社員に敏感な日を聞くか、地域の外事弁公室(外交担当部署)に尋ねるのも手です。駐在員がどれだけ現地社会に入り込めているかで、どれだけ防げるかが決まります」。
それ以外にも、中国現地にある日本企業の商工クラブなど、在中邦人ネットワークを活用する方法もあるという。
こうしたリスク管理は、日本企業にとっては負担とも感じられがちだ。しかし仮に問題が起きた場合、次のような影響が生じる恐れがある。
「敏感な日に式典などを設定してしまうと、(地方政府など)中国側の幹部が出席を取りやめる恐れがあります。その場合、事業自体が『地元から支持されていないのでは』と誤ったメッセージを送りかねません。また万が一、その後労働者のストなどが起きた場合、『こんな日に開業していた』と足元を掬われてしまう可能性もあります」。
日系企業は3万を超える拠点を中国国内に構える。また、拠点を置かずともネット経由で中国の消費者を取り込もうとする動きも盛んだ。こうしたビジネスで思わぬリスクを負わないために、事前の対策が求められそうだ。
Source: ハフィントンポスト
「前後1週間は絶対に宣伝しない」。中国にある「日本の話題を避ける日」対策どうする?