女「ううん、いいの」
男「ところで……ここ、夜景がとっても綺麗だね」
女「ええ、ホント……」
男「キス……してもいいかな?」
女「うん」
男(やった!)
女「いいけど、15秒間の広告の後でね」
男「は?」
男「は、はい」
女「口臭が気になるあなたに! そんなあなたに≪ブレスヒール≫!」
女「腐ったドブ川のようだった、あなたの口が……一粒噛むだけでリフレッシュ!」
女「ふんわり、さわやか~」ホワァァァァァ…
女「口臭対策に≪ブレスヒール≫!」
男「……」
男「いや……やっぱりいいや」
女「あらそう」
男「それより……抱きしめていいかな?」
女「うん……いいよ」
男「それじゃ……」サッ
女「15秒間の広告の後でね」
男(またかよ!)
女「たくましい胸板が欲しいあなたにはこれ、≪ムキスパンダー≫!」
女「ムキスパンダーを一日10回やるだけで……みるみる胸板が辞書みたいなぶ厚さに!」
女「≪ムキスパンダー≫で、あなたもたくましくなろう!」
女「……じゃ、抱きしめて」
男「いや……やめとく」
女「あら残念」
女「いいよ!」
男「やった!」
女「ただ……3000秒の広告の後でね」
男(なげえ!)
男「あの……やっぱり今日はこれで解散ということで」
女「うん、分かった」
男(よし、またデートの約束が出来たぞ!)
男(だけど……着ていくもんがないなぁ)
男(上はよれよれのTシャツ、下は薄汚れた安物のジーンズ……)
男「ま、いいさ。男は見た目じゃないし!」
……
男「お待たせー」
女「ううん、私も今来たとこ」
女「デート前に15秒間、広告をやってもいい?」
男「あ、うん……いいけど」
女「ファッションに興味ない男の子は嫌われちゃう! だけど何を着ていいのか分からない!」
女「そこで、ファッション誌≪カッケー≫!」
女「≪カッケー≫を読んだら、あなたも明日からモテモテ!」
女「さ、行こうか」
男「う、うん……」
男「おごるよ」
女「わっ、ホント? 嬉しい!」
男「えーと、店は……ファミレスでいいかな? あまりお金なくって……」
女「うん、いいよー!」
男「よかった、じゃあ入ろう」
女「うん!」
女「その前に15秒間広告いい?」
男「いいけど」
女「求人サイト≪ジョブミッケ≫!」
女「お金がない、そんなあなた必見! ≪ジョブミッケ≫ならいい仕事いっぱい見つかる!」
女「興味がある人は今すぐ――にアクセス!」
女「じゃあ私、カルボナーラね!」
男「俺は……ハンバーグ」
女「広告いい?」
男「え、いいけど……」
女「汗は匂いのモト! それを断つなら……この≪アセケス≫!」
女「≪アセケス≫をシュッと吹きかけるだけで……匂いスッキリ!」
女「気分リフレッシュ! もう周囲に汗臭さをバラまかない!」
女「汗っかきのあなたに≪アセケス≫!」
男「……」
男(ヒゲめっちゃ剃り残してた……これはみっともないな)
女「広告してもいい?」
男「いいよ」
女「ヒゲの剃り残しってみっともな~い! そこでこの≪エクスソリバー≫!」
女「伝説の剣の切れ味で……ヒゲをジョリジョリ!」
女「これでヒゲを剃ると……剃り残し無し!」
男「……」
女「!」
男「さっきから俺への当てつけのような広告ばかりやって……なんなんだよ!」
女「……」
女「怒りっぽいあなたに……≪癒やしアロマ≫!」
女「この匂いを嗅ぐと、あなたもたちまちイライラが解消……」
男「うう……もういいよ」
男(なにもあんな露骨に、俺を咎める広告をしなくても……)
男「……」
男「ブレスヒール、さっきせっかく買ったし噛んでみるか」ポリッ
男「ん」
男「おおっ、口の中に爽やかな香りが広がる!」ホワァァァ…
ジョリジョリ…
男「おおっ、全然痛くない! しかもよく剃れる!」
ジョリジョリ…
男「……」ツヤツヤ
男「うおおっ、見違えるように綺麗に剃れたぞ!」
男「じゃあ、アセケスも試して……」
男「彼女のいってたカッケーって雑誌を読んでみよう」
男「ふむふむ、今ってこういうのが流行ってるのか……金がないなりにやってみるか」
店員「とてもよくお似合いですよ」
男「は、はい」
男(おお……俺でも結構化けれるもんだな)
男「イライラしたら、癒やしアロマを嗅いで……」クンクン
男「ムキスパンダーで体を鍛え……」グッグッ
男「お金を稼いだら、さらにファッションを充実させ……」
男(なんか……彼女の広告に従ううち、俺の欠点が一つずつ克服されていくような……)
…………
……
女「あら、こんにちは」
男「あれから君の広告を元に自分を変えてみてね……どうだろう?」
女「見違えたわ……」
男「ありがとう、これも全て君のおかげだよ」
男「君の広告通り、色んな商品やサービスに触れてたら……気づいたらこうなってた」
女「なんたって、それが私の得意分野だもの」
男「え?」
女「今こそ……私の正体を明かすわね」
男「へえ、広告代理店の人だったのか。どうりで色んな広告を即座に実演できるわけだ」
女「ええ」
女「だけど、私はただあなたを成長させるためだけに近づいたわけじゃないの」
男「……? というと?」
女「今のあなた、とても素敵よ。まさに私が求めてた通りの人材だったわ」
女「あなたの見た目、とても大衆受けしそうだもの。尖ったところがなくて、あらゆる世代に受ける感じ」
男「大衆受け……?」
男「なっ……!」
女「それも一つや二つじゃない。色んなCMにね」
男「色んなCM……?」
女「そう、あなたなら――」
女「“CM王”になれるッ!!!」
男「……」
男「やります」
男「俺……CM王になってみせます!」
女「決まりね!」
…………
……
男「うんまぁ~い!」ズゾゾゾッ
男「剣道のようなおいしさ! 新カップラーメン≪小手胴メン≫新発売!」
男「書きやすい! この≪らくらくペン≫なら君も字が上手くなる!」
男「男も香水をつける時代……さあ、君もモテよう! 俺のように!」シュッシュッ
キャーキャーッ
その爽やかな万人向けするルックスで、たちまち大人気となった。
男「ふぅ、今日も撮影で大忙しだった」
女「ごめんなさいね、大丈夫?」
男「平気さ。CM王として、これぐらいでへばってられないからね」
女「私も精一杯、あなたを支えるわ」
男「ところで……CM王になったら、君にいいたいことがあったんだ」
女「なに?」
男「今から15秒間、広告をさせて欲しい」
女「まるで昔と逆ね……いいよ」
男「コマーシャルに出まくり、性格も穏やかで、ルックスも悪くない……俺のような男性はいかがですか?」
男「今この男性と結婚すれば、もれなく“幸せ”がついてくる!」
男「さあ、俺と結婚しませんか!」
女「……」
女「はいっ!」
男「ありがとう……。キスしてもいいかな?」
女「うん……今度は広告は無しね」
…………
……
男「ありがとうございます」
女「おかげさまで……」
記者「せっかくですので、ご夫婦でなにか一言お願いします!」
男「じゃあ二人で……」
女「15秒間、私たち夫婦の広告をします!」
おわり
引用元: https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1628414476/
Source: GAMAG
【驚愕】男「キスしてもいいかな?」女「いいけど、15秒間の広告の後でね」