神奈川県西部にある足柄上病院のコロナ専用病棟。
8月1日、夕方5時。医師の岩渕敬介さんのPHS(院内電話)の着信音が鳴った。
電話口からは、コロナ患者の入院を調整している、県搬送調整班の担当ドクターの申し訳なさそうな声が聞こえてくる。すでにこの日2名の受け入れを行っていた。
「ご無理なところは承知で電話をかけているのですが、受け入れできませんでしょうか…Sat(サット)が88なんです」
「それは待てなさそうですね。ただ…大変心苦しいのですが今日はこれ以上は難しいです。本当に申し訳ありません。…状況は厳しいでしょうか。爆発しているでしょうか」
「かつてない状態です。私の手元にあるだけでも、88, 91, 89…四、五人は入院調整中の人がいます」
Sat(サット)は、Satulationの略で「酸素飽和度」を表す。血液中の酸素の濃度がどのくらいあるかを示す値だ。90を切ると「呼吸不全」とされる。体中の様々な臓器が十分な酸素を受け取れない危険な状態で、迅速な対応が必要となる。
新型コロナの重症度の分類で「中等症Ⅱ」(自力では肺から酸素を十分に取り込めない呼吸不全におちいっており、酸素投与が必要な状態)とされる状態だ。
中等症Ⅱの患者は重症化するリスクが高いため、すみやかに入院し、酸素投与などの治療が必要とされてきた。しかしいま、入院先が見つからず、待機を余儀なくされるケースが増えてきつつあるという。
2020年2月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で感染した患者を受け入れて治療したのを皮切りにコロナ診療に従事してきた岩渕さん。去年4月には、病院の一部を新型コロナの中等症患者(主に、酸素の吸入が必要になるほど悪化した状態)の専用病棟とし、病院を挙げて治療体制の構築を進めてきた。
その岩渕さんにとっても、現状は「過去に経験がない」緊迫した状態だという。
デルタ変異ウイルスのまん延により引き起こされている「第5波」。その最大の課題の一つとされる「中等症患者の受け入れ困難」は、どのように起きているのか。現場のリアルを聞いた。
※情報は8月4日(水)午前5時段階のものです