「ジェンダー不平等国」に、等身大で向き合った。東海テレビのCM、制作チームが“当事者として”重ねた議論

「ジェンダー不平等国で生きていく。」

そんな印象的なタイトルの東海テレビ(名古屋市)のキャンペーンCMが、2021年6月下旬からYouTubeで公開されている。 

男性が圧倒的多数の政治の世界でもがく女性議長、家庭内の性別役割を問い直す夫婦、「男の子らしさ」「女の子らしさ」の違和感に気づく子どもたちーー。

さまざまな年代や性別、環境の中で生きる人たちに、身近で感じるジェンダーの課題について考えていることを取材して制作された。登場人物たちが、時に言い淀みながら、もやもやとしていた感情を言葉にする姿を映し出す。

ジェンダーの課題は、人によって様々な捉え方がある。それだけに、中心になって制作した2人の記者は「CMにどんな反応があるか、怖さもあった」という。どんな議論を重ねて、「怖さ」に向き合ったのか、話を聞いた。

 

■「正直にやろう」と話し合った

プロデューサーを務めたのは、入社12年目の繁澤かおるさん。これまで行政取材やドキュメンタリー制作を担当し、2020年末に育児休暇から復帰した。プロデューサー補と取材を担当した神谷美紀さんは入社6年目で、行政や経済を取材してきた。

東海テレビでは10年前から年に1本、公共キャンペーンCMを制作している。これまで戦争や震災、性的マイノリティー、発達障がいなどについて取り上げ、著名な広告賞を受賞してきた。日頃は報道にたずさわる局員らが制作にあたり、担い手は代々若手に引き継がれている。

プランナーや社内の議論も踏まえ、2021年に選んだテーマが「ジェンダー不平等」だった。年明けから手探りで企画を進める中、日本のジェンダー課題を象徴するような出来事が相次いで起きた。

 

 

2月、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長(当時)の森喜朗・元首相による女性蔑視発言があった

翌3月には、「ジェンダー平等をかかげるなんて時代遅れ」というセリフが含まれたテレビ朝日「報道ステーション」のウェブCMが配信され、「ジェンダー平等に取り組む人を揶揄している」などの批判が相次いだ

繁澤さんは「ジェンダーの課題に対して、様々な問題意識があることを実感させられました。私たちのCMを世に出した時、どんな反応があるのか、怖さはありました」と振り返った。

2人は「背伸びせず、正直にやろう」「等身大で行こう」と意識の部分を丁寧にすり合わせた。

マスメディアの業界は、圧倒的に男性が多い。2020年度の民放労連の調査によると、全国の民放テレビ局127社のうち91社で女性役員がいない。役員の女性割合は全体で2.2%とわずかだ。在京テレビ局の報道部門の女性社員比率は平均23.9%、制作部門は14.6%、情報制作部門は21.2%というデータもある。

そんな中で当事者として感じてきた生きづらさや息苦しさ。そこに真正面から向き合った。 

 

■伝わりにくかった「女性の生きづらさ」

取材や編集に加えて重視したのが、チーム内での対話だ。

繁澤さん、神谷さんと、男性のディレクターやプランナーも議論に中心的に加わった。

繁澤さんはこれまで、女性が少ない職場で、やりにくさを感じることがあった。育休から復帰して両立の難しさもリアルタイムで感じていた。これまで同僚に明かしたことのなかった考えを、チーム内では率直に語った。「これまでもやもや感じてきたことを、初めて言語化する作業だった」と振り返る。

しかし、繁澤さんと神谷さんの間では感覚的に分かり合えたことが、男性のメンバーにはかなり言葉を尽くさないと伝わらなかった。「同じゴールに向かう少人数のチームでも、意識をすり合わせることが難しいということは、社会で同じ方向を向いていくのは難しいと実感した」という。

ただ、男性のメンバーは取り繕うことなく、「わからないこと」「不安なこと」を語った。例えば、ジェンダーについての議論を聞くと、責められているように感じ、議論に加わることに躊躇してしまう場合があること。「自分が良かれと思って言ったことや無意識の言動が、女性を苦しめているかもしれない」という不安も語った。

CMとしてより多くの人に届く表現を目指す上で、「一歩引いてしまう」人にも伝わるものはなんだろうか、誰もが自分ごととして捉えられるようにするにはどうすれば良いか。議論を繰り返した。

実際に、議論の積み重ねは、CMの中で様々な形で反映されている。

4人の男性がジェンダーの課題について語る「サラリーマン座談会」のシーン。これまで「男性として感じる息苦しさ」に目を向けてこなかったことを口にする姿が映し出される。 

共働きの夫婦が登場するシーンでは、家事や育児のため定時で帰宅する夫が、職場で「早く帰って何やっているの?」と言われたというエピソードを取り上げた。男性が家事や育児に参加することを阻害する要因となる、社会からの視線を象徴的に表している。

■等身大で取材した

 「等身大」。今回のインタビューで、繁澤さん、神谷さん2人から繰り返し出てきた言葉だ。

神谷さんがCM制作を通して印象に残ったというのが、「スルースキル」を身につけてきた自分自身への気づきだった。

「女性目線でこの企画をやって」。普段、記者として仕事をする中で、こんな指示を受けたことがある。「私は女性の代表ではないけれど、『私目線』で大丈夫ですか」。そう思っても口に出してこなかった。言わずにいたことで、ジェンダー不平等の構造に「自分も加担してきたのではないか」と考えたという。

そんな等身大の疑問は、取材先とも共有しあった。

CMはテレビで放送後、6月下旬からはYouTubeでも公開。全国から「真正面からよく作ってくれた」「励まされた」と反響があった。 

様々な性別や年代の人が登場したことで、「『私はサラリーマンに共感した』『私は若い女性の言葉に共感した』と、幅広く共感してくれたことが興味深かった」と神谷さんは言う。 

 「いろんな意見を入れたことで、何を伝えたいのかよくわからなかった」という声もあったという。繁澤さんは「『みんなの問題だ』という落とし所に、物足りなさを感じた方もいたかもしれない。女性の生きづらさにもっとフォーカスした方が伝わるものがシャープになったかもしれない、とも思います。それでも、いろんな人を巻き込む一つのアプローチとして、今回のメンバーで作れる最大の表現だったと思います」と話した。 

CMは、東海テレビの公式YouTubeチャンネルで見ることができる。

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Source: ハフィントンポスト
「ジェンダー不平等国」に、等身大で向き合った。東海テレビのCM、制作チームが“当事者として”重ねた議論

Kaori Sawaki