環境への配慮や多様性を企業の経営方針に採り入れるESG(環境・社会・ガバナンス)は、欧米を中心に世界の潮流になっている。しかし、ただちに収益に結びつかないこの理念をどこまで優先するか、企業にとって悩ましい問題だ。
一方で、ESGに消極的な企業に対しては、環境団体や投資家の視線が厳しくなっている。ESGを軽視した企業には、どんなリスクが潜むのか。最近の事例をもとに、4つのパターンを紹介する。 (小林豪)
<この記事に書かれていること>
1.環境対策が遅れる企業に、オランダの司法が下した判決とは?
2.日本の環境NGOが、企業に対策を促した方法とは?
3.女性取締役がいない企業は、社長選任もままならない?
4.差別発言をしたDHC会長に、取引先や自治体の反応は?
ロイターによると、オランダ・ハーグの裁判所は5月26日、欧州の石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに対し、2030年までに19年比でCO2排出量を45%削減するよう命じる判決を言い渡した。
シェルが今年発表していた気候変動に関する戦略には、「2030年までに20%以上」「2050年までに実質100%」のCO2排出量の削減目標が盛り込まれ、エネルギー業界では「野心的な部類に入る」とも言われていた。
しかし、判決はシェルの戦略を「明確ではなく、さまざまな条件が付けられている。これは十分でない」と指摘。温暖化を抑えるためのパリ協定に沿った対策をとる責任が企業にもあると判断した。
訴えていたのは、環境保護団体「グリーンピース」や「地球の友」オランダ支部など環境系7団体。シェルは判決について「失望している」とし、上訴する意向という。
ただ、「地球の友」オランダ支部の弁護士は「歴史の転換点だ。この判決は他の汚染企業にも大きな影響を与える可能性がある」とコメントし、他の企業への波及効果を示唆している。
日本では、環境団体が企業の株主となり、経営方針を変えさせようという試みも。
環境NGO「気候ネットワーク」(京都市)は3大メガバンクの一つ、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)の株式を取得。そのうえで「(同社は)国内外の化石燃料や森林破壊に関連する事業に多額の資金提供を続けている」として、パリ協定の目標に整合した事業計画を策定するよう、今年3月に株主提案を行った。
年次報告書で事業計画を開示するよう定款変更を求める内容で、6月29日の定期株主総会で採決される見通しだ。
同社は5月になって「カーボンニュートラル宣言」を打ち出し、2050年までに投融資先の温室効果ガス排出量を「差し引きゼロ」にするとアピール。しかし、気候ネットは「パリ協定との整合性への確証が得られない」として、提案は取り下げない構えだ。
気候ネットは昨年、みずほフィナンシャルグループに対しても、同様の趣旨の提案を行っていた。株主総会で否決されたものの、議決権の3分の1以上が賛成。海外の機関投資家のほか、野村アセットマネジメント、ニッセイアセットマネジメント、農林中金全共連アセットマネジメントなども賛成に回った。
気候ネットの平田仁子理事は、ハフポストの取材に対し、「これまでは企業の担当部署を相手に改善を求めてきたが、限界があった。やはり会社の中核である取締役会をこの問題に向き合わせることが重要で、株主提案という方法は効果的だと感じている」と語る。
日本企業のESG施策は、海外の機関投資家も注目する。なかでも取締役への女性の登用は、重要なチェックポイントとなっている。
米国の資産運用会社アライアンス・バーンスタインは3月、自社サイトに「日本のコーポレート・ガバナンス深化に向けた期待」と題した文書を掲載した。このなかで、「2021年以降、日本の取締役会において少なくとも1名の女性取締役を必要とすることを議決権行使の方針に含める」とし、女性取締役を起用しない経営トップの選任には反対する立場を明らかにした。
米国のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズも、東証株価指数(TOPIX)500の構成企業のうち、女性取締役の登用が遅れている企業に「ダイバーシティに関して当社が期待していることを伝えた」と表明。昨年はそうした「取り組み」に対応しなかったとして、106社の株主総会で取締役選任に反対したという。
欧米では早くから女性取締役の割合を高める運動が起きていたが、日本では2019年に「30%クラブジャパン」が発足。TOPIX100の取締役会に占める女性比率を30年末までに30%へ引き上げることを目標に掲げる。
同クラブでは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含む大手運用会社やアセット・オーナーなど24社で投資家グループを構成し、企業との対話を通じ、情報開示や女性取締役の選任を促している。
在日コリアンへの差別表現を含んだ文章が問題視された化粧品大手ディーエイチシー(DHC)。吉田嘉明会長による「確信犯」的な発信とみられたが、取引先などの強い反発を受け、撤回に追い込まれた。
保守層の一部には「言論の自由だ」と吉田氏を擁護する向きもあったが、人権や多様性を無視するような経営トップの言動は、やはり許されない時代になっている。
今回の差別表現を受け、DHCとサプリメント供給など災害時の連携協定を結んでいた高知県南国市、宿毛市、熊本県合志市の3市は、「人種差別にあたる」として協定解消などの姿勢を示した。DHC製品をふるさと納税の返礼品としていたさいたま市も、同社製品は扱わないことにしたという。
主要取引先のイオンは6月、DHCに説明を求めたところ、「不適切な文章が掲載されていた非を認め、当該発言を撤回する」「今後同様の行為を繰り返さない」ことを伝えてきたと発表。これを受け、取引を継続することを決めたという。
ただ、DHCは依然、消費者や在日コリアンに対し、釈明や謝罪をしておらず、ツイッター上では「(DHCの)ステークホルダーは取引先だけではない」と説明責任を求める声は根強い。本社前では抗議行動が行われ、不買運動を呼び掛ける声もある。
経営者がESGに反する言動をとれば、それ相応のリスクを背負うことになる。
Source: ハフィントンポスト
4つの事例でわかる「ESG」。軽視すれば、会社が潰れるかもしれない