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「イヤなやつだけど正論を吐く人が必要」。環境問題の解決には「意地悪な視点」が必要だった

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グレタ・トゥーンベリさん、トランプ支持者、気候変動マーチに参加する日本の若者、ドナルド・トランプ氏

2025年、アメリカ大統領に復活当選したドナルド・トランプは、あらゆる環境保護に否定的な政策を開始。その影響は日本にも及び、横須賀市の在留米軍は同市に対して「市の環境保護政策には協力しない」「電力の安定供給の観点から火力発電の稼働を数年早めるように」と通告した。市はどのように対応すべきか。6~7名の登場人物を設定し、議論が盛り上がるようなドラマを作り上げよ。

環境問題への危機意識や地域の問題に関心を持つ若い世代を対象に、パタゴニア日本支社が開催するクライメート・アクティビズム・スクール。冒頭の設定は、オンラインで開催された同スクールのプログラムのひとつである演劇ワークショップの課題だ。

気候変動の問題について学ぶ場で、なぜ自分たちが演劇をやる必要があるのだろう?

戸惑いながらも取り組みをはじめる参加者たち。

講師役の劇作家・平田オリザさんは、ヒントを挙げてさらに参加者たちを悩ませる。

「すごく意地悪な視点を持って、シナリオを考えるといいですよ」

 

講師を務めた劇作家の平田オリザさん

気候変動の問題になぜ演劇でアプローチを?

気候危機といわれる中で、状況を何とか改善するために行動したい。そのためのヒントを得るために集まった10代20代の参加者に平田オリザさんはこう語りかけた。

「シンパシー(同情)はあっても、エンパシー(共感)がない。会話はあっても、対話はない。これが今の日本社会です」

 「対話劇をつくろう シンパシーからエンパシーへ」と題されたワークショップ初日、冒頭でのことだ。

「今年初め、トランプ氏の支持者が連邦議会議事堂を襲撃しました。多くの人は、あの行為自体はまったく同意できないはずです。しかし、トランプに投票した7000万もの人々の悲しみを理解しようとする努力は必要だと思いませんか?その悲しみに理解を示さないと、分断を乗り越えることはできません

大統領選後、トランプ支持者らが連邦議会議事堂に侵入し暴動に発展。写真は侵入者の中の一人。熱心なトランプ支持者でQアノン信者として知られる。

エンパシーとは、異なる価値観や文化的背景を持つ他者を理解しようとする態度や技術のこと。トランプ支持者に同意せずとも、エンパシーを持たなくては、ポストトランプの社会を建設的に築き上げることはできないのではないか

そうしたエンパシーを育むのに、演劇的手法が有効だと平田さんはいう。なぜなら、演劇は「対話」をベースに成り立つものだからだ。

国連気候サミットで怒りを見せながら環境対策の強化を訴えたトゥーンベリ氏(2019年9月23日)

気候変動問題はグローバルでの喫緊課題。異なる価値観をもつ相手とも協力して解決に向かうことが求められる。

しかし、実際には、グレタ・トゥーンベリさんなどの若い世代の活動家に対して「そこまで言うなら原始人の生活に戻れ」「正論だが言い方を工夫した方がいい」などの冷笑的な批判が相次ぐ場面もある。

また、気候危機に対応するためにあらゆる産業で急ピッチの変革が求められるが、経済合理性との両立や雇用の問題など、「きれいごと」だけで推し進められない現実もある。

 同じ考え方の者同士だけでは解決し得ない複雑な問題に取り組むために、演劇を通じてエンパシーを学ぶことが必要だーー

かくして、31人の演劇ワークショップがはじまった。

 「イヤなやつだけど正論を吐く」人が必要

オンラインで開催されたこの日のワークショップ。

参加者は5つのグループに分けられ、A~Cチームには冒頭で挙げた「横須賀市と在留米軍」の課題が、D・Eチームには「兵庫県豊岡市で繁殖によって増えすぎたコウノトリが小学生にケガをさせた」という課題が与えられた。チームごとにZoomのブレイクアウトルームに分かれて、いざシナリオ作りが始まった。

平田オリザさんが参加者に出した課題

この議題のステークホルダーはどんな人物か?

どんなキャラクターが登場すれば議論は盛り上がる? 

ラストは物語をどう着地させればいい? 

参加者の年齢層は15~24歳。演劇経験はもちろん、実生活での折衝経験もほぼないであろう参加者たちに、平田オリザさんはひとつヒントを与える。

「イヤな奴なんだけど正論を吐く。環境保護推進派が実は不倫中だった。そんなキャラクターがいると面白くなります。ぜひ意地悪な視点を持って、シナリオを進めてみてください

エンパシーには、理解し難い相手のひととなりを細部まで具体的に想像する訓練が大事なのだと平田さんは語る。

ワークショップの参加者

オンラインで言葉を交わし、頭を悩ませながらシナリオを練り上げていく参加者たち。ほとんどのチームは1日目でキャラクターの役割と方向性を決め、2日目でセリフに落とし込む作業にまで持っていった。

「クライメート・アクティビズム・スクール」の進行役を担ったパタゴニア日本支社 環境・社会部アクティビズム・コーディネーターの中西悦子さんは、各ルームをまわり、それぞれのチームで起きた変化を次のように語る。

「序盤は『おもしろそう!』と思えている人と、『これが気候変動や環境と何の関係があるんだろう?』と腑に落ちない表情でいる人が混在していましたね。そこから時間が経つごとに互いの意見を少しずつ出し合い、調べる人、大筋を考える人、などと作業分担も行いながら、悩みつつシナリオやストーリーの流れを積極的に話し合う空気に変わっていきました」(中西さん)

 

日本支局の中西悦子さん(最上段右から2人目)

「混乱させることが苦手」という傾向が浮かび上がる…

2日目は仕上げ作業を経ての発表タイムだ。代表してA・B・Dチームが自分たちで考えたシナリオを朗読劇の形で発表した。 

横須賀市と在留米軍の課題に取り組んだBチームのシナリオは、火力発電所の代表、市役所職員、経済学者など、ステークホルダー全員が互いに責任を押し付け合い、お茶を濁して結論を先送りにするというストーリー。審議が進まない国会中継のような風景とシュールな結論は、ある意味でとても日本的な印象を与えた。

平田さんが講評を行った。

「最初にみんなが責任をなすりつけ合う流れはよかった。後半は失速しましたが、あれをもっと回せばよかったですね。あとはそれぞれが社会的な立場でしか主張をしていないので、プライベートの部分も出せたら面白くなったはずです」

同じ課題に取り組んだAチームは、科学者や夫が火力発電所で働く主婦など、Bチームにはいなかったステークホルダーを組み込み、終盤に飛び込んだ臨時ニュースによってそれまでの綺麗事が剥がされ、話し合いがひっくり返る、という展開に。

夫や親せきがその施設で働いているために、地域の課題について発言しづらくなるというのは現実にもあるケースで、そこに着目した点が興味深い。

「主婦以外のキャラクターにも個人の部分が出ていたらもっと面白くなったはず。最後に主婦に『え、じゃあうちの夫、失業ですか?』と言わせるセリフがあったらもっとよかったのに。そこがもったいなかったですね」

ドラマ仕立ての演技が印象的だったのは「繁殖によって増えすぎたコウノトリ」問題に取り組んだDチームだ。我が子がコウノトリにケガをさせられたPTA会長、米農家、市議会議員、観光協会などをステークホルダーに据え、それぞれを激しく対立させながらも和解の地点まで物語を着地させた。

ワークショップの参加者

 「うん、非常に面白かったですね。オチはちょっと弱いし、ツッコミどころもありますが。事実関係をもう少しきちんと調べた上でシナリオに反映させていたら、もっと面白くなっていたと思います」 

残りのチームもそれぞれにプロットを発表。平田さんが全体を通しての総括を述べた。

皆さん、混乱させることが苦手でしょう? きっとこれまで混乱させないように、トラブルを回避するようにと教えられてきたから、その逆は不得手なんでしょうね。登場人物たちが簡単に納得したり、安易にまとまったりするシナリオが多いのはその影響なのかなと感じました」 

参加者「演じることで新たな視点を獲得できた」

2日間のグループワークを通じて、参加者たちはどんな感想を抱いたのか。

答えのないストーリーを作るのが難しく、楽しかった。いろんな人の立場や気持ちを考えるのは難しかったが、気候危機問題解決に重要なことだと気付かされた」

「意地悪なストーリーを自分が作れないことを痛感した。これは最悪を想定したり、不確実性を把握したりする能力が鍛えられていないということ。これがエンパシーに繋がるとすると、もう少し鍛えないといけない」

「さまざまなキャラクターたちとその背景を把握しながら、利害関係や情報の先にある感情までを理解しようとする努力。今後、さまざまな人たちと対話していくであろう自分にとって、今の時点で聞けてよかった」 

「(平田さんから)もっと複雑に人間関係は絡み合っているよねというところを突っ込まれ、単純に賛成・反対だけの意見で片付く問題ばかりではないことを学んだ」

ワークショップの参加者

プログラムを主宰したパタゴニアの中西さんは、短い時間の中で、参加者が変化していく様子を目の当たりにし、「自分と異なる相手の世界を想像しながら協働する大切さに体感として気づく場になっていれば嬉しいです」と振り返った。

命の次に大切なものはそれぞれに違うからこそ・・・

2日間にわたるワークショップを、平田さんは次のように締めくくった。

「命は大切ですよね。でも命の次に大切なものは、一人ひとりで違う。音楽や映画に救われた人もいれば、スポーツ観戦で勇気をもらった人もいる。だからこそ、相手が何を大切にしているかを私たちは常に理解しようとしなければならない。エンパシーを届けるために、芸術はある。私はそう思っています」

私の人生に“それ”はいらない、でもあなたにとって“それ”は大事だということはわかる。

すべての人がそれぞれに持つ固有の背景を、理解しようと努力すること。歩み寄ろうとする姿勢を見せること。

多様な価値観が混じり合って成り立つこの社会を生きるすべての人にとって、エンパシーは必要な力だといえるだろう。 

エンパシーは他者への寛容さ、愛のある学びと言い換えることもできます。どうにかして相手と共有できる部分を見つける。相手の履歴、積み重ねてきた歴史を見つけて尊重する。そんな風な対話の在り方を、誰もが少しずつ持てるようになっていけたらいいですね

 

(取材、文:阿部花恵 / 編集:南 麻理江) 

 

◆記事でご紹介したワークショップについて(概要)◆

クライメート・アクティビズム・スクール ワークショップ A「わたしたちの生きたい社会をつくるためには」

クライメート・アクティビズム・スクール | パタゴニア | Patagonia
パタゴニア日本支社が開催する「クライメート・アクティビズム・スクール」は、パタゴニアの長年つづく、環境保護活動を成功に導くための「草の根活動家のためのツール会議」の一部でもあります。新たな価値を生み出し、分断された環境や人間がつながりを取り戻す社会を。皆さんが生きることができる安全な気候と未来のために学び、それぞれの学...

テーマ:気候危機 脱炭素社会(ゼロカーボンシティ)」

地域:神奈川県横須賀市

ねらい:パリ協定以降、世界で脱炭素化への動きが加速し、昨年は日本政府としても2050 年までに温室効果ガスの排出をゼロに抑えると菅首相から発表がありました。若い世代からは、安全に暮らせる未来を求めて、さらに気候危機への対策をすすめてほしいというメッセージが小泉環境大臣に届けられるなどしています。そして、2021 年1 月28日横須賀市はゼロカーボン宣言を表明しました。市民団体や環境NGOもこれを歓迎しています。けれども、国内最大規模の新規石炭火力発電所建設も進んでいます。こうした20世紀の文脈と21世紀の文脈とが重なる時代に生きる私たちが、前時代的な二項対立に収まることを越えて、この現在地からどのような社会や未来を創造していくのか。横須賀市でよりよい暮らし、街、社会にしていくことを望み取り組まれている地域の事業者や環境団体、若い世代の皆さんと、対話や場を共有して一緒に考えていきましょう。そして、行動してみましょう。

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Source: ハフィントンポスト
「イヤなやつだけど正論を吐く人が必要」。環境問題の解決には「意地悪な視点」が必要だった

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