「『外国人だから〇〇』と言われることがよくあります。人によるんだけど…」
「大阪出身の人は、とかそういう言い方もバイアスがかかってるかも」
「1人の人から意見を聞いたら、そのグループの人みんながそう思っているように感じてしまうことがある」
参加者が口々に自分の経験を語る。フリマアプリ大手のメルカリで開かれた「無意識バイアスワークショップ」の一幕だ。
専門家が「誰もが持っている」と指摘する「無意識の偏見(バイアス)」。「アンコンシャス・バイアス」とも呼ばれ、公平性を阻害するだけでなく、ビジネスの場面では適した人に仕事を任せられていない可能性がある。
今、その偏見を意識することでよりよい企業活動に繋げようという動きが広がりつつある。
マイノリティのためだけでなく、経営戦略の一環
メルカリは2019年3月から、社内でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みの一環として「無意識バイアスワークショップ」を開催。背景は、さまざまな国籍の社員が増えたことだった。
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げるメルカリにとって、社員の多様性を高めることは経営戦略の一環だった。さまざまな視点があることで、多くの客のニーズを汲み取ることができると考えているからだ。現在は40カ国以上から社員が集まっている。
ただ現場は、その変化に戸惑った。
ワークショップを担当するチェン・チーキュウ(リズ)さんは「多様性が広がっていくことにマネージャーが対応しきれず、『グローバルメンバーが…』などと日本人メンバーと外国人メンバーで分けて発言することが増えたんです」と振り返る。
無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)とは、性別や国籍、年齢など特定の属性などに対して、無意識に持つ偏った見方や考え方のことだ。
無意識であっても、属するカテゴリーなどをもとに相手を判断してしまうとそれぞれの強みを生かした仕事にはつながらない。組織としての意思決定にも影響してしまう。
そこでメルカリでは、無意識バイアスについて適切に理解し、日常的に意識する習慣をつくることを目的にワークショップを始めた。2020年以降は全マネージャーが受講し、今後対象を広げる予定だ。
「自分もやっているかも…」「傷付いたことある」
実際にメルカリで行われた、人事評価に関わる社員やマネージャーらが出席したワークショップ。リズさんは、「無意識バイアスは誰もが持っている。無意識で行われることを全てなくすことはほぼ不可能」とし、目標は「無意識バイアスが自分の判断やコミュニケーションの取り方が影響していないかレビューするきっかけをつくること」と説明した。
バイアスの例として「エンジニアは朝が弱い」などの過剰な一般化や、「年齢が高い人ほど知識がある」など見た目や属性を能力に結びつける、「子どものいる男性社員には出張を打診するが女性社員にはしない」などを挙げながら、そういった経験がないかを参加者に問いかける。
参加者は「例が身につまされる」などと振り返り、「もしかしたら、『意外と〇〇だね』という言い方も無意識バイアスを持っているから出るのかも」「そういうふうに言われて傷ついた経験がある」などと互いの経験を共有した。
リズさんは「印象とファクトを分けて考える」「もし今話している相手が異なるジェンダーや年齢などのバックグラウンドだったら自分の考えや態度は変わるかどうか考えてみる」などのセルフチェックの方法を共有。
意識することで、再度同じバイアスを持ってしまう可能性が減り、修正も可能だと説明した。チームで無意識バイアスについて話す機会を持って指摘し合うことで、より効果があるとも付け加えた。
参加者からは「育休明けの女性に業務のことで配慮するというような、悪意のないバイアスはどうするのがいいのだろう」「出張の打診をすること自体がプレッシャーになるのではと思ってしまう」などの声も。
リズさんは「子育て中で大変というのは、女性だけでなく男性もそうかもしれません。性別で分けるのではなく、その人が適任だと判断したのなら、その人自身としっかり話してみることが大切」などとアドバイスしていた。
「属性などで決めつけずに対話ができなければ、いい商品は生まれない」
メルカリでD&I推進の責任者を務める品川瑶子さんによると、無意識バイアスワークショップを広める際には、抵抗感を持つ社員もいたという。
品川さんは「まずは、D&I自体が、マイノリティの人たちを助けるためのものであるという意識を持っている人もいました。それを、企業戦略として重要なものであることを理解してもらう必要があったんです」と説明。
前述したように、多様性を高めることはメルカリの戦略に欠かせないものだった。
「ジェンダーや言語、文化のギャップはあり、それは無意識バイアスを意識することですぐに解決するというものでもありません。そこで重要なのは対話をするということ。属性などで決めつけずに対話ができるという心理的安全性がなければ、ストレートな議論はできず、良い商品も生まれません」
そうした企業としての戦略を説明し続けることで、D&Iを推進すること、無意識バイアスを知ることへの社員の理解が深まっていったという。
ワークショップをスタートして2年。リズさんは「グローバルメンバーは〇〇」などという属性を一括りにした発言は減っていると感じているという。
メルカリではワークショップで使用している資料やファシリテーター用のガイドをサイトで無料公開。他社でもワークショップを実施するなど社外に取り組みを広めている。
品川さんは「ノウハウを広く共有することで、日本社会全体の多様性受容の推進を目指したい」としている。
無意識バイアスは「企業にとっても損失」
日本のビジネスの現場で無意識の偏見が注目されるようになったのは、GoogleやFacebookといったアメリカの大手IT企業が研修に取り入れたことがきっかけだ。
『アンコンシャス・バイアス―無意識の偏見― とは何か』の著書があるコンサルタントのパク・スックチャさんによると、Googleなどでこうした動きが出たのは、アメリカ国内での調査や研究がきっかけだった。
例えば、オーケストラが行う演奏家の採用試験で、審査員と受験者をカーテンなどで隔てる「ブラインド・オーディション」を導入したところ、女性が採用される割合が大幅に増えたという調査や、同じ内容の履歴書を性別だけ変えたところ、男性の方が高く評価されたという研究だ。
「ビジネスの場面でも、最も適した人に仕事を与えられていない可能性があるということ。それは企業にとっても損失です」
日本では2017〜18年ごろからこうした研修が始まり、徐々に増えている印象という。ただ、現状で取り組んでいるのは大企業が多く、中小企業にはあまり広まっていないのが現状だ。しかし大企業がアンコンシャス・バイアスの改善に取り組み、発信を行うことは「社会への影響は大きく、意義がある」とする。
「無意識でのバイアスであっても、もたらす結果は意識的なものと同じ。公平性を阻害してしまいます。大切なのは、バイアスがベースになりやすい『推測』をするのではなく、事実やデータを確認し、根拠を持って評価することです」と強調。
「また、『女性だから』など自分の属性で自分自身に無意識のうちにバイアスをかけ、自らチャンスを断ってしまうこともあります。機会を与える側も与えられる側も、そうしたアンコンシャス・バイアスを意識することで、それぞれの能力を発揮できる可能性が広がるのではないでしょうか」
Source: ハフィントンポスト
「大阪の人ってこう」がビジネスを停滞させる。無意識の偏見をグローバル企業が恐れるわけ。