40代は茶こしを洗って「再起動」。奥田民生が語る仕事、人付き合い、そして加齢の話。【インタビュー】

日本の音楽シーンを代表するミュージシャンとして、“力まない大人”の代表格として、不動の人気を誇る奥田民生さん。10年ぶりとなる本「59-60 奥田民生の 仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル」(ダイヤモンド社刊)には、民生さんがこれまでに築いてきた仕事観や交友関係、そして加齢への率直な体感などが綴られている。

タイトルの「59-60」が示す現在の59歳、そして来年迎える60歳を民生さんはどう捉えているのか。(斜体はすべて同書より引用)

奥田民生さん

若い時の発言はサムくて当たり前

―まず「59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル」を出版されるにいたった心境からお伺いしたいです。60歳を迎えるにあたり、20代、30代、40代…とそれぞれの時代を改めて振り返って、印象的だったことはありましたか?

奥田:若い時と今では、発言も全然違いますからねぇ。変わったつもりはなくて、その時々で、実際に思っていることを言っているはずなんだけど、すべてを覚えているわけじゃないから過去の自分が「こんなこと言ってたっけ?」って思うこともしょっちゅうあって。過去の発言は「元気なこと言ってるなー、自信があったんだなー」って笑みをこぼしながら(笑)、振り返りましたよ。加齢で記憶が上書きされているだけかもしれませんけど。

―一般人の私にも、若かりし頃の言動を振り返ると恥ずかしくなることが多々あります。イタいな、とかサムいなとか。

奥田:そりゃ若い頃はサムい方がいいんですよ!何も知らないときの発言なんだから、サムくて当たり前です。若い時から今まで変わってない方が進歩してないってことだから、それはいいんじゃないですか。もちろん変わっていない部分はあるけれど、全然変わっていいんですよ。

自分の居場所は周りとの関係で決まる

俺がいまでも音楽で仕事ができているのは、自分を誰かと比べたり誰かに寄せたり、時代に合わせたからでも多分なくて、ただ「自分のスタイルでそこそこ仕事ができればいい」と思った結果なんだと思う。

―バンド『UNICORN(ユニコーン)』でデビューされた20代の頃には、人並みに「一番」を意識していた、周囲のバンドと比べる気持ちもあったと本にはありましたね。しかしその後、チャートで1位を取ることや、東京ドーム公演を目指すよりも、音楽を長く続けられる方を選んだ結果、「8位くらいがちょうどいい」と思うようになったと。

奥田:俺だって、他人と比べないわけじゃないんですよ。全く比べなくなってしまったら、それは孤独な人だから。基本的には、周囲と馴染んでいなくちゃいけないし、雑用や下働きだと思っちゃうことをしなきゃいけない時もあるけど、その環境で、一番落ち着ける場所を見つけていくしかないんですよ。

「8位でいい」って言ってるのも、自分から毎回8位を目指せって意味ではないですよ。一時はトップに立つことも、最下位に落ちることもあるけど、やれるだけのことをやって年間の成績が8位だとしたら、それは「何で1位じゃないんだ、チクショウ」ってことではないですよ、8位で何が悪いのって。

―別に怠けて8位になったわけじゃないぞと。

奥田:怠けてたせいもあるかもしれないですけどね(笑)。でも、その怠けてた分は次回に活かさねばって思うんですよ。それを抜きにしたら、やる気なんて何もなくなっちゃいますから。何もしなくても落ち着ける自分の居場所なんて、どこにもないって俺は思いますよ。椅子取りゲームと同じで、みんな自分で探して、そこに座るんです。自分が思い描いた世界の真ん中に座れることなんて、自分の部屋くらいのもんだから。

「59-60 奥田民生の 仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル」(ダイヤモンド社刊)

人見知りは損

なぜなら還暦にもなって「人見知りです」だなんて言っていたら、誰も俺の棺桶を持ってくれないことに気づいたからだ。

だから俺は3年前から「人見知りじゃない」ことになっている。

―自分の居場所は、お膳立てされるのではなくて、他者との関係性で決まっていくということですね。人間関係の話では、ここ数年で「人見知り」をやめたというのが印象的でした。

奥田:幼少期から、自分の人見知りは自覚していたし、だから交友関係が広がらないとも思い続けてましたよ。表に立って何かをやるのは恥ずかしいし、それをよしとして「人見知りだからすみませんね」と思っているところもありました。

だけど、50代にもなって「人見知りです」なんて、いつまで言ってるんだって話ですよ。

―「自分、不器用ですから」ではないですが、「人見知りですから」で通す道もあるかなとは思いますが…。

奥田:何だったら俺は器用な人間ですよ(笑)。器用な人見知りって、何もそれを役立てられないじゃないですか。もっと外に出て行って、「俺はこういうことができます」って言っていくべきだなと。

―では、人見知りだった若かりし自分に、何か言ってあげたい言葉ってありますか。

奥田:音楽だって、人となりが現れるものだから、人見知りじゃなかったら、音楽性だって違うかもしれないし、人見知りじゃない音楽も良かったかもしれないですよね。でもその時の俺は人見知りだったんだから、もうそれは仕方ないことですね。でも、「人見知りをやめる」っていうのも、その時の気分だったにすぎないから、またいつか人見知りの俺に戻る時が来るかもしれません。

ハフポストのインタビューに答える奥田民生さん

40代は茶こしを洗って「再起動」

いままで自分がやってきたことを振り返りつつ、自分を再起動できるのも40代の醍醐味。俺がユニコーンをまた続けられると思ったのも、自分を再起動して生まれた「空きメモリ」に、ちょうど収まるピースを見つけられたからかもしれない。

―20代はインプットの日々で、30代はそれらを爆発させるアウトプットの日々だったということですが、ミュージシャン以外の全ての仕事にも通じる話なのかなと感じました。そして40代の私には「再起動」という言葉が印象に残りました。

奥田:20代のときって、頑張って苦労して情報をかき集めてきたわけではなくて、知らないことばかりだから、何でもかんでもインプットされて、勝手に「食らっちゃってた」わけですよね。中にはどうでもいいこととか、必要ないことまであって、次第に茶こしで漉すように取捨選択をしていくわけですけど。

40代で「再起動」と言ったのは、茶こしを一度「チャッ」と洗って、目に詰まったものをザーっと捨てるような時期だと思うんですよね。全部が全部を、食らっているわけにもいかないですから。

―茶こしですか。茶葉を洗い流すように、仕切り直すということですかね。

奥田:背脂とか詰まっちゃうと、大事なものまで通らなくなっちゃうかもしれないですからね。だから「チャチャッ」と洗うんです。背脂って言うと、茶こしがラーメンのアレになっちゃったかなぁ?アレの名前何だっけ?

(スタッフ):「てぼ」ですかね?

奥田:それそれ、「てぼ」の背脂が詰まっちゃうから……。

―洗い流した後は、茶こしなりてぼなりの、網目の粗さとか穴の角度とかは変わっていくんでしょうか。

奥田:それは器の問題かもしれないから、目や角度は変わらないかな。目が詰まってしまうと、おいしいものしか入ってこない喜びもあるけれど、その分、忘れてしまうものもあるかもしれないから、「チャチャッ」と洗うんです。網目自体はずっと変わらないけれど、フィルターを掃除しなきゃいけないタイミングが40代にはあったんですよね。

ハフポストのインタビューに答える奥田民生さん

―そして50代の現在は、とても気力を意識しているようですが。

奥田:釣りやゴルフもするけど、俺にとって一番の趣味ってやっぱり音楽なんですよ。ギターだけじゃなくて、エフェクターだ、アンプだ、シールドだ、ケーブルだって色んな機材を試して考えることは今でも楽しいんです。ただ音楽は仕事でもあるから、楽しいだけでもダメなんですよね。趣味としてだけなら、昔の曲を弾くだけでもいいいかもしれないけれど、人に発信して、共有するのが、仕事としての音楽だから、重要なのは体力よりも気力なのかなって思います。やる気がなくなってしまうのが一番怖いですね。

誰だってクヨクヨする。隠す必要はない

昔から俺は失敗したら、そのたびにクヨクヨしてきた。

でも落ち込んだときはクヨクヨしたっていいと思う。

無理してすぐ立ち直ろうとしなくても、そのうちなんとかなるからだ。

―「クヨクヨしてもいい」と仰っているのは、気力を残しておくためでしょうか。元気でポジティブが一番!みたいな考え方が辛い人には救いになる言葉だなと思いました。

奥田:だってクヨクヨしてない人はいないでしょ。なかやまきんに君だって、松岡修造さんだってきっとクヨクヨしてますよ!(笑)。表に出すか出さないかだけの話で。クヨクヨを隠した方がいい時もあるけれど、そうじゃなければ隠す必要はないかなって。クヨクヨしても、じゃあ次はこうしようって反省材料にもなりますし。

―直近では、何にクヨクヨされました?

奥田:ついこの間、ケーブルを買ったら、「これじゃなかったな…」って(笑)。売り場に行ったら二種類あって、本当は「こっちの方がいいだろうな」って分かってる方を買いに行ったのに、その棚のキャッチコピーにつられて、気の迷いで、もう片方を買っちゃったんです。「ああー…」って。ケーブルの中ではなかなか高価だったからショックでしたけど、でも試せたからいいんだということにしています(笑)。

ハフポストのインタビューに答える奥田民生さん

ユニコーンは「心のよりどころ」で「ただの友達」

―かつては人見知りだったり、今も時にはクヨクヨしたりしながらも、民生さんを支えているのは、ユニコーンの存在なのでしょうか。居場所は自分で探すもの、と仰っていたものがやはりユニコーンなのかなと。

奥田:心のよりどころですよね、一番一緒にいて楽ですし。友達同士で今もバンドができてるなんて、こんな幸せなことないです。

―ずっと友達同士でバンドを続けていると言えば、ユニコーンかU2かって感じがします。

奥田:その2つだけってことはないでしょ! GLAYとかみたいにもっと「友達友達」なバンドは他にもいっぱいありますよ(笑)。ユニコーンのメンバーとは趣味は合わないし、「俺たち友達、親友だよな」なんて面と向かって言うことはもちろんないけど、じゃあ何て言うんだろう……。「ただの友達」かな(笑)。

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40代は茶こしを洗って「再起動」。奥田民生が語る仕事、人付き合い、そして加齢の話。【インタビュー】