宇宙に行くと人間の体には様々な問題が発生します。例えば、骨密度や筋肉密度の低下、体内の水分が自由に浮遊することなどが知られています。そして意外にも「爪」にも問題が発生するというのです。この爪に起こる問題について、科学メディア「Science Alert」が紹介しています。
*Category:サイエンス Science *Source:Science Alert ,NASA ,NTRS
宇宙飛行士が船外活動を行った後、多くの宇宙飛行士の爪が剥がれ落ちるというのです。この現象は専門用語で「爪甲剥離症」と呼ばれています。この問題は重力よりも気圧に大きく関係しているようです。宇宙では周囲の気圧が非常に低く、人体にはあまりよくありません。船外活動を安全に行うために、宇宙飛行士の宇宙服は加圧されている必要があります。
Wyle Laboratoriesの疫学者ジャクリーン・シャーヴァット氏率いるチームは2015年の学会論文で次のように書いています。
Injuries to the hands are common among astronauts who train for extravehicular activity (EVA).When the gloves are pressurized, they restrict movement and create pressure points during tasks, sometimes resulting in pain, muscle fatigue, abrasions, and occasionally more severe injuries such as onycholysis. Glove injuries, both anecdotal and recorded, have been reported during EVA training and flight persistently through NASA’s history regardless of mission or glove model.
— 引用:NTRS
訳:手の怪我は、船外活動(EVA)の訓練をする宇宙飛行士によく見られる。手袋に圧力がかかると、動きが制限され、作業中に圧迫点ができ、時には痛み、筋肉疲労、擦り傷、時には爪甲剥離症などの重傷につながる。NASAの歴史の中で、ミッションや手袋のモデルに関係なく、船外活動の訓練や飛行中に手袋による負傷が、逸話的なものから記録されたものまで、絶え間なく報告されている。
船外活動の最長記録は8時間56分とのこと。手の怪我を引き起こしたり、悪化させたりする可能性のある手袋をしているには長い時間です。特に宇宙ステーションの外で手で行う作業がある場合、重要な問題となります。この問題については多くの検討がなされてきました。シャルバット氏のチームは、手袋のデザインに関係なく発生すると指摘しています。
2010年、研究者チームが宇宙飛行士から報告された232件の手の怪我を調査したところ、宇宙飛行士の中手指節関節(拳の頂点にある指の関節で、手のひらと指が接する部分)の幅と周囲径と怪我のリスクとの間に有意な相関関係があることが判明しました。彼らの研究では、宇宙服の手袋が中手指節関節の可動性を制限し、指に大きな負担をかけ、その結果、血流の減少、組織の損傷、爪甲溶解症を引き起こすことが示唆されました。
宇宙服の手袋は実はかなり複雑です。最低でも4つの層から構成されています。 皮膚に直接触れる「快適層」、 手袋が加圧されると膨張し硬くなる「圧力ブラダー層」 、圧力ブラダーの硬さに対抗し動きを可能にする「拘束層」、 そして宇宙空間から着用者を守る外側の「サーマル・マイクロメテオロイド・ガーメント層」の4つです。この外層自体もいくつかの層で構成されています。
元ロッキード・マーチン、現ボーイングのエンジニア、クリストファー・リード氏が率いるチームは、爪甲剥離症に関連する危険因子を絞り込むため、宇宙飛行士の爪甲剥離症による怪我を研究しました。今年初めに発表された研究では、31の爪甲剥離症(27人は訓練中、4人は船外活動中)が22人の宇宙飛行士によって報告されました。
この研究では、2つのタイプの手袋が使用されており、1つは指の爪を失うリスクが8.5倍あると関連付けられました。怪我は主に中指に起こり、 手袋のサイズと中指の長さも関係していると言います。また、爪甲の損傷は男性よりも女性の方が起こりやすいようです。
少なくともNASAの宇宙飛行士の場合、手袋は着用者一人一人にフィットしています。手袋のデザインはかなり重要な役割を果たしているのです。
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宇宙飛行士の「爪がなくなる」理由