国際カミングアウトデーで便乗PRの自衛隊や花王、批判にどう答えた?銀のさらは「個別回答は控える」

国際カミングアウトデーに便乗した花王のツイート

10月11日は、自身のセクシュアリティをカミングアウトする勇気や覚悟をたたえ、応援する「国際カミングアウトデー」。LGBTQ当事者の人権擁護などを目的に1988年に制定された記念日だ。

だが同日、これに便乗する形で「自衛隊大阪地方協力本部」や「花王メリット」、「銀のさら」のTwitterアカウントが、ハッシュタグ「#国際カミングアウトデー」などをつけ、製品情報などを投稿。自社PRに利用した。

Twitterでは「国際カミングアウトデーの意味をわかっていない」「ネタやおふざけで使っていいハッシュタグではない」「カミングアウトは命がけでするもの。重みを奪わないでほしい」といった批判が寄せられ、3者はツイートを削除し謝罪した。

ハフポスト日本版の取材に対し、花王は「担当者が国際カミングアウトデーの意味を知らずに投稿してしまいました」、自衛隊大阪地方協力本部は「ツイートを考えた隊員の中に『国際カミングアウトデー』の意味を知る人はいませんでした」と回答。

銀のさらを運営する「ライドオンエクスプレスホールディングス」は「個別回答は控えさせていただきます」とし、不適切な投稿に至った経緯を説明しなかった。

◆不適切な投稿は、どんな経緯だったのか

自衛隊大阪地方協力本部は11日、「今日は『カミングアウトデー』ありのままの自分を#カミングアウトするきっかけの日なんや!」「(同本部のイメージマスコットキャラクター)まもるもカミングアウトするで~『実はな…#ほふく前進得意やねん!』」などと投稿。

12日に投稿を削除した上で、「この度の件、『国際カミングアウトデー』の意味をよく理解せず、誤解をまねくような投稿をしてしまい申し訳ありませんでした。以後再発防止に努めます」と謝罪した。

同本部によると、投稿はマスコットキャラクターをPRする意図で、複数人の隊員で考えて投稿した。ツイートを考えた隊員の中に、「国際カミングアウトデー」の意味を知る人はいなかったという。

これまでLGBTQに関する研修や取り組みなどはしていなかったが、担当者は「今回を教訓として、国際カミングアウトデーについて情報共有をするなど、再発防止に向けて強化を図っていく」としている。

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花王はシャンプー製品『メリット』について、「実は…#ノンシリコーン シャンプーなんですよ。 #国際カミングアウトデー ということで、みなさんが知らなそうなことをカミングアウトしてみました。。。」と投稿。

12日に「このたびは、『国際カミングアウトデー』を正しく理解せず、思慮に欠けた投稿をしたことについて、深くお詫び申し上げます。昨晩より多くのご意見をいただいており、それらを真摯に受け止め、社内の教育啓発を一層強化し、再発防止に取り組んでまいります。大変申し訳ございませんでした」と謝罪した。

花王によると、ツイートはSNSチームの担当者が投稿した。広報担当者は「恥ずかしながら、国際カミングアウトデーについて、正しく理解していませんでした。無知から、思慮に欠けた投稿をしてしまい、大変申し訳ありません」と説明する。

花王では、社内のポータルサイトにLGBTQに関する基礎知識を掲載しているほか、一部の社員には多様な性について、SNS担当者にはインターネット上のマナーに関する研修をおこなっているという。

今回の投稿に、SNS上では「花王は悪くないのに、謝罪させられひどい」と擁護する投稿も見られるが、担当者は「悪いのは弊社であり、改善に向けて真摯に取り組みを進めていきます」としている。

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銀のさらは「銀のさらは、実はサンドイッチ店から始まった。#カミングアウトの日」と投稿。12日に「昨日の投稿に関しまして、ハッシュタグに関する理解に欠け、不適切な投稿となってしまいご不快な思いをさせてしまったことを心からお詫び申し上げます。社内における広報活動に置いて、配慮に欠けてしまったことを反省し、今後はこのような投稿を繰り返さぬよう再発防止に努めてまいります。大変申し訳ございませんでした」とツイートで謝罪した。

銀のさらを運営する「ライドオンエクスプレスホールディングス」にも、不適切な投稿に至った経緯や見解などについて質問をしたが、担当者は「個別回答は控えさせていただきますが、当該ツイートは削除し、お詫びの投稿をさせていただいておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」と回答。具体的な説明はなかった。 

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◆ 「カミングアウト」の重みの無化・矮小化に警鐘

性的マイノリティに関する情報を発信する『fair』代表理事の松岡宗嗣さんは、「カミングアウトという言葉について、日本では単なる秘密を明かすことや、ちょっとした打ち明け話の意味で使われることが増えています。これは、言葉の重みや歴史を矮小化、無化するものとして懸念されます」と指摘する。

「そもそも、LGBTQ当事者が自身の性自認や性的指向を隠さないといけないという状況は、社会に根強い差別や偏見が残っているからであり、その責任は多数派にあると言えます。こういった実情や問題点を適切に捉えず、さらに当事者らが現状について訴える言葉すら奪ってしまうのは問題です」と話す。

これまで多くのカミングアウトによって、LGBTQ当事者が可視化され、権利や尊厳の獲得につながってきた。一方でカミングアウトは、勇気や覚悟がいることだ。周りとの人間関係が変わったり、生活が一変してしまったりすることもある。多くの当事者の命が失われてきたという側面もある。この点、松岡さんは「そういった歴史や当事者の置かれる現状の重みをしっかりと知ってほしいです」と語る。

また、カミングアウトという言葉は特に自身のセクシュアリティを隠している状態を「クローゼットにいる」ことにたとえ、そこから出るという意味の「come out of the closet」という表現からきている。だが松岡さんは「カミングアウトという言葉は、絶対に性的マイノリティに関する文脈のみで使うべきだとは思っていません。ちょっとした打ち明け話などとして矮小化するのは問題ですが、性的マイノリティ以外の属性や立場でも、差別や偏見によって被害を受けてしまう人たちはいます。そういった方々の重みを伝える言葉として使うのはむしろ良いのではないかと考えています」と補足する。

企業がSNSなどで性的マイノリティに関する不用意な発信をし、批判が集まることはこれまでも多くあった。

松岡さんは「SNSなどで多くの批判を受けると、LGBTQなどの話題にふれない方が良いんじゃないかと思ってしまう人もいると思います。しかし、そもそも当事者がなぜ隠さなければいけないのか、その状況を作っている多数派の責任に思いを馳せてほしいです。批判されたから触れないのではなく、むしろ今回の反省を活かして、社内の雰囲気や認識を変えるための研修や啓発に取り組んだり、LGBTQの差別禁止法をはじめ、法整備を求める動きに賛同し社外に対しても発信したりするといった具体的な行動に繋げてほしいと思います」と訴える。

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Takeru Sato