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「結婚して子どもを」「女の幸せは〜」価値観の押し付けにはもう疲れた。お盆休みに帰省しないと決めた理由

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3年ぶりに、行動制限を伴わない「お盆休み」の期間を迎えた。

新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中ではあるが、新幹線は昨年や一昨年に比べて混雑し、8月11日の飛行機の予約は、全日空と日本航空合わせておよそ24万人と、感染拡大以降最も多い日に近い数になっている

久しぶりに家族や友人に会えることを嬉しく思う人がいる一方で、「実家に帰りたくない」と考える人も少なくない。

いったいなぜなのか、現状がどう変われば帰りたいと思えるのかーー。帰省したくないという2人に、それぞれ思いを聞いた。

◆「普通の幸せ」の押し付けに疲弊

北海道出身で関東在住の会社員、香織さん(29)=仮名=は、「昔ながらの女性らしさ」や、いわゆる「普通の幸せ」を押しつけられる感覚が嫌だと言い、3年間地元に帰っていない。

兄と2人きょうだいで、幼い頃から両親や親戚に「女の子なんだから、可愛らしくしてれば幸せになれるよ」と言われて育ってきた。「女の子は少しバカな方が可愛い。大学なんて行かなくて良い」とも。

その言葉を、苦手な勉強をしない自分の正当化に使っていた部分があり、今とても後悔しているという。

専門学校を卒業後、20歳で地元で就職した。実家のまわりには親戚が大勢住んでおり、会うたびに「そろそろ結婚?」「早くお父さんを安心させてあげるんだ」などと言われてきた。

当時は何の疑問も抱かず、22歳の時に中学の同級生と結婚した。だが金銭面の価値観のずれを機に喧嘩が増え、複数回の不倫をされた。

離婚をしたいと話すと、父は「男は浮気するもんなんだから、許せないのは心が狭い」と言い放った。気持ち悪く感じた。

また周囲も「浮気される方にも原因があるんじゃないの?」「不倫とかあっても、家族と一緒にいるのが一番幸せだって、最後にはわかるよ」と、関係維持を勧めてきた。

「自分が悪いのかな…」と苦しくなる時もあったが、将来を思い描けず離婚を選んだ。この間の葛藤が、それまで自分も美徳としてきた「普通の幸せ」への疑問を強くした。

実家の近所ではほとんどの人が離婚したことを知っていて、息苦しさを抱えた。会社で県外転勤の話が持ち上がった時に、即座に「行きたいです」と立候補した。

25歳で初めて実家を出た。東京での生活は衝撃の連続だった。地元にいた時は、近所の人同士が、誰がどの学校に進学して、どんな仕事をして、誰と交際、結婚しているかまで把握していた。だが東京では人口や人の出入りが多いからか、お互いに適度に無関心でいられた。

また、幼い頃から「(恋人や家族など)誰かと一緒にいるのが幸せ」という価値観を刷り込まれてきたため、不安は大きかったが、一人暮らしは楽しかった。初めてダンスやアイドルなどの「推し活」などの趣味が見つかった。

そんな中、長期休暇に地元に帰ると「再婚はまだ?」といろんな人に聞かれ、結婚前のデジャブを感じた。また、お茶汲みなどを積極的にやらないと「女なのに、そんなんだから離婚するんだ」と陰口を言われた。 「東京生活はどうか」と聞かれ、楽しいですと言うと、哀れんだような顔で「女の幸せは〜」と説かれることもあった。

「誰も、『私の』幸せなんて考えていない」と思い、プツンと糸が切れ、地元に帰ることをやめた。

離婚や一人での生活は、地元の「普通の幸せ」とは違うかもしれない。だが今、あの時の選択を心からよかったと思う。

香織さんは、地元で唯一今も仲良くしている親戚がかけてくれた言葉が、ずっと心に残っている。

「みんな香織ちゃんを悪く言うけど、私は『ここでの普通』に縛られず、やりたいことをやっていて素敵だなと思うよ。私はもう諦めちゃったけど、羨ましくもあるよ」

香織さんは「女性らしさや、結婚して家族を作ることが、世間では普通とされていると思うのですが…」と前置きした上で、こう語る。

「自分の好きなように、人生を選択できることが普通になったら良いなって思います。特に人との関わりが深い地方は、そうなっていかないと、地元を出る若い世代はどんどん増えていくんじゃないかな」

◆「会話が成り立たない」感覚

東京都内で会社員をしている裕樹さん(33)=仮名=は今回、東海地方の実家には帰省しない。

長期休暇のたびに帰ってくるように言われていたが、コロナ禍になり「感染防止のために帰らない」という理由ができて、不謹慎かもしれないがほっとしている部分があるという。

裕樹さんは思い返すと、小学生の時から同級生の男の子に目がいっていた。その頃、ゲイの人たちはテレビの中で笑いものにされていた。高校生になり、同級生の男の子に恋をして良い雰囲気になったこともあったが、地元は噂が広がりやすい。もし周囲に知られたらと想像すると怖くなり、距離を置いてしまった。

大学進学で上京したことをきっかけに、ゲイとしての自分を大切にするようになった。現在は6年交際している同性パートナーがおり、2019年に「パートナーシップ制度」を利用した。

一人っ子で、昔から「子どもを育て、実家を継いでほしい」と言われてきた裕樹さん。家庭環境について「恵まれている」と感じ、両親に感謝もしているからこそ、「2人の望みは叶えられない」と伝えなければいけないと感じるようになった。30歳になりパートナーと同棲を始めたその年、ゲイであるとカミングアウトした。

だが父親は「まだ若いから、そういう遊びにハマっているだけだ」と一蹴。2人きりにされ、「女性経験はあるのか?本当に良いものを知らないだけだ」など、性行為に関することまで立ち入られた。

裕樹さんは「まだ『気持ち悪い』とか、『出ていけ』って言われた方が楽だったのに…って思ってしまいました。家族ではありますがセクハラですし、屈辱的でした。今の僕の現状を、父のものさしでしか考えてくれないことは、寂しくもありました」と振り返る。

その後も何回か実家に帰っているが、「職場で良い女性はいないのか」「結婚はまだか?」などと聞かれる。パートナーの話をしても話を濁され、徐々にパートナーの存在が父の中でなかったことにされていく感覚がある。

「父が僕のことを全く見ていないこと、自分の理想以外を認めたくないということを嫌というほど感じさせられます」

一方で母親は裕樹さんがカミングアウトをして以来、LGBTQに関する講演やイベントなどに行っているという。

知ろうとしてくれることは嬉しい。だが妙な認識のズレも感じる。

例えば裕樹さんは「多様な性の人がいるのが当たり前」だと思っているが、母はゲイであることを「特別な、素晴らしい個性」だと解釈している。

ある日「何も恥ずべきことはないんだから、みんなに言って堂々としたら良いじゃない」と言われた。社会や職場に今もある差別や偏見の話をした上で、それはできないと伝えると、母は「それじゃあまるで、私たちの息子が、恥ずべき存在みたいじゃない」と涙を流しながら怒った。罪悪感が募った。

父と母はそれぞれ、自分とは知識や考えの溝がある。話すたびに心が疲れ、カミングアウト以来、実家がどんどん遠のいていく。

「考え方や価値観って、その人の生きた時代などによって構築されていくと思うので、お互いになかなか変わらないと思うんです。『会話が成り立たない感覚』に悩んでいる人は、セクシュアリティ問わず、僕の周りにも多くいます。どうしたら認識の溝を埋めていけるのか。僕らの世代と親世代でそれぞれ考えていく必要がある段階になっているんだと思います」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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