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仕事と家庭の両立に「これ無理じゃない?」天才研究者が、働く親のためのサービスをパナソニックで手がける理由

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7月29日、パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、働く親をサポートする会員制サービス「Yohanaメンバーシップ」の日本展開をハフポストなどの合同取で明かした。日々の献立づくりや買い物、習い事の準備など、家庭内のタスクをAIと人間のスペシャリストがアプリやPCのチャットを通じて支援する。2021年から米・シアトルで先行して展開され、2022年にはロサンゼルスにも対象を広げた。同日、日本でのウェイトリストの受付も始まった。

開発を手掛けるのはパナソニックホールディングスの執行役員で、「Yohana」を創業した、ヨーキー松岡さん。16歳で渡米、ロボット工学や人工知能の研究者として活躍し、「天才賞」と称されるマッカーサー賞も受賞。Google、Appleといったシリコンバレーの名だたる企業で製品開発に従事してきた。

自身も4人の子どもを育てる松岡さん、新型コロナ禍での自身の暮らしが「Yohana」の構想を飛躍させたのだという。話を聞いた。

「こんな会社はアメリカにもない」

2019年、Googleの副社長だった松岡さんが日本を代表するレガシー企業・パナソニックに入社したことは驚きを持って報じられた。

どうすれば人の暮らしを助けるテクノロジーを生み出せるか、考え続けてきました。ロボットの研究を通じて、機械だけで人は助けられないと気づき、GoogleやAppleではAIやソフトウェアでも十分ではないと実感させられました。人の力と、ハードウェアと、ソフトウェアを融合させ、暮らしを豊かにしたいというのは、10年、20年越しの私の思いです。じゃあ、誰とそれを実現するか? と考えていた時、パナソニックから声がかかりました

Zoom画面より インタビューに応じるヨーキー松岡さんZoom画面より インタビューに応じるヨーキー松岡さん

そして、「家電メーカー」というイメージで捉えていたパナソニックの「人に会えば会うほど惹かれていった」と松岡さんは振り返る。 

「松下幸之助さんのミュージアムにも伺って、これだ!と思いました。人々の暮らしを良くしたいと本気で願った創業者のDNAが、社内に息づいている。こんな会社はアメリカにもないと思いました。ミッションドリブンの強さで決断しました」

4人の子の母がパンデミックで経験した現実

日本の電子機器メーカーがグローバルマーケットで苦戦を強いられるようになってから久しい。そこで、パナソニックは未来への布石を打っている。

「パナソニックはものづくりが上手。私はそこに、ソフトウェアの知見やユーザーファーストの考え方を投入する。お互いの信頼関係で成り立っています。入社してから、どんなサービスをどんな形で届けるか、一緒に研究してきました」

しかし、アメリカのシリコンバレーにあるパナソニックの拠点で働き始めるも、程なくして新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われる。

共働きで4人の子の母でもある松岡さんは、学校が休校となり、自宅学習となった子どものケアと家事に追われた。その期間中は、仕事との両立のままならなさに、愕然としたという。

それまで両立のために色々と試行錯誤して組み立ててきたソリューションがコロナで一変し、もう、それどころじゃない! と。子どもたちは常に『ママー!』と私を呼んで、トイレに立とうとすると『ミーティング終わったの?』『ついて行っていい?』と、息つく間もない。でも私は、特に日本人だからか、全部自分でやらなくては、と、家庭と仕事を一緒くたにして押し潰されてしまったんですね」

世界中で実態調査を開始すると、家庭と仕事の両立の問題は多くの親たちを悩ませていることが分かった。

「これは、パンデミックで新しい問題が出てきたわけではなく、今までもあったし、今後も残るであろう問題が噴出しただけ。家庭と仕事を両立するのは大変で、この問題を解決しなくては、と大きく考え直しました」

「自分を大切に」という言葉に覚えた戸惑い

このままでは仕事を続けられない……というところまで追い込まれた松岡さんは、ビジネスコーチとのセッションで大きな発見をしたという。 

「仕事も満足にできず、家族にも親切にできず、だんだん『オニババ』みたいになってしまって(笑)。そしたらコーチが『ちゃんと自分を大切にしなさい』と言ったんです。びっくりして、最初はただでさえ時間がないのにそんな自分本位なことは絶対にできないと思いました。でも、コーチに『Meリスト』を作りなさいと言われたんです」

子どもと話すヨーキー松岡さん(右)子どもと話すヨーキー松岡さん(右)

「Me リスト」、つまり、やらねばならないことでもなく、誰かのためでもなく、自分のためにやりたいことのリストを作り、一つずつ守れるようにしていこう、というのがコーチのアドバイスだった。

「最初にリストアップしたのが一日7時間眠ること。また、4人いるので短時間にはなるけれど、子ども1人ずつと向き合う時間もリストに入れました。それは、子どものためではなく、子どもとの関係を大切にしたい自分のために、です。これを一つひとつ達成していったことで、すごく余裕ができました。自分を大切にできているからこそ、心に余裕を持って家族との時間を過ごせるし、仕事のパフォーマンスも上がるということが分かった。本当のウェルビーイングを叶え、家族やキャリアのゴールに到達するには、『自分のため』『誰かのため』の双方を満たしていく必要があるんです」

この発見を元に、米国で先行導入しているYohanaのプロダクトは現在、「To Doリスト」をケアするスペシャリストと、自分や家族の目指すウェルビーイングに向けた課題整理をサポートするガイドがチームで支援する体制になっているという。

これ無理じゃない? と諦めることも大切

パートナー間での家事分担について、アメリカは日本以上に均等に近づいていると松岡さんは実感している。また、家事をアウトソーシングするハードルも日本よりは低い。

しかし、分担しても、アウトソーシングできる環境でも、なお、子どもと向き合うには十分な時間が足りなくなるのが子育て中の生活の現実だ。

松岡さんも、たとえばハウスキーピングを依頼できるようになるまで時間がかかったという。罪悪感や、どう見られるかが気になり、最初の3ヶ月間は家を全て綺麗にしてから来てもらっていたのだという。

「でも、親に頼らず都会に出てきて、仕事を頑張って、子どもも産んで、家事もして、旅行に行って家族と楽しんで──それを自分だけでこなすなんて、日本でもアメリカでも無理。現代の家族は不可能を可能にすることを求められているんです」

「そして私も、日本人の親から『自分で洗濯もしないなんて』と言われたりしてきて、『お母さんなんだから、お父さんなんだから、やらないとダメ』というプレッシャーは、毎日感じて暮らしています。特に女性に負担が偏ることも多い。でも、子どもとの時間は残しつつ、ある程度手放していかないと、仕事と子どもを大切にできません。『これ無理じゃない?』とみんなで声に出して、手伝ってもらうことに躊躇しない空気にしたい。Yohanaがそのパートナーになれたらと思います」

アメリカで暮らし、輝かしい経歴の持ち主である松岡さんでさえも、ワーキングマザーとしてのプレッシャーからは逃れられなかったのだ。そんな経験を経て、世界共通で親たちが抱える悩みを救うため、Yohanaは誕生した。親たちをサポートし、現代の家族のウェルビーイングの実現に寄与したいと展望を語る。

家族の一部になるサービスに

これまで培ってきたロボット、ソフトウェアの知見、そして子育て中の生活者としての経験。その全てを融合させソリューションを模索するのは、松岡さんだからできたことだ。

Yohanaは2021年9月に米・シアトルでテスト運営が開始され、ユーザーから使用感をヒアリングしながら改良を続けてきた。 

「お客さまからは、『毎週8〜10時間ほど余計な時間ができた』という声や、『Yohanaが本当に家族の一部みたいになってきた』という声もよくいただきます。信頼していただけるサービスを目指して頑張っていきたいと思います」

(取材・文:清藤千秋 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko

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