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18歳・19歳『特定少年』の実名報道、「立ち直りの足かせ」と専門家。少年犯罪の厳罰化は抑止になるのか

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改正少年法が4月1日、施行された。

民法改正により新たに成人の仲間入りをする18、19歳を「特定少年」と位置づけ、20歳以上と同じく刑事裁判として扱われる対象事件を拡大。これまで禁止されてきた少年の名前や写真、住所などを報じる「推知報道」も、起訴された特定少年については可能となる。

一部の犯罪を除き、少年の非行や犯罪は、虐待やネグレクトなど不遇な家庭環境や育ち方に起因するケースも多い。厳罰化を歓迎する意見がある一方、これまで家庭裁判所や少年院が担ってきた「育て直し」の矯正教育を受ける機会が損なわれ、結果的に社会復帰が難しくなり、再犯に繋がりかねないとの指摘も多い。

特定少年への「厳罰化」により少年犯罪は抑止できるのか。厳罰化は立ち直りにどのような影響をもたらすのか。刑務所や少年院での勤務経験を持つ、龍谷大矯正・保護総合センター長の浜井浩一教授(犯罪学)に、改正による課題や少年非行の現状、立ち直りを支える地域社会の在り方を聞いた。

浜井浩一教授

実名報道一部解禁「少年ひとりひとりの人生にとって大きな足かせとなる」

少年法は「少年の健全育成」という法の目的のもと、罪を犯した少年らに刑罰を与えることではなく、少年院送致や保護処分により「立ち直り」の機会を重視する。しかし、社会を震撼させる少年の凶悪犯罪が起こるたびに厳罰化の議論が活発化し、今回も含め5度の改正がなされてきた。

ただ、今回の改正は成人年齢の引き下げに合わせた「法的整合性の意味合いが強い」と浜井教授は指摘する。

「法制審議会は少年法改正の議論を始める段階で『18、19歳の少年を含め今の少年司法は上手く機能している』と確認した上で、メンバーの一人が『(民法の成人年齢との)法的整合性は法律家にとってないがしろにできない』と発言しています。今回の改正は少年犯罪の問題を解決するために行われたのではなく、法的整合性のためだけに、要保護性の高い18、19歳が切り離されてしまったような印象を受けています

改正少年法が賛成多数で可決、成立した参院本会議=2021年5月21日午後、国会内

当初は少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げる検討もされていたが、日本弁護士連合会や元裁判官らの反対も多く、20歳未満を適用対象に置くことは維持された。その一方、18、19歳は「特定少年」と位置づけられ、17歳以下の少年とは異なる扱いを受けることになる。

その一つが「逆送」される対象事件の拡大。少年事件の場合は、警察や検察でふるいにかけられる成人事件と異なり、すべての事件が家庭裁判所に送られる「全件送致主義」が貫かれてきた。成人であれば不起訴となる事件も含め、すべての事件の原因や背景、少年の家庭環境等を調査した上で、社会の中で更生を促す「保護観察」や少年院送致といった保護処分が決定される。

その一方、殺人や傷害致死など「故意の犯罪行為で被害者を死亡させた16歳以上の少年」に限っては、大人と同じ刑事裁判を受ける「逆送」の手続きが取られる。改正法では強盗や強制性交、放火などが対象事件に追加された。

また、改正法により特定少年時に犯した罪については、起訴後に顔写真や名前、住所を明らかにする「推知報道」も解禁される。実名報道は犯罪の抑止力になるという意見もある一方、「デジタルタトゥー」として半永久的に残ることで、社会復帰後の進学や就職、人間関係に影響を与えかねない。

再犯の一番大きな原因はスティグマと孤立です。インターネット上に名前が残ることで本人の立ち直りの大きな足かせになることは間違いありません。日本では少年犯罪の絶対数が少ないため、実名報道による再犯率の増加が目視で分かることはなくとも、少年一人ひとりの人生を見れば非常に大きな悪影響を残すでしょう。そこには新たな被害者の人生も含まれます。

少年法55条(※)が適用されれば、刑事事件として起訴された後に、実名報道が禁止されている少年事件の扱いに戻る可能性もあります。メディアは少年法の趣旨を今一度考え、事件ごとに実名報道をするか否かの判断をするべきです」

※裁判所は、審理の結果、少年の被告人を保護処分が妥当と判断した場合に、事件を家庭裁判所に送致しなければならないと決められている。

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十分な保護処分を受けられず「孤立」する可能性も

内閣府が2015年にまとめた「少年非行に関する調査」では、無作為に選ばれた調査対象の人々の8割近くが「少年非行は増えている」と答えたが、実際には減少の一途を辿っている。少年の検挙人員は一昨年も戦後最少を更新し、少年の人口比で見ても減少傾向にある。

その一方、特定少年となった18、19歳は知的障害や発達障害など発達上の問題を抱えた子が多いと浜井教授は指摘する。

「少年院に入ってくる新規少年のうち、半数以上を18、19歳の年長少年が占めています。なおかつ年長少年は、特別支援学級にあたる『支援教育課程』に当てはまる子が多い。健全育成の観点からすると手をかける必要のある子たちですが、刑罰の対象になってしまうと、少なくともこれまで少年院で受けられた教育を施すことはできません。刑務所の構造上、発達上の問題を抱えているひとりひとりに手をかけるのは難しいでしょう。

また、少年犯罪は『幼稚化』の傾向が進んでいます。かつての非行少年たちはよくも悪くも、不良グループの縦社会の中で社会性やコミュニケーション能力を身につけてきました。しかし、最近の非行少年は引きこもり気質で、対人能力に乏しい子が多い印象です。そういう少年たちが刑罰の対象となり、十分な保護処分を受けられなければ、さらに孤立してしまう可能性があります」

少年の保護観察期間や少年院入院期間は、生育歴や性格、家庭環境などを踏まえて決定され、更生や成長の度合いに応じて延長されたり、あるいは短縮されたりと柔軟な運用がなされてきた。

改正法では、特定少年については少年審判時に、保護観察は6カ月か2年、少年院送致は3年の範囲内で、期間が明示される。少年の改善状況に応じて柔軟に期間を変更することができず、仮にその期間で改善や更生が見込めなかったとしても、社会に放り出されてしまう可能性をはらむ。

イメージ写真

18、19歳の少年少女を「虞犯」の対象外に

また、18、19歳の特定少年は、罪を犯す恐れがある「虞犯(ぐはん)少年」から対象外となる。虞犯は犯罪に至る手前で、更生に向けた教育や保護を施し、場合によっては少年院送致となることもある。虞犯少年の中には虐待などによって家出を繰り返し、JKビジネスや性風俗業で働く少女も少なからずいる。18、19歳が対象外となることで、いわば“セーフティーネット”から外れてしまう恐れもある。

「18、19歳のAV出演強要が問題視されている流れの中に、風俗や性産業で働いてしまう少女たちもいます。虐待を受けている少女たちは自己防御能力が非常に弱く、自分を大切にされた経験がないため、甘い言葉で唆されれば危険な領域に一歩踏み出してしまう。18、19歳が虞犯少年の対象外となることで、彼女たちが危険にさらされるリスクがさらに高まってしまうのではないでしょうか」

18、19歳を「特定少年」とし、従来の手厚い保護下から外すことは、大人になる自覚を促す半面、彼ら彼女らを不安定な立場にも置きかねない。矯正・刑事施設でのプログラムの充実や民間支援など、継続した教育、サポートは欠かせない。

少年犯罪「もし加害少年が自分の家族や友人だったら」

1997年の「神戸連続児童殺傷事件」や2004年の「長崎佐世保・小6女児同級生殺害事件」など、少年による凶悪事件が起こるたびに、少年法は厳罰化が進められてきた。今回の改正を巡っても、少年犯罪の被害者団体からは「厳罰化が少年犯罪の抑止力になる」と前向きに受け止める声が上がった。

厳罰化によって少年犯罪は抑えられるのか。浜井教授は「少年犯罪の減少は厳罰化に起因するものではない」と指摘する。どういうことか。

日本の少年非行が諸外国と比較して少ないのは、非行のピークが14歳前後と非行が早期に収束するからです。そして、そこには少年法の全件送致主義によって非行が芽のうちに摘み取られているからです。その上で、少年犯罪が減っているのは、非行文化の衰退が大きな理由だと考えられます。

かつての非行少年は不良グループに入り、タバコやシンナー、薬物を覚え、犯罪の手口を身につけてきました。不良グループは『犯罪非行学校』であるとともに、家庭や学校で身の置き場のない少年たちの『居場所』でもあったのです。しかし、スマートフォンの登場により、非行集団はその役割を終え、飲酒や薬物、シンナーといった非行事案が減っていきました。

少年たちが抱える問題のアクティングアウト(顕在化)は非行であり、かつては少年法によって早期に介入できました。しかし、少年たちの“たまり場”がスマホの画面の中に移り、家庭で抱える問題はなおさら見えにくくなっています」

現実として少年犯罪は減少しているものの、少年による凶悪事件が起こるたびに、社会の懲罰感情は高まっていく。

被害者側は事件の直接的な影響だけでなく、メディアの取材攻勢にさらされることもある。被害者側の情報はメディアの判断で報じられているのに、加害者が少年の場合、少年法によって本人と結びつく報道がされないことに批判的な声もある。

こうした被害者側の影響などを踏まえて、少年の更生保護のあり方に否定的な見方もある。

社会は少年の更生保護をどのように捉えるべきなのか。浜井教授はイタリアやノルウェーでの事例を挙げ「罪を犯した少年たちはいずれ社会に戻ってくるもの。どんな人間として戻ってきてほしいのかを考えていかなければならない」と言う。

「日本の再犯率が高い理由は、“刑務所帰り”の人たちへのスティグマが非常に大きいことも一因です。一度過ちを犯したら、警察や少年院、刑務所に行っておしまいとの意識が強く、死刑や無期懲役でない限り、その先にも社会での人生が続いていくとの視点が欠けています。

イタリアやノルウェーでは罪を犯した人々の社会復帰を社会全体で支えています。例えばイタリアの刑務所では、毎日200人以上のボランティアが足を運び、複数の民間企業が就労プログラムを提供し、一部の受刑者は外部に通勤しています。ノルウェーでは保育園児が遠足で訪れるほど、刑務所と社会の距離が近い。どんな市民になって戻ってきてほしいのか、そのためにはどんなプログラムやサポートが必要なのかを、主体的に考えることが社会の寛容性に繋がっているのです。

日本では少年非行が身近で顕在化しなくなっており、自分たちの問題として考えにくくなっています。少年法改正により仮に再犯率が高まったとしても、少年犯罪の絶対数が減少しているため、社会に対する影響はさほど大きくないかもしれません。しかし、ひとりひとりの非行少年にとってはその後の人生を大きく揺るがしかねません。加害少年がもし自分の身内や知り合いだったらどうすれば防げたのか、どんなケアができるのか。“自分ごと”として考えてもらいたいです」

浜井浩一教授

〈プロフィール〉

浜井浩一(はまい・こういち)氏

1984年に法務省に入り、刑務所や少年院、少年鑑別所などの矯正施設で勤務。2003年から龍谷大教授となり、19年から同大矯正・保護総合センターのセンター長を務める。日本犯罪社会学会会長。主な著書に『罪を犯した人を排除しないイタリアの挑戦』(現代人文社・2013年)、『エビデンスから考える現代の「罪と罰」犯罪学入門』(現代人文社・2021年)など多数。

(執筆・取材:荘司結有、編集:濵田理央

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