メジャーリーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手。2021年はこの人の1年だったと言っても過言ではない。
政府からの国民栄誉賞の打診を「まだ早い」として辞退したが、2021年シーズンはこれまでの常識を覆す数々の金字塔を打ち立て、アメリカン・リーグのシーズンMVPに輝くなど、称賛されるにふさわしい活躍を私たちに見せてくれた。
“投打の二刀流”で臨んだ今シーズン、ハフポスト日本版編集部が伝えてきた中から、もう一度見たい印象に残ったシーンの一部を時系列で振り返る。
シーズン序盤。4月27日(日本時間)、敵地でのテキサス・レンジャーズ戦に投打の二刀流で出場した大谷選手。この試合、投げては5回を9奪三振4失点で1072日ぶりの勝利、打っては2安打2打点と活躍しチームを勝利に導いた。
この時点でホームラン7本を放ち、リーグトップタイだった大谷選手。「ホームラン数トップの選手が先発投手として試合に登板」するのは、ベーブ・ルース以来100年ぶりで、その点でも注目された試合だった。
だがこの日、多くの野球ファンの心を捉えたのは、ホームランでもピッチングでもなく「意外なシーン」だった。
6回表に回ってきた打席。その初球、大谷選手は極端な守備体系をとっていた相手の裏をつき、3塁側へセーフティーバント。これが内野安打となり出塁した。
これには実況アナウンサーも驚きを隠せないと言わんばかりの興奮し、Twitterでは「セーフティーバント」がトレンド入り。「何でも出来すぎる」「もはや1人で野球をやっている」「やりたい放題」と声が寄せられるなど話題となった。
5月12日のヒューストン・アストロズ戦では大谷選手が「実質三刀流」だと話題になった。
この日、「2番・投手」として先発出場した大谷選手。 シーズンで3度目となる投打の二刀流での出場で、投げては今季最長となる7回を4安打1失点10奪三振と好投。しかしその後ファンが注目したのは、降板後の起用法だった。
なんと、8回からはそのままライトの守備についたのだ。
FOXスポーツは公式Twitterで守備につく大谷の動画を投稿し、「アメイジングだ。今夜88球を投げた後に、大谷は外野手として試合に出続けています」とつづった。
実況を担当するアナウンサーも、もはや笑うしかない。日本のメディアも「大谷翔平 三刀流!」などの見出しで大谷選手の活躍を紹介。
Twitterでは「投げて打って、降板して守備。これ実質三刀流じゃん」「相変わらずマンガみたいな活躍」「三刀流とか、まるでワンピースのロロノア・ゾロじゃん」などと様々な声があがった。
選手としての能力の高さを見せつけた試合となったが、思えばこれは、その後の大活躍の序章に過ぎなかった。
大谷選手の2021年シーズンの最終成績を振り返ると、投手としては9勝2敗、防御率3.18、156奪三振。一方、打者としては打率2割5分7厘、リーグ3位の46本塁打、100打点、26盗塁だった。
シーズン終盤までアメリカン・リーグの本塁打王のタイトル争いをしていた大谷選手。惜しくもタイトル獲得は逃したが、6月の大活躍を振り返らずにはいられない。
本塁打数を「月別」で見ると、4月が7本、5月が8本だったのに対し、6月は13本と二桁に乗せていた。
試合毎に見ていくと、6月は3試合連続ホームランが2度あり、また1試合に2本放った日も2度あった。6月の安打数25のうち、本塁打の割合は52%だった。
「2本のヒットのうち1本はホームラン」という恐ろしいペースで量産体制に入り、文句なしの成績で6月の月間MVPに選ばれた。
特に印象的な試合がある。6月17日、敵地で行われたオークランド・アスレチックス戦に「2番・DH」で出場した大谷選手は第2打席で19号ホームランを放った。
実は前日の試合でも飛距離131メートルの特大ホームランを放ったばかりで、連日の一発はファンはもちろん、チームや中継を担当する放送局をも驚がくさせた。
エンゼルスは公式Twitterで「確信を持って言える。私たちは昨日の大谷のホームランの映像をコピーアンドペーストしているわけじゃない」と投稿。この“独特の表現”が話題となった。
試合の中継を担当する放送局「バリー・スポーツ・ウェスト」はTwitterで「HE DID IT(AGAIN)彼はまたやりました」と連日のホームランを伝えていた。
7月、初めて臨んだ「MLBオールスターゲーム」でも大谷選手は歴史を変えた。“投打の二刀流”で選出されたのは大谷選手がMLB史上初だった。
試合当日は“特別ルール”でアメリカン・リーグの「1番・DH」で先発出場。初回に打席に立った後、その裏の守備では先発投手としてマウンドに上がり登板を果たした。
ファンが期待した“球宴での一発”こそ生まれなかったが、ナショナル・リーグ先発のマックス・シャーザー投手(当時ロサンゼルス・ドジャース)との投げ合いに熱視線が送られた。
また、共にMLBオールスターゲームに初選出されたシアトル・マリナーズの菊池雄星投手(試合の出場は辞退)とのツーショットは日本から多くの祝福が寄せられた。
前日に行われるホームランダービーにも日本人選手として初めて参加。度重なる延長戦にもつれ込むなど、ファンを魅了した。
ホームラン競争では競技の休憩中に“ある大物”から電話が入ったエピソードも話題となった。
シーズン後半。ファンは日本人初となる本塁打王のタイトルとベーブ・ルース以来となる「打者として二桁本塁打、投手として二桁勝利」の達成に期待した。
7月8日、ボストン・レッドソックス戦では32号となる本塁打を放ち、2004年に元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんが記録した日本人選手としてのシーズン最多の31本塁打を塗り替えた。
松井さんは大谷選手を「彼こそが真の長距離打者だと感じます」「唯一無二の存在」とコメントで称えた。
シーズン終盤、プレーオフ進出をかけた戦いが熾烈になると、対戦相手は大谷選手との勝負を避け、敬遠策をとることが増えた。
9月25日のマリナーズ戦では2度の申告敬遠を含む4四球。「3試合で11の四球」はアメリカン・リーグ新記録となった。
その影響もあってか最終盤ではややペースを落とし、わずか2本の差でアメリカン・リーグ本塁打王のタイトルをゲレーロJr.選手とペレス選手に譲った。一方、投手としては10勝まで勝ち星あと1つのところで届かなかった。
チームはリーグ5位に終わり、プレーオフに進むことなく大谷選手の2021年シーズンは幕を閉じた。
シーズン終了後は大谷選手に関連した「リアル二刀流・ショータイム」という言葉が「ユーキャンの年間新語・流行語大賞2021」で年間大賞を受賞。毎年恒例の「今年の漢字」では、6位に大谷翔平の「翔」がランクインした。
11月19日、大谷選手はアメリカン・リーグのシーズンMVPの「満票」で獲得した。
発表に先立って行われた記者会見で「チームの勝ちもついてこない、ポストシーズンの戦いも見えてこない中で、精神的にきつい場面は後半の方が多かった。落ち込むことも含めて、いい1年だったなと個人的には思う」とシーズンを振り返った。
記者会見では印象に残る回答がいくつもあった。
「『一番の選手になりたい』といつも言っているが、MVPを受賞したことで目標を達成できたと思うか」との質問には、大谷選手はこのように答えている。
「なってはないですね。自分でそう思う日はおそらく来ないと思うので。目標としてはアバウトというか、そういう目標ですけど、ゴールがない分、常に頑張れるんじゃないかなとは思うので。確実にステップアップはしたと思ってますし、今回の賞(シーズンMVP)がその1つだと思うので、今後のモチベーションの1つになりました」
2021年は疑うことなく、“大谷翔平の1年”だった。
だが、大谷選手にとっては、数々の常識を覆した2021年の活躍も1つの通過点に過ぎない。日々の活躍に胸が躍ったが、大谷選手は今シーズンを特別なものと思っていない。さらに進化させようとしている。
「SHOTIME」は2022年シーズンに続いていく。
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大谷翔平選手の2021年をプレイバック。歴史的なシーズンの「名場面」を振り返る【印象に残ったシーン編】