“曲がる”太陽電池「ペロブスカイト」とは?実用化はいつ?プールや窓で発電できる?積水化学が語る“可能性”

気候変動対策が喫緊の課題となり、日本政府も2040年度の再生可能エネルギー比率を4〜5割まで引き上げ、最大の電源にするという計画の素案が発表された。中でも政府が切り札の一つとして名前をあげているのが「ペロブスカイト太陽電池」だ。

政府も技術開発を後押しするこの次世代型の太陽電池は、どのようなもので、未来のエネルギーをどう変えていくのだろうか。開発で先行する積水化学工業(以下、積水化学)のPVプロジェクト ヘッド・森田健晴さんに、開発の背景や現状の課題、そして描く未来像を聞いた。

薄くて曲がる「ペロブスカイト」の可能性

太陽電池と聞いて、黒い大きなパネルが広い土地や屋根にずらりと並べてある光景――つまり「シリコン系太陽電池」を思い浮かべる人は多いだろう。

シリコン系は耐久性に優れ、発電効率が高いという特徴があり、現在最も普及している太陽電池だ。しかし、重くて硬いという性質から、都市部の高層ビルや局面を持つ建造物、モバイルデバイスなどへの応用が難しい。つまり、設置できる場所が限られており、新たな太陽電池を設置できる場所が少なくなっているのが懸念材料だった。

この課題に対し、大きな期待が寄せられているのが「ペロブスカイト太陽電池」だ。

ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」という結晶構造を持つ材料を用いた次世代太陽電池。シリコン系太陽電池と比べて、重さは10分の1程度と軽く、厚みは約1ミリと薄く、曲げることができるのが特徴だ。この特徴により、ビルの壁面といった垂直面や耐荷重の小さい屋根など、さまざまな場所に設置できる。また、主原料であるヨウ素を日本国内で安定調達できるという利点もある。

積水化学は長年培ってきた「封止」(※1)、「成膜」(※2)、「材料」、「プロセス技術」といった独自の技術を活かし、「フィルム型」ペロブスカイト太陽電池を開発している。(※1 外部環境から保護する技術、※2 薄い膜を作る技術)

積水化学が独自に開発したロール・ツー・ロール方式(※)によるペロブスカイト太陽電池の製造風景(※長いロール状の基材に連続的に製膜していく生産方式)

ペロブスカイト太陽電池を、電力の消費量が多いデータセンターやオフィスビルの外壁に設置することで、「電力の地産地消」の実現につながる。また、モバイルデバイスやIoT機器に組み込めば、移動中や屋外でも発電しながら使用できるようになり、電源の制約から解放される可能性が高まる。

さらに、軽量でフレキシブルな特性は、これまで太陽光発電の導入が難しかった農業分野、例えば農地の上に設置するソーラーシェアリングなど、新たな市場の開拓にもつながるという。

PVプロジェクト ヘッドの森田健晴さん

再エネ社会実現の“切り札”

日本政府はエネルギー基本計画において、2030年までに再生可能エネルギーを総発電量の36〜38%に引き上げる目標を掲げており、太陽光発電の導入拡大を重要な柱の一つとしている。

しかし、島国で平地が少ない日本は、太陽光発電に適した土地が少ないと言われてきた。近年、太陽光パネルを設置するために森林を過度に伐採することで、住民が再エネ事業者とトラブルになる事例も目立つ。2023年度の再エネ実績は22.9%にとどまっており、この飛躍的な目標を達成するためには、革新的な技術の導入が不可欠だった。

森田さんは、「私たちの開発しているペロブスカイト太陽電池は、まさにこうした政府の政策と深く連動しています。特に、自治体や公共事業における活用が進めば、カーボンニュートラル社会の実現に向けた大きな推進力となるでしょう」と話す。

経済産業省は、ペロブスカイト太陽電池を“切り札”と位置づけ、設置費用の補助などで発電事業者のコストを削減し、2040年に約20ギガワットを賄う目標を検討している。これは原発20基分に相当するもの。12月17日、これらを盛り込んだ新たなエネルギー基本計画の素案を公表した。

積水化学は、政府の支援を受けながら、様々な実証実験を積極的に展開している。2023年4月には、NTTデータと共同で、すでにある建物外壁にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置する実証実験を開始した。これは垂直面における発電効率と設置方法の確立を目的とし、都心部の既存建物への導入による脱炭素化への貢献を目指している。

ペロブスカイト太陽電池の開発拠点は大阪府三島郡にある開発研究所。写真は開発研究所に隣接する水無瀬イノベーションセンター(通称MIC)

また、2024年4月には、エム・エム ブリッジ、恒栄電設と共同で、ペロブスカイト太陽電池をプール上に設置するための実証実験を実施。東京都北区の閉校となった学校プールに浮体式のペロブスカイト太陽電池を設置し、「湿気や水分に弱い」というこれまでの弱点を逆手に取った試みも行っている。

さらに、2025年に開催される大阪万博では、万博会場のタクシーやバスの乗り降りを行う交通ターミナルにペロブスカイト太陽電池を設置。全長250メートルで、発電した電力は、交通ターミナルの夜間の照明に活用されるという。

森田さんは、大阪万博での実証を事業化にむけた貴重な機会と捉えており、今後はグローバル市場への展開も視野に入れている。

世界初、高層ビルにフィルム型ペロブスカイト太陽電池を導入

積水化学は2023年11月、東京都千代田区に建設予定の高層ビル「サウスタワー」に、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を導入することを発表した。これは、「フィルム型ペロブスカイト太陽電池によるメガソーラー発電機能を実装した世界初の高層ビル」となる画期的なプロジェクトだ。

「高層ビルへの展開は、これまで設置場所の制約が大きかった都市部における再生可能エネルギー導入の可能性を飛躍的に拡大します。サウスタワーでの実績を基盤として、今後は日本全国、将来的には海外市場への展開も積極的に進めていきたいと考えています」(森田さん)

高層ビルへの導入が成功すれば、都市部のエネルギー自給率向上に大きく貢献するだけでなく、都市景観にも変化をもたらすだろう。同様の新築高層ビルでも、ペロブスカイト太陽電池の設置が広がっていくことも期待される。

大阪本社にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置している

実用化にむけた課題は?

革新的な技術であるフィルム型ペロブスカイト太陽電池だが、量産化技術の確立やコスト削減、設置工法の効率化など実用化に向けてはいくつかの課題も残されてる。

「現在は30センチ幅での製造プロセスを確立しており、1メートル幅での製造プロセスの確立へ向け開発を進めています。確立すれば、大量生産が可能となり、コストの削減が期待できます。」(森田さん)

また、政府の支援はあるものの、ペロブスカイト太陽電池市場は世界的な競争が激化している。特に中国企業が積極的に参入しており、技術力に加え、コスト競争力も重要だ。

「積水化学は液晶ディスプレイ用封止材や自動車用中間膜製品で世界トップシェアを誇る技術を持っています。これらの分野で培ってきた高度な封止技術や薄膜形成技術を活かすことで、他社には容易に真似できない高品質な製品を提供できると確信しています」(森田さん)

同社は、他社に先行してペロブスカイト太陽電池の耐久性について「10年相当」を実現したと公表しており、2025年までには20年相当の耐久性を実現する方針を固めている。28年度ごろには、実用規模の最初のプラントの運転開始を目指しているという。

(取材・執筆:橋本岬、編集:荘司結有)

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