年末年始の帰省は、実家を片づける好機。親が健在なうちに片づけを進めておくことで、将来的に在宅で介護を受けやすくなり、財産管理や遺品整理の負担も軽くなります。しかし「自宅の片づけ」と「実家の片づけ」はまったくの別物。実家に住む親の意向を尊重しなければならず、口論やトラブルになることも少なくありません。
実家の片づけをスムーズに進めるために、どのように切り出すのがよいのでしょう?また、限られた時間の中で効率よく進めるコツとは?「『介護』『看取り』『相続』の不安が消える!実家片づけ」(ダイヤモンド社)の著者である、片づけアドバイザーの石阪京子さんに聞きました。
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片づけられない親への“NGワード”がこれだ。“実家片づけのプロ”が教えるケンカにならない「説得方法」
――近年、「実家を片づけたい」という相談が急増しているそうですね。なぜ親が健在のうちに実家を整理しておくべきなのでしょう?
相談が増えている背景としては、健康寿命が延びたことにより、50〜60代の現役世代が自分の「仕事」と親の「介護」を兼ねるようになったという事情が大きいと思っています。「親が怪我をしてしまい、ヘルパーを利用したいけれど、実家が散らかっていてどこに何があるかわからない」「実家を売却して介護費用に充てようと思っていたら、親が認知症になり財産が把握できなくなった」などの相談も目立ちます。
親が元気なうちに実家を片づける大きな意義としては、やはり財産を把握しておくことではないでしょうか。もし親が倒れた場合、子どもが病院や施設を段取りすることになりますが、財産を把握していなければ自分たちで立て替えなければいけないこともあるでしょう。
一番大変なのは、片づけを後回しにしているうちに、親が亡くなってしまうこと。死後10カ月以内に相続税の手続きをしなければならないため、子育てや仕事で忙しくても、実家を片づけるためだけに通わなければなりません。つまり、実家片づけを先延ばしにしていると、最終的に「時間」や「お金」という負債がのしかかってしまうのです。
――年末年始の帰省は実家の片づけを始める好機です。どのように切り出すのがよいでしょうか?
最近は、悪質な不用品回収業者による詐欺も増えていますよね。一人暮らしの高齢者で、なおかつ散らかっている家はターゲットにもなりやすいですし、そうした被害に遭わないために「今のうちから必要なものを整理しておかない?」と切り出してみたら、危機感を持って向き合ってもらえるのではないでしょうか。
また、「友だちが実家を片づけたいのに、親が言うことを聞いてくれないんだって」などと遠回しに伝えてみるのも一つの手です。嘘も方便ですが……(笑)、他人のこととして話すと、自分を客観視して「私はそうじゃないよ」となるケースも多いようです。
――帰省する前に連絡しておくのか、それとも帰省中に直接切り出すのか、どのタイミングがよいのでしょう?
帰省する前から、こまめに“ジャブ”を打っておくことはとても大切です。例えば、電話やメールで「友人の家でこういうことがあったんだって」と実家の片づけに関する話を色々と入れておき、「帰省したときに台所を片づけたいから見てくれない?」などと伝えておく。親にも心の準備が必要ですし、私が実家を片づける際に失敗したのはまさにそこでした。
実家片づけで一番だめなのは「こんなん捨てて!要らんやん」と頭ごなしに怒ってしまうこと。自分が「汚い」と思うから片づけるのではなく、親が安全に暮らせるようにしてあげたいという「親を思う気持ち」から伝えるようにしましょう。
――著書では「モノ」と「紙」の片づけの両方を終えることを「実家片づけのゴール」とし、その実践的な取り組み方について解説しています。双方の片づけのポイントを簡単に教えていただけますか?
まず「モノ」の片づけは、安全に暮らすためのモノ、今使うモノだけを残すことがポイントです。もし自分が住んでいた頃に使っていた部屋があれば、まず最初にそこに残していたものを出して、「仕分け置き場」を確保しましょう。捨てるかどうか迷うものはいったんそこに運んで、キッチンなどは今使っているものだけにしてあげる。仕分け置き場に運んだものは、帰省のタイミングなどを使って順に手放していくのがおすすめです。
そして「紙」の片づけは、生命保険の証書や通帳など財産に関わる「金目の紙」、マイナンバーカードやパスポートなど「使う目的のある紙」の二つに分けて、それ以外の紙を処分することが大切です。
――年末年始の帰省など、限られた日数の中で効率よく進めるためのコツはありますか?
一番最初に「どういうゴールを目指すか」を親に説明しておくことをおすすめします。例えば、「将来に備えて両親の寝室を二階から一階に移動させたい」のなら、簡単な間取り図を書いて見せてあげましょう。そうすることで、今後どの家具を処分したほうがよいか、どこに動かしたほうがいいか、などの想像もつきやすくなるでしょう。
また、片づけをスムーズに進めるためには、「頭」と「体」を分けて動かすことが大事。つまり親は動かずに座っていてもらい、それに対して子どもは「これ捨てていい?」とモノを持っていって確認したり、家具を移動させたりする。親は頭だけ使ってもらい、身体は疲れないようにするのも大きなポイントです。
――石阪先生も“片づけのプロ”でありながら、実家の片づけにはかなり苦労されたと明かされています。印象に残っていること、「やってよかったな」と思えた瞬間について教えていただけますか?
私の場合、母が転倒したのを機に「車椅子で安全に生活できるスペースをつくりたい」と“実家片づけ”を始めました。母は片づけ上手で捨てられる人だったのですが、父はものがない時代に生まれた人なのでまな板一枚でも捨てられなくて……。
木のまな板でほとんどカビていたので「これいらんやろ?」と聞いたら、「その板をベッドの下にかましといたら、ルンバがうまいこと通れるんや!」と言うんです(笑)。一つひとつのモノに対して、口論になってなかなか進まない……ということがたくさんありました。
父とそんなバトルを繰り返しながら、なんとか食器棚ひとつを片づけて、キッチンに広いスペースを作りました。すると、父がキッチンに立ち、母が隣で料理の仕方を教えていたんですよね。その後、母は亡くなりましたが、父は母の味を再現できるようになり、今でも自分で料理をして生活しています。そんな姿を見ると、「やってよかったな」と思いますね。
――今も実家片づけは緩やかに続けているそうですね。はじめは片づけを拒んでいたお父様の理解もだいぶ進んだのでしょうか?
かなりよくなりましたが、頑固な性格は変わらないですね(笑)。親世代は「これいらないでしょ?捨てたほうがいいよ」と言ってもすぐには反応してくれません。うちの父だけなのかな?と思っていたところ、多くの方々が親に対して同じ悩みを抱えているようです。
先週は「捨てない」と言っていたものが、次に帰ったときにはなかったり……じゃあ最初から捨てたらいいのに!と思いますが、親も確実に老いているので、そうした判断も遅くなるのだなと思います。父と緩やかに片づけをするようになり、それも「愛おしく思おう」と考えたら気が楽になりました。
――こちらの土俵に持ち込むのではなく、親に寄り添いながら進めていくのもコツなのですね。実家片づけは、親との関係を再構築するという側面もあるのかなと感じました。
そうなんですよね。いったん親と離れて暮らして、そのままの距離感で終わるのかと思いきや、やはり最後に向き合わなきゃいけないのは「親」なのだと思います。
中には「親と喧嘩できない」という方もいらっしゃいますが、言わずに無関心でいるよりはちゃんと言葉で伝えることも大切です。実家の片づけは、親が最期まで安心して過ごせるようにするためのものでもあるので、遠慮せずに意見することも必要です。
モノに囲まれて窮屈なところで暮らすより、すっきりしたお部屋で「まだまだやりたいことができる!」「この家で長く過ごしていきたい」と思ってもらえるような家にするためにも、年末年始はポジティブな話し合いをしてもらえればいいなと思います。
【PROFILE】石阪 京子さん
片づけアドバイザー。宅地建物取引士、JADPメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー、大阪で夫と不動産会社を起業、夢のマイホームを手に入れても片づかないことで理想の暮らしができないと諦めている多くの人に出会い、家の片づけを提案。独自のメソッドは、一度やれば絶対にリバウンドしないのが特徴で、直接指導した人は1500人を超える。ブログ「片づけの向こう側」でも発信中。
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