写真を通じたロヒンギャ支援。子どもたちがレンズ越しに見つめる世界とは【イベントレポート】

世界人口の69人に1人が避難を強いられているとも言われている中、日本で2023年に難民認定された人は303人にとどまっている。

また、狭き門を通過して日本での生活が始まったとしても、言語や文化の違い、経済的な事情などによって社会との接点を増やしたり、視野を広げたりする経験が限られてしまうことも多い。

支援金を寄付したり、衣食住を整えるための活動に参加したり、教育制度の見直しをしたり、難民支援の方法は様々だ。

そうした中、ユニクロは11月30日、国際的写真家集団「マグナムフォト」の協力のもと、日本に住むロヒンギャの子どもたちを対象にしたワークショップを、東京都渋谷区の国際連合大学で開催。

講師にはマグナムフォト会員写真家のラファウ・ミラハさんを迎え、群馬県館林市在住のロヒンギャの親子約70人が参加した。同じ市内に住んでいても、交流の場や機会が十分でないという参加者同士を「写真」を通じて繋ぐという。

写真を使った、子どもたちの自己表現の体験を追った。

ユニクロの難民支援プロジェクト「PEACE FOR ALL」とは?

PEACE FOR ALL

イベントは、同社が2022年に開始したチャリティーTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」の一環として開催された。

プロジェクトに賛同した著名人がボランティアでデザインしたTシャツを販売するというもので、売り上げの20%がUNHCR、セーブ・ザ・チルドレン、プラン・インターナショナルの3団体に寄付される。

寄付金は貧困、差別、暴力、紛争などによって影響を受けた、または受けている人々に対して人道的支援活動をする資金などに資金などに充てられている。これまでに42組の著名人が参加し、2024年8月末時点で16億6800万円以上の寄付を達成している。

今年9月には、ユニクロの支援活動の現場を写真に収めた「服のチカラ」と「写真のチカラ」の融合による写真展「GLOBAL PHOTO EXHIBITION」を世界10カ国以上で開催した。

「写真」という共通言語でつながる

ワークショップの内容はとてもシンプルだ。

参加者の子どもたちは4つのテーブルに分かれて着席し、それぞれのグループに大きな白紙2枚、色鉛筆、ノリ、ハサミ、そして動物や風景画、インテリアや食器などのマグナムのアーカイブ写真が配布された。各テーブル内でさらに2つの班に分かれ、配られたアイテムをコラージュして、班ごとに「理想のお家」を作るという。

ミラハさんは「切り貼りしたり、描き足したり、どんな方法でも良いよ。楽しそうな方法をどんどん試してね」とルールを説明し、それぞれのテーブルの様子を見て回った。

初めはシャイな表情を浮かべていた子どもたちだが、ミラハさんの「今日は日本語と英語とロヒンギャ語など、色々な言語を話す人たちがいるけど、写真はみんなの共通言語だから自由に表現していこう」という応援の声も背中を押し、徐々に子どもたちの創作作業が熱を帯びてくる。

ワークショップの様子

「この写真も使いたい!」「これ見て!」とミラハさんやボランティアの学生スタッフ、近くで見守る保護者に声をかける活発な声が聞こえたと思えば、その隣では黙々と制作に向き合う子どもたちもいる。子どもたちは早くも共通言語の“話し方”を覚えはじめ、その様子を見た大人たちが微笑みあっている場面もあった。

作業も中盤に差し掛かった頃、ミラハさんが子どもたちにポラロイド写真の撮り方をレクチャーした。「同じ班の友達の突拍子もなくて面白い写真を撮ってね。撮った写真は作品に取り入れてみよう」とカメラを渡すと、子どもたちはそれぞれに違った反応を見せながら、レンズ越しに世界をのぞいていた。

カメラについて説明するミラハさん

最後に完成した作品を会場の前に並べて掲示し、子どもたちが自分の得意な言語で作品について説明した。「面白くてみんな笑ってるお家」「自然を大切にしようというメッセージを込めたお家」などの作品に拍手が贈られたかと思えば、「これ家で飼ってる鶏が醤油を取り合ってるんだ」などの子どもらしく独創的なストーリーを詰め込んだ作品に、温かい笑い声が上がる場面もあった。

発表後に作品を眺めて歩いていると、参加者の子どもがやって来て「これは僕が作ったんです」と細部まで楽しそうに説明してくれた。日本語に時折ロヒンギャ語を混ぜた説明は、非ロヒンギャ語話者の筆者にはわからない部分もあったが、彼が作品作りを楽しみ、自分の作品を誇りに思っているのは明らかで、ミラハさんの話す「写真」という言語の意味が少しわかった気がした。

作品について尋ねるミラハさん

イベントを振り返り、ミラハさんは「まさかこんなに素敵な展覧会になるとは思いませんでした」と子どもたちの作品を称賛。

さらに「写真と聞くとスマホで見る画像を思い浮かべる人も多い時代です。しかしスワイプしてすぐに流れてしまう画像とは違って、写真はじっくりと時間をかけて眺めたり、触れて感じたりすることができます。写真に限らず、どうか末長く、皆さんのクリエイティビティを生かし続けてください。話す言語は違っても、芸術を通して私たちは心を通わすことができます」とエールを送り、イベントを締め括った。

写真撮影体験をする子どもたち

一口に「難民」と言っても、そこには異なる文化や言語、宗教や文化を背景に持った多様な「個人」がいる。「ロヒンギャ」と括られる人の中でも、教育や暮らしのバックグラウンドの違いによって得意な言語が異なる場合もある。

同じルーツを持ち、それによって社会的に似た立場にいる人たちを繋ぐことも、一つの支援の形と言えるだろう。子どもたちがレンズ越しに見る世界が、広大で色鮮やかであり続けるために、社会や私たち一人ひとりにできることがまだまだありそうだ。

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