カメラを失っても「人間の経験に光を当てる」。パレスチナ人の写真家が映し出すガザの今

東京藝術大学で開催されているアメル・ナーセルさんの写真展

サンダルを履いて瓦礫の上に立ち、猫を抱きしめる子ども。フロントガラスが粉々に割れた車の運転席。黒く焦げ、原型をとどめないほどに崩れた建物の間を歩く人々━。

パレスチナ自治区ガザ地区の映像作家で写真家のアメル・ナーセルさんの日本初となる写真展「GAZA. Signal of Life」が、東京藝術大学(東京)で開かれている。爆撃で家や町が破壊される中、ガザで生きる人たちの今を伝えている。

ナーセルさんは1991年生まれのパレスチナ人。パレスチナ難民をテーマとする映画などを制作してきた。写真展では、2023年10月以降にガザで撮影された写真や映像を中心に展示する。

裸足のまま瓦礫の中でたたずむ子ども、野菜が実って辺り一面が緑色に染まる畑、電波を求めて長い棒の先に取り付けられたスマートフォン━。それぞれが、ガザの人々が送る日常の一場面を映し出す。

【画像集】ガザの人々を記録した、アメル・ナーセルさんの写真展

写真展は、東京藝術大学大学院の卒業生らでつくる実行委員会が主催。「作品を通して、ガザの現実やそこで生を営む人々に、多くの人が目を向ける機会になれば」と願い、企画したという。

実行委によると、ナーセルさんは爆撃で、自身の表現手段であるカメラとパソコンを失った。それでも、スマートフォンを使って現地で写真と映像の撮影を続け、インスタグラムなどのSNSで発信している。

電波が届きにくい環境でも、時間をかけて自身の作品を日本で待つ実行委へとネットで共有し、今回の企画が実現した。

実行委のメンバーで、東京藝術大学大学院の卒業生の砂守かずらさんは、「ガザの外にいる私たちは、パレスチナについて話し、今起きていることを可視化し続けないといけないと感じています」と話す。

「普段はスマホのサイズでしか見ることのできない写真を、ここでは大きくプリントアウトして展示しています。ガザの人たちを身近に感じてもらいたいです」

ナーセルさんは7月、スイスメディアLe Courrierに寄せたエッセイで、「『恐怖』という言葉では、私たちが生きている光景を十分に言い表すことはできない」と、思いを明かしている。

また「私の未来への希望は、ガザでの人間の経験に光を当て、私たちの声を世界に届けることに貢献するアートを生み出す能力にかかっている」「アートには障壁を超え、人々に影響を与える力があると信じている。それこそが目指すところだ」ともつづった。

【画像集】ガザの人々を記録した、アメル・ナーセルさんの写真展

写真展は12月3日まで。会場では、ナーセルさんの作品をモチーフにしたグッズが販売され、収益はナーセルさんへの寄付や個展の経費に充てられる。

展覧会の詳細は以下の通り。
会期:2024年11月26日(火)〜12月3日(火)
入場:無料
会場:東京藝術大学音楽学部キャンパス 大学会館2階 展示室
住所:東京都台東区上野公園12-8
時間:(平日)13:00〜18:00 /(土日)13:00〜19:00
主催・企画:GAZA. Signal of life実行委員会
共催:東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 毛利嘉孝研究室

(取材・執筆=國﨑万智@machiruda0702.bsky.social

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Machi Kunizaki