同じ職場で働いたことがあった。だけれど「結婚相談所がなければ、結ばれることはなかったと思う」ーー。
大輔さんと諒太さん=いずれも30代、仮名=は2年半前、ゲイ専用結婚相談所『ブリッジラウンジ』でお見合いし、今はパートナーとして、人生をともに歩んでいる。
パートナーを探せるツールは他にもある中で、2人が結婚相談所を使った理由とは。そしてなぜ、職場での恋愛が難しいと思ったのだろうか。
2人の半生から見えてきたのは、ゲイであることを「隠さざるを得ない社会」。それにより、数多くのハードルがあることだ。
だけれど誰かを好きになったり、一緒にいると安心したり。そんな本質は異性愛者と何も変わらない。2人が感じてきた痛み、幸せな日常をもとに、なぜ「ゲイ専用」の結婚相談所が必要なのか、紐解いていく。
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*ハフポスト日本版は「いいふうふの日」(11月22日)に合わせ、ゲイの人の恋愛・お見合いを特集します。全3回。この記事は中編です。
【前編】ゲイの「結婚相談所」ってどんなところ?隠さざるを得ない社会で「安心して楽しめる」お見合いの形【いいふうふの日】
諒太さんと大輔さんがブリッジラウンジを知ったのは、ルポ漫画『ぼくのはじめてゲイ婚活』(KADOKAWA、2018年)がきっかけだった。店長の田岡智美さんの前職での奮闘ぶりが描かれているこの本を読み、「こんなサービスがあるんだ」と前向きな気持ちになれた。
2人はなぜブリッジラウンジを選んだのか。諒太さんにとって、独身証明書が求められるなど、安心して利用できそうなところが大きかった。ゲイであることで、「マッチングアプリは、怖さと隣り合わせ」だと感じてきたからだ。
大学生のころゲイだと自覚するも、隠して生きてきた諒太さん。それでも恋愛に憧れて、ゲイ向けのマッチングアプリをダウンロードした。
だがその直後、部活の飲み会で後輩が「最近SNSでゲイ用のアプリがあるって知って」と話しているのを聞いた。自分のことが知られるかもしれないと恐怖を感じ、その場で慌てて顔写真を消した。
顔を出していないと出会いは厳しい。それでも細々と続け、知り合った相手と食事に行くことに。当時住んでいたのはコミュニティが狭い地元。だから生活エリアから遠い店を選んだ。だけれど大学の知人と鉢合わせてしまった。
就職での上京を機に、もう一度アプリを入れた。地元よりはるかに多い人が表示され、「ここでなら紛れられるかも」と思った。
だがある日、見知らぬ人に止めを刺された。諒太さんのプロフィールのスクリーンショットとともに、「記録したからな」という脅しのメッセージが送られてきた。
一度は「パートナー探しは諦めるしかないのかな」と思った。だがその年、生まれて初めて一人で「年越し」をし、「来年は誰かと一緒にいたいな」と思った。ルポ漫画を思い出し、勇気を出してブリッジラウンジの門を叩いた。
大輔さんは4年前、職場の同僚に恋をした経験が転機となった。それまで「他に方法がなかったから」ネットを使い、ゲイの人と会っていた。そうした出会いは見た目などを重視する傾向があると感じ、自分もその一人だった。
だが好きになった同僚は、見た目は好みではなかった。でも話すたびに楽しくて、賢いところにはキュンとした。仕事の価値観や好きなものが似ていて、意見が違う時も興味を持って聞き合えた。
以前は「刹那的な考えが強かった」が、「一緒にいると安らぐパートナーと、ともに生きていきたい」という、本当の望みを自覚した。
どんどん好きになっていく一方で、日に日に苦しくなった。それは同僚が、異性愛者だったから。答えは分かっていた上で、気持ちを伝えた。「話してくれてありがとう」と言ってくれた。
こうした経験を通し、気づいたことが2つある。どんなに関係を積み重ねても、性的指向がマッチしなければ恋愛は成立しないこと。そして見た目や性的な関係からではなく、相手のことを深く知って惹かれていくーー、そんな恋愛の形を望んでいるということだ。
だが同性愛者である以上、隠している人が多く、職場や学校での「自然恋愛」は難しい。お互いにゲイだと明かし、安心して向き合いたいと思い、お見合いを決めた。
諒太さんはこれまでの経験から、「傷つくことを言われないかな」と不安もあった。だが担当の田岡さんは、「ゲイであることを腫れ物や可哀想な対象ではなく、普通のこととして向き合ってくれた」。安心して己を開示できる、初めての感覚だった。
ゲイであることを隠さざるを得ない社会があるからこそ抱える課題もあった。例えば、恋愛の経験をしたくてもできなかった人が多いこと。諒太さんも最初はどんな人が良いか、明確に言えずに悩んだ。
また異性愛者にとっては、婚活で感じたことの相談を、友人や家族にするのは「普通のこと」かもしれない。だが同性愛者にとっては、カミングアウトが前提となるので難しい。
田岡さんは、そうした実情に向き合い、「一緒に探していきましょう」と言ってくれた。諒太さんは「お見合いの度に感じたことを共有し、『二人三脚』で支えてもらいました」。大輔さんも「担当の石垣桃さんが過去の恋愛経験も含めて向き合い、幸せの形を一緒に考えてくれた」と振り返る。
そんな2人がブリッジラウンジで出会ったのは、2022年の春。大輔さんは別の相談所(1年強活動)から移った直後、諒太さんは1年を超えたころだった。10分のお見合いの時点で「こんなに共通点が多くて、価値観が合う人がいるんだ…」と意気投合したという。
大きかったのは同業者だったこと。とはいえ価値観に共感できるとは限らず、最初はお互い手探りだったが「数値ではなく、目の前の人に誠実でありたい」という思いが一緒だった。大輔さんは「あたたかみのある人だなあ」と感じた。
愛読する少しマイナーな漫画は好きなシーンまで同じで、お好み焼きと言えば、麺が入った「広島風」。何より、なかなか被らない「きゅうりが嫌い」なところも一緒だった。分かった瞬間「仲間だ!」(大輔さん)、「これがご縁というやつか!」(諒太さん)と、電撃が走った。
大輔さんはLINEが苦手だったが、諒太さんとなら、テンポ感も同じで心地良かった。将来について、大輔さんは「パートナーができたら親に紹介したい」、諒太さんは「自分の親には話しづらいけど、相手の家族には挨拶したい」といった本音も、少しずつ共有していった。
池袋の中華料理屋に行った3回目のデート。大輔さんから「僕は恋愛対象にはなれそうですか?」と切り出し、付き合ってほしいと伝えた。諒太さんは「僕も同じ気持ちです」と頷いた。
付き合うまで、レールに乗ったようにあっという間だった2人。実は2回目のデートで、「(所属こそ違うものの)数回だけ、同じ職場で働いたことがある」ことが判明した。
だが2人は「結婚相談所がなければ、結ばれることはなかったと思います」と口を揃える。
背景には周囲の発言に痛みを感じ、セクシュアリティを隠す当事者が多いことがある。
実際、諒太さんは「恋愛に興味がないキャラ」を演じてきた。「もし仮に仕事で大輔さんに惹かれたとしても、思いを伝えることはできなかった」と想像する。
大輔さんは「ゲイにとって職場恋愛はリスクが高いと思うんです。相手のセクシュアリティが分からないところから始まり、告白はカミングアウトが前提です。そして(本人の許可なく性のあり方を暴露する)アウティングの怖さも考えないといけないですよね」と指摘。
だから「ゲイ専用の結婚相談所があるって、すごく大きいことだと思うんです」。
2年半がたった今、引っ越して「ご近所さん」になった2人。一緒に動画を見たり、休日は散歩して「あの和菓子屋は風情があるね」などと話したりーー。そんな何気ない日常の中で、大輔さんは、共感するようになった短歌がある。俵万智さんの『サラダ記念日』の一首だ。
『「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ』
大輔さんは友人から「写真を撮るようになったね」と言われるようになった。ある日の帰り道、きれいな夕焼け空を見て、自然とスマホを向けていた。「諒太くんと共有したいな」と思ったから。美味しいものを食べた時はLINEで写真を送り、後日諒太さんからも別の料理で「仕返し」される。そんな日常が愛おしい。
誰にも言えず「一人きりで死ぬのかな」と孤独感があった諒太さんは、「雰囲気が柔らかくなったね」と言われるように。これまで「自分は誰にも受け入れてもらえない存在だ」と感じ、人の役に立たなければと、自分を追い込むように勉強や仕事を必死で頑張ってきた。でも大輔さんといる安心感が、そんな角を取ってくれた。
大輔さんはゲイの自分とそうでない自分、その2つが1つになった感覚があると打ち明ける。これまで異性愛者のふりをする「二重生活」をしていたが、諒太さんがいる今、どちらも大切にできている。
大輔さんの夢だった「親への紹介」も叶った。昔カミングアウトした時は「まさか男と付き合っているんじゃないでしょうね」と怒られ、売り言葉に買い言葉で伝えた。でも母はそれを機に、LGBTQに関する動画を見て学ぶようになり、今は「息子が2人できたみたい」と喜んでくれている。
安心して誰かと出会うこと、好きな人とともに生きること、それを周囲に祝福してもらうことーー。「ゲイ専用」の結婚相談所があったから、諦めていたことを叶えることができた。
ただ今も時折「同性愛者は、社会ではまだ普通ではないんだな」と感じさせられ、胸が痛むことも。例えば旅行でのホテルの予約。ダブルベッドの部屋をとり、受付で変な空気になってしまったことがある。
「誰かを好きになったり、一緒にいると安心したり。自分たちの生活も、よくある『普通』のものだと思うんです。そんな認識が広がってくれたら嬉しいなって」
事実上は結婚と同じように、パートナーとして生活する「いいふうふ」になった2人。だが日本では、結婚の平等(いわゆる同性婚)が認められていない。今は困りごとがないけれど、いつかしたいと思う日が来るかもしれない。だから「選択肢として、あってほしい」と願う。
そんな2人の縁を結んだブリッジラウンジの店長・田岡さんには夢がある。それは「同性同士が手を繋いで歩いていても好奇の目で見られない社会を見届けること」。
大輔さんと諒太さんはそれを聞き、胸がじんわり温まるのと同時に「そうなってほしいね」と強く共感する。
いろんなことが「できないのが前提」だった2人がこう思えた原点は、ブリッジラウンジが「ゲイの結婚」相談所を名乗ってくれたこと。
「自分たちにも、いろんな可能性があるんだって思えたんですよね。そしてもっと多くの人が、そう感じられる未来が良いなって。その一歩としてゲイの『結婚』相談所が、言葉通りに実現できる社会になってほしい。そんな日が来ることを、強く願っています」
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉
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